第6話 曖昧なサイン
僕は、天を仰いだ。僕はさっき死んだはずだ。なのに、どうしてまだこんなところにいるんだろうか。隣を見る。女の子が四つん這いになって上がっている息を整えている。この子が、僕を、こんなクソみたいな世界に引き戻したのか。どうしてだ。僕はこのこと面識があるわけでもない。なのに、どうして、
僕の自殺を止めることができたんだ…
〜時を遡り、4段目の階段に一人の少女が座っている。よく見るとその少女はブツブツと何かを言っている。
「…そんなこと出来ないよ」
見える人にはわかるだろう。少女は人ならざるものと話していた、この世で〈幽霊〉と呼ばれる存在と。
「えー、さっきやってくれるっていったじゃないかぁ」
その〈幽霊〉は黒い髪にアゲハ蝶の髪飾りをつけた少女。最近この学校で噂されている『階段の史奈さん』だ。見かけは美少女だ。生きていればモテモテだろう。けれど、彼女は誰にも見えない。正確には“見える人には見えるけれど、ほとんどの人はその姿を見ることはできない”が一番適当な表現だろう。
「一番初めの仕事がそんな重いものなんて聞いてない」
「だって今言ったもの」
「死んじまえ!」
「残念だったね、もう死んでるよ。悲しいことに」
この少女も災難なものだ。望んでもいないのに、〈幽霊〉という面倒な存在が見えてしまうなんて。この少女の名前は幽ヶ岡 椎名。椎名はこの『階段の史奈さん』のお手伝いに抜擢?されたのだ。そんな椎名は今嘆いている。まさか最初の仕事が
自殺を止めることなんて誰が想像しただろう
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