第20話 てへペロは10代まで
「チョコ様。今日のアプローチはいささか雑だと思います。わざと失敗して、てへペロが許されるのは10代までです」
チョコの机を雑巾で拭きながら、エリスはそうチョコに今日の出来事へのコメントを話す。チョコの顔は真っ赤である。失敗に突っ込まれるのも恥ずかしいが、あの自分の姿を思い出すだけでも恥ずかしい。
「わ、私はこの本に書かれていることが本当か試しただけです」
「はあ……。そんな本、人によりけりです。チョコ様には合わないかと……」
「そ、そんなことはない。ヤマダさんは……」
「とにかく、チョコ様。勇者としての自覚をもってください。あんなおっさんウサギ男なんかに構っている暇はありません」
そう言うとエリスは来週の予定をチョコに告げる。来週は帝国の都から招集がかかっており、そこへいかないといけない。
都までは馬車で2週間以上もかかる旅になるが、主要都市に住んでいれ移動魔法『ゲート』があるから、1日もかからない。多少の時差はあるから時間を計算する必要はあるが。
「それにしても、ヤマダさんの事務処理能力はすごいよ。やっぱり、ヤマダさんはすごい」
チョコは一心不乱に仕事をしていたヤマダの姿を思い出す。思い出しただけで、もう体がウズウズして液体に溶かされていくようだ。
「あの真剣な顔」
「集中力」
「そしてミスを見逃さないするどい目と頭」
本当は殺されたくない一心で、老眼になりかけの目を酷使し、頭脳をフル回転させていたのだが、その姿が勇者チョコの心を虜にした。それでポーッとヤマダを見続けてしまい、いつもの仕事量の半分も進まなかった。
「ねえ、エリス、仕事のできる大人の男の人って、すごくいいよね~」
(な、何をいっているんですか、チョコ様~。おっさんですよ、ウサギ男ですよ。さっきの姿は殺されたくて必死に仕事していた小心者としか私にはみえませんでしたよ~)
バケツで雑巾をすすぎ、キュッと絞ったエリスは力を入れすぎた。布の繊維が半分までブチブチと切れてしまった。
「チョコ様、やはりヤマダさんに固執するのはあまり感心しません。あの人は何か隠していると私は思うのです」
「隠している?」
「そうです。そもそも、あの人は魔界からこの町に送られたモンスターの集団の一部だったんですよ」
「それもそうね」
「私を置いて、エヴェリン様とささっと退治に行ってしまわれましたが」
「ああ、あれはちょっと運動したい気分だったから」
「私が寝ている隙に討伐に行くのはヒドイと思います」
「あれはエヴェリンさんが急に行きましょうとか言って、夜中にやってきたからです。それにあのモンスターの構成じゃ、あなたの出番はなかったですよ」
「それはそうですが……」
エリスは唇を噛んで言葉を止めた。自分が参加していれば、ウサギ男など瞬殺で葬ったに違いない。そうすればチョコがあろうことかおっさんウサギ男に恋するなんて事態は避けられたはずだ。
「とにかく、あのウサギ男は何かを隠しています。注意してくださいね!」
護衛侍女の主張に(むう……)と膨れた勇者チョコであった。
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