第23話 スライムの革
「では、ちょっと革屋さんを見てきます」
ヤマダは老職人に教えてもらった革屋に出かける。そこは馬車の製造工場から100mほど先にあった場所にあった。
「こんにちは。こちらにスライムの皮があるって聞きましたが」
ヤマダはそう言って店に入った。店にはいろんな革が加工されて布のように並べてある。革屋の店員はオレンジ髪のくるくるした可愛い女の子だ。年の頃は13,4歳くらいであろうか。
「あら、噂をすればウサギのおじさんじゃないですか」
どうやら、この女の子。先ほどの騒ぎを見ていたらしい。
「ヤマダと言います」
「わたしはメロリーナと言います。このサム&アリソン革店の看板娘です」
そう言ってメロリーナは右手の人差し指をほっぺに付けた。この仕草は超可愛いのだが、おっさんのヤマダには響かない。おっさんにとって、子どもは無邪気にしか思えないものだ。
「ちょっと、聞きたいのだが、店の主人はいないの?」
看板娘とはいえ、子供のメロリーナには商品知識はないだろうと考えて、そうヤマダは尋ねたのだが、これはメロリーナの自信をいささか傷つけたようだ。少し、頬を膨らませてこう答えた。
「お父さんもお母さんも今は仕入れに出ています。この店にある商品については、全部わたしは知っています。どんな革が必要なんですか?」
「スライムの革なんだ」
ヤマダはそう答えた。ゴムのような性質があるというから、きっと店頭には置いてないだろうと思ったのだ。目の前にあるのは家具に貼り付けるとか、馬車の壁内装に使うだとか装飾品に使う革なのだ。
「へえ、珍しいものを探しに来たね」
そうメロリーナは答えて、人差し指で鼻の下をこすった。どうやら、この娘、スライムの革のことを知っているようだ。
「スライムをまるごと活性ソーダに漬け込むとトロトロに溶けるんですが、それを水にさらすとネバネバとろとろの液体になります」
メロリーナはそう言って、店の奥にあった大きな壺の蓋を取った。ちょっと、石油臭い異臭が鼻を突き刺す。メロリーナも左手で鼻をつまんでいる。
「こんな液体を革というのか?」
「これに塩を混ぜると固まるんです。ドロドロの液体が固まって弾力のあるものに変わります。これをスライムの革と呼んでいます。防水効果があるので、住宅の窓の目張り鎧の可動部分、衝撃を和らげる効果を使って盾の間に挟むとに使えるんですよ」
「へえ……」
メロリーナが少し壺から取り出して、塩で練るとやがて固まった。指で突っつくと弾力がある。まるでゴムの塊だ。
「これは使えそうだ。これを荷車の車輪の周りに分厚くコーティングしようと思うんだ」
「ヤマダさん、面白いことを考えますね」
「弾力があると衝撃を吸収するし、転がり安くなると思うんだ」
「なるほど。塩を混ぜなければ形を加工しやすいし、型を作って当てはめればうまくいくかもしれませんね」
メロリーナはヤマダのアイデアに感心したようだ。ヤマダはこのスライムの革の値段を聞く。大きな壺で金貨1枚。結構な値段だ。ちゃちな荷車の改造にこれだけ使うのは躊躇したが、バイトで効率よく稼ぐための手段として投資しようと考えた。
「これでよろしく。壺は馬車の工場に配達できます」
「配達は銅貨3枚です」
メロリーナちゃっかりしている。ヤマダはもう一度、馬車工場に戻り、老職人と打ち合わせをする。どうやって車輪にコーティングするかの相談である。
「車輪の型枠があるからな。少し大きめのやつにその車輪をはめて、スライムの皮を流し込めばうまくいくと思う」
「じゃあ、明日までにできます?」
「大した作業じゃなさそうだし、銀貨3枚でやってやるよ。先ほどのお前さんの活躍へのご褒美だ」
そう老職人は約束してくれた。スライムの革が届き次第、作業に取り掛かるという。
「お願いしますね」
荷車の改良がうまくいけば、配達スピードが上がる。上がれば大量の野菜を運ぶことができる。それはヤマダの収入を上げることに繋がるのだ。
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