幕間 三
時刻は、
「フゥ……夜風が涼しいねェ」
提灯を掲げ、軽い足取りで、一人の男が歩いていた。少し酔っているのだろう、その頬はほんのりと朱に染まっている。
男は遊廓で馴染みの遊女と遊び、帰路についているところだった。本当ならば朝まで床を共にしたかったところだったが、明日も早くから自分の店に出なければならなかった。
煌々とした月明かりが、一人道の中央を歩く男を照らす。が、その行く手に、不意に影が差し掛かった。
「ン……?」
それは、粗野な身なりをした髭面の大男だった。大男は男の行く手を阻むように、月明かりを背に仁王立ちになっている。
異様だったのは、その体躯だ。身の丈八尺程もあるその大男は、狂気を孕んだぎらつく目で正面の男を見据えていた。
「――どこだ」
低く唸るような声で、大男が言った。その、まるで地獄の獄卒のような声に、男の背にぶるりと寒気が走った。
「どこだ……
「な……何だ。せつなんて知らねえ、俺は知らねえ」
「嘘こくでねェ!!」
すっかり酔いの覚めた男の答えに、大男は苛立たしげに足を大きく踏み鳴らした。まるで地面が揺れたような錯覚に陥り、男の芯がますます冷えて縮み上がる。
「おめの体から、
「ほ、本当に俺は何も知ら……」
「返せ!
そう狂ったように叫び、自分に向かって突進してくる大男を、男は失禁しながらただ見ているしか出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます