第5話 交渉2

昔から見えていた私は何も知らずにこの世の中で〈幽霊〉と呼ばれる存在と関わることがあった。それは良いことだと思っていたし、その者たちが生きていない存在だと判断するのもなかなか出来なかった。なんたって同じように街中にいるのだから。小さかった私は区別のしようがない。

公園で一人の男の子がいた。その子の名前はかい。どうして死んでしまったのか知らなかった。寧ろ興味がなかったの方が表現は正しいと思う。そう、興味がなかった。私は遊び相手が欲しかった、それだけだった。でも、……知ってしまったのだ。死んでしまった者は、生きている人のことはどうでもいいんだと。自分は死んでいるから、誰が生きて誰が死んでもどうでもいいんだと。



『階段の史奈さん』と私は向き合った。私がはっきりと断ったことに彼女は大変驚いていた。何故にそんなに驚くのだろう。

「君がそんなにはっきり断れる人間だとは思っていなかった」

失礼極まりない発言をするな、この人。

「どうして私に頼むの?貴方が勝手に解決してあげればいいじゃない」

相談されているのは『階段の史奈さん』で私ではない。彼女は顎に手を当て、考える仕草をして、はっきり言う。

「だって面倒臭いもの」

「それって考える必要あった?」

私はため息をつく。面倒なのは今この状況だ。

「……私は面倒なことに巻き込まれたくないの。わかるでしょ?」

「君だって知っているだろう」

「何を?」


「死んでいる者が、生きている者の面倒ごとや気持ちなんてどうでもいいってことを」


私はその言葉に言葉を失った。何も言えなかった。じゃぁ、何?私が立ち止まってしまったことが運の尽きとでも言いたいの?ふざけないで、ふざけないで


「ふざけないで!!!!!私だって望んでいた訳じゃない!」


叫ぶ私を見下ろしている『階段の史奈さん』の目は、生気がない。そうか、この子は


死んでいるんだな


その目を見て、彼女を知りたくなった。誰にでも持っている〈好奇心〉が、私の〈好奇心〉が、彼女に向いた。


『階段の史奈さん』は

どうして死んでしまったんだろう。

どうしてここにいるんだろう。


彼女は一体何者なんだろう。



「……何を解決すればいいの?解決すれば私は何を得ることができるの?」

私は『階段の史奈さん』の目を見た。彼女の唇は釣り上がる。

「やっとやる気が出た?

…そうだね、じゃぁ……、これを解決してもらおうか」

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