第4話

もしただの噂だったとしても試すだけでいい。微かな期待があるのなら、縋りたい。聞きたいことがあるの。


第四話 何で死んだの


私には一人娘がいた。娘が生まれてすぐ、夫とは離婚した。私は仕事が忙しくて、よく祖母に子守を頼んでいた。

「ごめん、今日もよろしく。」

「いいわよ、一緒に遊ぼうねー。」

「うん!」

だからか娘は私より祖母によく懐いていた。

「今日はねー、お絵かきして遊んだんだ!」

そう言って、みせてくれたのは私の似顔絵だった。

「ありがとう〜!上手に描けたね。」

明るく振る舞いながらも心苦しさがあった。

それでも、せめてもの思いで休みの日にはできる限り一緒に遊ぶようにした。

「今日は公園に行こっか。」

「やったー!ママとお出かけだ!」

走りまわる娘を追いかけてあげる元気はなかった。でも、出来る限り砂で遊んだりしてみた。


でも、足りなかったんだ。

ある日突然祖母が死んだ。それはとても安らかに。祖母は幸せな最期を迎えられたと思う。いつものように寝たと思えばそのまま永遠の眠りについた。それからは娘を見てくれる人が居なくなってよく一人にしてしまっていた。

「いつもわがまま言っちゃってごめんね。」

娘は私に寂しそうな顔をして言うのだ。こんなにも苦しいことはない。本当に私は駄目な母親だ。



「ただいま」

今日はいつもより早く帰ることができて少し遊べる。そう思った。なのに。

「おかえり」が返ってこなかった。

娘の姿がなかった。放心状態な私に告げられた言葉はもっと私を苦しめた。

「娘さんは○○の踏切に引かれて亡くなりました。」

何で一人で踏切なんて行ってたの?

疑問と後悔が私の中を埋めつくす。


少し、ほんの少し落ち着いてから私はある場所へ向かった。

噂で聞いたことがある、あの踏切へ。


踏切には小さな女の子が立っている。子供にしては雰囲気がおかしい。

「貴方は死者に会えるなら会いに行きますか?多少のリスクを負ってでも会いに行きますか?そうそう、ここには…

死者の世界に行けるという踏切があるらしいですよ。」


ここでは、合言葉を言わなければいけないらしい。

『そんな勇気、私にはありません。でも私は踏切を渡ります。』


「分かりました。では、ルールを確認させていただきます。

1、合言葉を言うこと-クリア

2、会いに行けるのは1人1回、1人まで

3、踏切を越えたら会いたい人の名前を呼ぶこと

4、制限時間は踏切のバーが上がっている時だけ

たったこれだけです。問題ないでしょう?」


「では踏切が開きます。私も共にいきますから大丈夫ですよ。

これが私の仕事です。」


カーンカーンカーン

踏切の音が聞こえる。私達は渡る。娘が亡くなった、この踏切を。

「では名前を。」

『水瀬 祈』

どれだけ呼んでも『水瀬 祈』は来ない。

「ねぇ、来ないじゃない。どういうことよ!」

「来ていますよ。ミズセ イノリは確かに私です。」

「貴方が祈なの?」

確かに顔は似ている気もするが、祈には見えない。

「ええ、そうですけど。」

「私を覚えてない?」

「覚えていませんが、先程の話から推測するに私の母ですよね。仕方ありません。私は此の世に来た時点で、記憶がリセットされていますから。」

「そう、じゃあ何で死んだかも覚えてないの?」

「はい。」

「祈はさっき渡った踏切で列車に引かれて死んだのよ。何であんな所に1人でいたのよ。」

すると、急に祈と名乗る彼女は何かに取り憑かれたように動き出した。


『一時的にデータを復元します。』


この子の様子が一気に幼くなる。

ああ、祈だ。

「…っ、祈。」

そして、淡々とあの日起こったことを話し始めた。

「わたしは、あの日おばあちゃんに会いにいったの。友だちから聞いたんだ。『そんな勇気、私にはありません。でも私はこの踏切を渡ります。』そう言えば、死んじゃったおばあちゃんに会えるって。もっとおばあちゃんと遊びたかったの。」

「ああ、じゃあ祈は…」

「ずっとおばあちゃんと遊んでたらね、踏切が閉まっちゃったんだ。」


〜〜〜〜


「あら、祈ちゃん。久しぶりね。」

「おばあちゃん!」

毎日あったことを話した。

「その日はお母さんと公園に行ってねお砂遊びをしたんだよ。ママ凄いんだ。すっごくキレイなお城を作ってくれたんだ。

でも最近お仕事が忙しいみたい。ママ大丈夫かな?わがまま言っちゃダメってわかってるんだけどやっぱりさみしいんだ。」

「そっか。祈ちゃんも大変なんだね。」


カーンカーンカーン

わたしはその音に気づかなかった。

「祈ちゃん、走って!」

おばあちゃんの声が聞こえた時にはもう遅かった。電車がわたしをひいていった。


〜〜〜〜〜


私のせいだ。私のせいでこの子が死んだ。私が仕事を優先してしまったから。寂しい想いをさせてしまったから。

「ごめんね、ごめんね、祈。」

私は子供のように泣き噦る。そして強く強く抱き締める。祈は屈託無い笑顔を見せる。

「いいんだよ、わたしが悪いんだもん。わたしは、ママがママでよかった。ちゃんと幸せだったよ。仕事が休みの時はつかれてるのに遊んでくれて。本当に楽しかったよ。」

「祈、っ…祈!」

カーンカーンカーン

踏切が鳴る。

「ママ、いって。」

「イヤよ、せっかく会えたのに。」

「ダメだよ。早く!!!ママまでわたしと一緒になっちゃダメ!!!」

歯をくいしばる。

「祈、記憶がなくてもあなたは私の大切な娘よ。愛してるから!」

私は駆け出す。外へ出た瞬間バーが下がった。最後に見えた祈の姿。彼女の声は聞こえなかった。でも、私には確かに聞こえた。

『私もママが大好きだよ!』

祈、待っててね。ママもいつかもう一度会いにいくから。その時はもうずっと一緒だよ。

また一緒にいっぱい遊ぼうね。


『データを削除します。』


あれ?何で泣いているのでしょう?何か変な気持ちですね。ああ、また次の方がいらっしゃいました。私はまたプログラム通りに仕事をこなさなければ。


「貴方は死者に会えるなら会いに行きますか?多少のリスクを負ってでも会いに行きますか?そうそう、ここには…

死者の世界に行けるという踏切があるらしいですよ。」

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踏切列車 @PJOMY

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