第16話 カードを作ろう

 ウサギ男ヤマダは、命の貴さを改めて噛みしめている。勇者パーティの事務所である貴族の別邸から、自分が借りた森の丸太小屋までトボトボと歩きながら、今、自分が生きていることに感謝をしていた。

 誰に?

 神様と言いたいところだが、この世界の神様は魔界の生物には敵である。だから、改造人間のヤマダは神には感謝しない。神はあのおっかない女勇者の召喚に手を貸し、あの可愛い顔をした恐ろしい女司祭を祝福する敵なのだ。

 丸太小屋が近づくに連れて、足が急に軽くなるヤマダ。やっぱり、死の恐怖から逃れられることは嬉しいことだ。

 ドアを開ける。当然、誰もいないはずだ。その方がいい。命を拾ったのだから、誰とも離さず、一人で生を噛み締めたい。だが、そんなヤマダの囁かな願いは無と化した。

 玄関入ったリビングのソファで大いびきをかいて寝ている生物発見。完全な干物状態の干物女。

 モグ子である。

 ヤマダはぐうぐうと寝ているモグ子の鼻をつまんだ。ぷうぷうと変な寝息をたてだしたモグ子。顔が徐々に真っ赤になって頬が膨らんできた。

「んんん~っ」

「ぷいいいいいっ~」

 口で息をして目が覚めたモグ子。ヤマダと目と目が合う。

「ふぇえええええっ~でモグ」

「ふぇええっってなんだよ!」

「ヤマダが化けて出たと思ったでモグ」

「なんで俺が化けねばならぬ」

「だって、あの女勇者に八つ裂きされたと思ったでモグ。あの惚れ薬を飲ませるのを失敗して、今頃、首だけプランプランと……」

「怖いこと言うなよ!」

 ヤマダはモグ子のほっぺたをつねる。痛いと嫌がるモグ子。

「モグ子、俺は女勇者にあの惚れ薬を飲ませたぞ」

「え?」

「その期待していないのにやっちゃったのかよという顔をするなよ」

「いや、ヤマダには絶対無理だと思っていたでモグ。それじゃあ、任務達成でモグか?」

 ヤマダはもう一方のモグ子のほっぺたをつねる。

「痛い、痛いでモグ」

「あの惚れ薬、全く効かなかったぞ。一体、なんの薬を持ってきたんだよ」

「効かなかったでモグ?」

「ああ、全く効果なし」

「おかしいでモグ。勇者には毒薬に対する耐性があるでモグか?」

「知らん。最強で最凶というのなら、それくらいあるんじゃないのか?」

「そうでモグか……これは新しい情報でモグ。魔王様に伝えないといけないでモグ……」

 ブツブツとなにやらつぶやきだしたモグ子。もうヤマダは面倒になった。魔王の直属の命令を受けるモグ子を見ただけで、魔王軍はどうみてもポンコツだ。だが、どんなのやばくて負けそうでも、勇者側に付く選択はない。

(勇者側についた方がいいに決まっているが、命の保証はない。何しろ、自分の今の立場はペット枠だからな……下手に動くと本当に殺される……)

 どうすれば生き残れるのか、真剣に考えているヤマダを尻目に、モグ子は大きなあくびをして背伸びをした。さっきまで寝ていたところをヤマダに起こされたから、まだ寝足りないのだろう。全く呑気な魔界からのメッセンジャーである。

「ああ、ヤマダ、モグ子はお腹が減ったでモグ」

「はあ?」

「お腹が減ったでモグ。何か食べに行こうでモグ」

「確かに今は昼飯の時間を30分ほど過ぎたところだ。だが、敢えてお前に聞こうじゃないか。なぜ、俺がお前と昼飯を食べに行かないといけないのだ?」

 モグ子はキョトンとして、そして両方の手のひらを上に向けて首をゆっくりと振った。『何も知らないのね、この改造人間、ばか~あ?』と顔に書いてある。

「決まっているでモグ。接待でモグ。モグ子は魔王様の直属のメッセンジャーでモグ。いわば、将軍直属のお庭番、首相直属のMI6、大統領直属のシークレットサービスでモグ」

「全く、例えていることが理解できないが……」

「だから、モグ子の機嫌を取れば、魔王様にいい評価が伝わるでモグ。これはいわゆる賄賂でモグ」

(ああ……この子、自分で賄賂って言っちゃっているよ……)

 ふんふん……と、さも当たり前のようにとんでもない理由で飯をたかろうとしているモグ子。実に残念な子だ。

 それでもヤマダのお腹も先程から空腹を知らせる合図がなっているし、モグ子もぐうぐうお腹が鳴っている。昨日の夜に作った芋粥しか食べていないから当たり前である。

「仕方がない、モグ子、町へ食べに行こう」

「そう来なくっちゃ……魔王様にはウサギ男ヤマダは、大変優秀な改造人間でしたよと報告しておくでモグ」

「いや、それは必要ない。割り勘だからな」

「ぶう~。魔王様にウサギ男ヤマダは、大変間抜けな改造人間でしたと報告するでモグ」

「俺はお前のそういうところがダメだと思うけどな……」

 ヤマダにとって、魔王の評価はどうでもいい。任務を果たせば、一つだけ願いをかなえられる。人間の体に戻してもらい、元の世界へ送還してもらえばいい話だ。魔王軍で出世するつもりは毛頭ない。

 昼過ぎのガダニーニの町。人々は昼食を食べ終えて昼からの仕事へ向かう。そんな中をヤマダとモグ子が歩いている。キョロキョロと美味しそうな店はないかと見回す。町の人々はそんなヤマダとモグ子に関心がない。明らかに変な格好なのだが、エルフやドワーフなどの亜人を見慣れているせいか、改造人間風情に驚くことがないようだ。

 ヤマダの付けている首輪の信頼も大きい。よく見れば、モグ子には付いていないので、これは魔界の手先だと騒いでもよさそうだが、見た目、可愛い女の子のモグ子に恐怖を覚える人間はいないのだろう。

「あれがいいでモグ……美味しそうでモグ」

 モグ子が指さしたのは、広場に臨時で店を出している屋台だ。そこで調理されていたのは、丸い形のパンにハンバーグと野菜、チーズをはさんだもの。ぶっちゃけ、ハンバーガーだ。炭火でじっくりと焼かれたそれは肉汁が吹き出し、匂いからして食欲をそそる。

「モグ子、お前、改造人間モグラ女なら、ミミズとか食べるんじゃないのか?」

「それを言うなら、ウサギのおっさんはニンジンを食べるでモグ」

 モグ子もヤマダも改造人間である。改造人間は人間をベースにしているから、原則、人間と同じものを食べる。よって、香ばしいハンバーガーと付け合せのフライドポテトはご馳走なのである。

「ダブルチーズバーガー1つと普通の1つ。付け合せのポテトは大盛りでお願いします。飲み物は冷たいビールとオレンジジュース」

 ヤマダはそう店員に注文を出す。店員はヤマダとモグ子のヘンテコな格好でも、全く動じず、普通に注文を受けてくれた。この世界には実に多様性に対して、寛容であるとヤマダは思った。

 やがて、ボリュームたっぷりの熱々のハンバーガーが運ばれてきた。木のプレートに乗せられたそれは、実に食欲をそそる。そして、手づかみでかぶりつく。肉汁が口の中に溢れ出す。肉の快感。

(うひょ~っ。これはうめええええっ……)

 そしてよく冷やされたビール。なんで冷えているのか少々疑問であるが、きっと魔法を応用したのであろう。そんなことは大した問題ではない。

 目の前のガラスのジョッキに入った冷えたビール。昼間からこれをグビグビのめるのは、おっさんにとっては至福のである。

(ゴクリ……)

 ヤマダは喉を鳴らした。そしてジョッキに口を付ける。最初に唇にあたる冷たい感覚。それが口にあふれ、喉を通過して胃袋へ入るのが分かる。

(あああ……これは……もう……カ・イ・カ・ン)

 そしてハンバーガーへかぶりつく。そして冷えたビールをゴクリ。

(もうたまらん……)

「昼からビールを飲むとは、やはりヤマダはおっさんでモグ」

「うるさい、これはおっさんの楽しみだ。ションベン臭い小娘には分かるまい」

「分かりたくもないでモグ」

 そう言いながらもモグ子もうまそうに食べている。この昼飯の選択は間違っていなかったようだ。

「もうあんたなんか嫌いよ、顔を見たくはないわ!」

「それを言うなら俺もだ、ブス!」

「なんですって、この軟弱男!」

 ヤマダとモグ子が無我夢中で食べている隣のテーブルで、1組のカップルが喧嘩を始めた。町に住む若い男女だ。ブス、軟弱男と罵るが、容姿は普通。どこにでもいるモブ級クオリティの2人だ。

(やれやれ……。美味しいハンバーガーが不味くなるじゃないか……)

 ヤマダは閉口した。食事時に他人の罵倒しあう光景は見たくはない。

(そうだ……そういえば、もう1錠あったな……)

 ヤマダはポケットにあの『惚れ薬』があったことを思い出した。ユリの花から取り出して勇者チョコに飲ませた残りの1錠だ。

(この薬が効くか試してみよう……半分でも効くかな?)

 ヤマダは1錠の錠剤を半分に割った。それを言い争う2人の客の飲み物へと投入した。激しい喧嘩をしているから、テーブルの端にあるコップにこっそり入れても気づいていない。

「もう顔を見せないで。不愉快だわ!」

「ああ、お前も二度と俺の前に顔を出すなよ!」

 二人はそう叫んで立ち上がり、コップの飲み物を飲み干して、このコップをテーブルに叩きつけた。

「好き!」

「俺も好きだよ、マイハニー~」

 手を握りあって、そのまま椅子に座るカップル。もう互いの目はハートマークだ。

(な、なんという即効性、なんという効果。魔王様、ごめんなさい。あなたはなんとすごい魔法の薬をくれたのですか……)

 ヤマダは魔王のくれたものがクズでなかったことを知った。それと同時にそんなすごい薬を飲んでも、なんともない女勇者に畏怖を新たにした。

(やはり、勇者チョコ……薬への抵抗力が半端ない……)

 実際のところ、半端ないのはヤマダへの愛情が半端なく、惚れ薬の効果を上書きしてしまっているだけであるが。それをヤマダが知る由もない。

「さて、代金を払う時になったわけだが、モグ子、このハンバーガーは銅貨5枚のわけだが、お前はどうやって払うのだ?」

 支払いの段階になって、ヤマダはポケットから銅貨5枚を取り出した。モグ子と割り勘と言ったが、本当のところはケチらずに支払ってやろうかと思ったが、正直、ヤマダの懐は余裕がない。

「モグ子はこれで払うモグ」

 モグ子が出したのは銀色のカードだ。それはまるでクレジットカードのような形状をしている。

「何だ、それは?」

「知らないでモグか。無知なおっさんはキモイでモグ」

「知るわけないだろ。俺はお前にラチられて改造されたのが1週間前。この世界のことは知らないことが多いのだ」

 お金についてはファンタジー世界の定番通り、希少価値が高い金、銀、銅が貨幣として使われていることは知っている。最初に護衛侍女(ガードレディ)のエリスにお金を渡されたからだ。だが、街での買い物を見ていると少額の場合は、その貨幣で支払っているが、中にはモグ子が持っているようなカードで払っている人間もいたことを思い出した。

「これはマジックペイでモグ」

「マジックペイ?」

「そうでモグ。金貨や銀貨は重いでモグ。持ち運びは大変でモグ」

 モグ子が説明をしだした。このマジックペイは人間世界の経済を担当している中央ギルドの銀行が発行しているカードだ。それはギルド銀行が保有している金、銀、銅の量により発行しているポイントが魔法によって記憶されているのだ。

 カードの所有者は、自分がギルド銀行に預けたお金をポイント化し、それを支払いに当てることで自由に消費活動ができるのだ。

「なるほど、デビットカードみたいなものか」

「各国で発行されている金貨の種類は違うでモグが、銀行で預ければその価値に応じたポイントを使えるでモグ。カードは所有する本人しか使えないよう、5重の魔法暗号で管理されているでモグ。物騒な世の中だから、旅する人間には必須アイテムでモグ」

「なるほど……それはよくできている」

 正直、仕組みはよく分からないが、そこは魔法という単語でわかったように錯覚させたヤマダ。このカードは所有するに値するものであると判断した。

「ヤマダは持っていないでモグか?」

「ああ。今、そのカードの存在を知ったのだ」

「この世界に住む真っ当な人間は全員持っているでモグ。持っていない人間は、底辺ランクの人間でモグ」

「改造人間のお前でさえ持っているのだ。それは理解できる。それで俺としては、そのカードを作りたいのだが」

 ヤマダはそのマジックペイというカードを手に入れたくなった。正直、エリスからもらったお金も小さな袋へ入れてベルトに吊り下げているが、重いし、落としたら終わりである。また、街で窃盗に合う可能性だってある。

 できるおっさんなら、そのカードは絶対に手に入れるべきカードだ。支払いはカードで一括。実にスマートな支払い方法である。ただ、クレジットカードでないようなので、手持ちのわずかなお金分でしか効力はないが。

「カードはギルド銀行で作れるのだよな?」

「モグ子でも作れたから、簡単でモグ」

「お前、いつの間に作ったんだよ」

 モグ子は任務の度に人間の住む町へと侵入する。その際、工作活動(たべあるき)をするために作ったのだという。

「じゃあ、この後、俺もそのカードを作りにギルド銀行へ行く」

「モグ子も行くでモグ」

 ギルド銀行はどんな町にでも1つはある。それは人間世界の津々浦々まで金融網を張り巡らせている。おかげで誰もがキャッシュレスで消費生活が送れ、報酬の受け取りも簡単にポイントで受け取ることができた。

 そのシステムは複雑に絡んだ五重の防護魔法で守られ、専門の魔法使いが24時間体制で監視、プロテクトの解除コードは6時間おきに変更されるという。

 そしてそのサービスを受けるためには、ギルド銀行の支店に行き、登録していくらか預けるだけだ。但し、人間の場合である。

 ヤマダは改造人間ウサギ男である。人間でないヤマダが銀行カードを作れるかというと甚だ疑問であるが、モグ子も持っているのだから作れないことはないはずだ。ちなみにモグ子は窓口で普通に作れたという。

「あの……銀行口座を作りたいのですが」

 ヤマダはそう町のギルド銀行の窓口へ申し出た。窓口担当の女性はにこやかに対応する。

「はい。では、こちらの用紙にご記入いただけますか?」

 一枚の紙を渡される。

(なになに……お客様情報登録カード……あなたは人間ですか、人間じゃないですか?)

 こんな質問項目が現代日本の銀行にあったら、絶対に問題だろう。幸いにもここは異世界。人間じゃない生物も闊歩している。

 そして、その人間じゃない部類のヤマダは悩んだ。改造人間ウサギ男だから、人間じゃないだろう。それで人間以外に丸を打つ。そこの丸を打つと別の番号へ行くよう指示がある。

(えっと……あなたは次のどの種族でなりますか。エルフ、ドワーフ、その他……その他ってなんだよ!)

 ヤマダは仕方がなく、その他のカッコ内に『改造人間』と記入した。そして、次に住所を記入。性別に年齢を書き込む。

(うっ……次の項目は……既婚者、独身……そんな情報がいるんかよ!)

 ヤマダはちょっとさみしい気持ちになって、独身に丸をうつ。なんだか、38歳で独身を囲むのは、虚しい気持ちになってしまう。

(それで……次は……年収?)

 年収の最低限ラインは年に金貨100枚となっている。正直、今のヤマダが年収ベースでいくら稼げるかは分からない。

(仕方がない……あの護衛侍女が毎月、おこずかいをくれるはずもない。バイトするしかないよなあ)

 これはヤマダにとっては現実的な問題。とりあえず、金塊100枚以下に丸を打つ。そして、窓口で申し込みをすると、担当の女性は首をかしげながらも対応をしてくれた。

「ええっと……ヤマダさん、カードの種類はご存知ですか?」

「え?」

「ですから、カードの種類ですよ」

 ベレー帽を被ったギルドの窓口担当の女の子は可愛い。おっさんであるヤマダを見ても普通に接している感じがする。おじさんは普通に対応してくれるだけで嬉しいのだ。

「いや、よく知らないんです」

「では、ご説明します。年収で金貨100枚がボーダー。ここから500枚まではシルバーカードをご提供します」

 それは銀色に輝く四角いカードである。500枚以上でこのシルバーが金色になる。庶民で持てるのはここまでである。その上はプラチナカード、ブラックカードとなる。まるでクレジットカードのようなランク付けである。

 クレジットカードなら、日本でブラックカードを持っていたヤマダ。この世界ではしょぼいシルバーカードである。

 いや、それですらなかった。ヤマダの所持金は金貨10枚に満たない。それではシルバーカードも持てない。

 まだ、種族が人間であったなら多少の手持ちの少なさでもシルバーカードになるそうだが、亜人間どころから改造人間であるヤマダの場合は、信用度が最低ランクとなるそうだ。

 つまり、最低ラインの信用度。よって、この人間の世界では最底辺の人間が持つレベルのカードとなる。それはシルバーカードの下。木の板に銅が薄く貼ってあるブロンズカードである。

 それでもギルド銀行にとっては、一応客である。窓口のお姉さんは親切に笑顔でヤマダに接してくる。

 おじさんになると、こういうシチュエーションは妙に気になる。例えば、コンビニのレジ。若い女子だとお釣りの小銭を渡すときに手に触れないように渡してくる。これが若いイケメン男だとそれはない。

 別に思春期の若い女子はおじさんを毛嫌いしているものだから、別に気にしない。でも、女性も年齢を重ねてくるとちゃんと丁寧にお釣りを渡してくる。これはどの客にも同じだろうが、おじさんには嬉しいのだ。

 もちろん、ヤマダは、それで「この姉ちゃん、俺に惚れたか~」「この奥さん、俺に気があるのか~」と勘違いする痛いおっさんではないが、窓口のお姉さんの優しさには癒される思いがする。

「それではヤマダさん、ブロンズカードは毎月、口座維持管理料として、銅貨5枚が自動的に引き落とされます」

「え?」

「引き落とせない場合、その時からカードは、無効となり、5年間はギルド銀行での取引はできなくなります」

「マ、マジかよ!」

「あとシルバーカードに昇格するには、金貨10枚上のお金をギルド銀行に1年間預けた実績が必要です」

 にっこりと笑っている窓口のお姉さん。ブロンズカード所有者をデスっているとしか思えない規約の説明をする。

 これは厳しい。最初から金貨10枚預ければシルバーカードが発行されたのだから、貯めておいてから作ればよかったんじゃないの……と頭によぎったヤマダ。しかし、今、貧乏人判定されてしまったから、どうにもならない。

「くそ……やはり、どの世界へ行っても金は人生を左右する」

「おっさんのプライドもでモグ」

「お前のおっさんの心臓をエグルその一言をなんとかしろよ」

 銀行からの帰り道。モグ子のデスりに耐えつつ、トボトボと帰るヤマダ。ふと、モグ子が持っていたカードの色を思い出した。

「おい、ちょっと待て。モグ子、お前のカードは?」

「シルバーでモグ」

「なんで、お前がシルバーなんだよ」

「簡単でモグ。最初の申し込みで人間に丸を付けるでモグ。それで金貨10枚を預ければ簡単にできるでモグ」

「がああああっ~。お前、人間じゃないだろ、改造人間だろ、モグラ女だろ!」

「元は人間でモグ」

「じゃあ、正直に書いた俺は間抜けなのか?」

「心配する必要はないでモグ。世の中のおっさんは、みんな融通が利かないでモグ。だからおっさんはメンドくさいでモグ」

「う~。正直者がバカを見るのか?」

「違うでモグ。解釈の幅が狭いだけでモグ」

 なんだか納得がいかないヤマダ。でも、ヤマダは誓った。今は底辺のブロンズカード。これをシルバーに昇格させる。できればゴールドカードを手に入れる。

 おっさんヤマダはそのためにバイトを探そうと心に誓った。なんだか、志の低いおっさんの思考だが、ヤマダは混乱している。許してやって欲しい。

「それじゃ、モグ子は魔界へ戻るでモグ。ヤマダは女勇者にプロポるのは、まだ無理としても、少しは好感度を上げておくでモグ」

「モグ子、なんだか上から目線だな。言っとくが、お前がシルバーカード持ちだからといって、お前が偉いわけじゃないからな。ただ単にお前は正直じゃなかったからだな。あと、魔王がお前におこずかい多くくれたからだからな」

「おっさんの僻みは醜いでモグ」

「僻みじゃない、世の中の理不尽に対する抗議だ。いずれにしても、好感度上げるの失敗したら、即死だからな。がんばるしかない」

「健闘を祈るでモグ」

 地面を高速で掘って消えてしまったモグ子。ヤマダはブロンズカードを握り締めて、小屋へと戻ることにした。

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