第5話 女勇者は残忍でした

 ヤマダは馬車を操縦している。

 魔界から出発して1週間。トボトボと勇者が滞在しているという町を目指している。

 そもそも、魔界と人間界は簡単には行き来でない独立した別世界なのである。今のところ、魔界の住人は人間界と魔界を行き来できる術をもっているが、人間はそれができない。なぜなら、魔界へと渡るための条件を満たしていないからだ。

 魔界へのゲートは人間界には7箇所あるのだが、そこを通じて魔界の住人は人間界で悪さをする。そういう魔界の住人を排除するのが、冒険者の役割だ。その冒険者の頂点に立つのが勇者なのだ。

 だが、勇者といえども、魔界への扉を開けるための謎はまだ解明していない。そういう点では、魔王も魔界で大人しくしていれば命を取られることはない。

(ということは、もう人間界にちょっかいかける必要なくね?)

(勇者に勝てないなら、魔界に撤退した方が賢明だと思うのだが……)

 ヤマダが操縦している馬車は人間が使用している普通の馬車だ。

 魔界の馬車だから、馬がモンスターだとか、魔法で動く骨の馬だとかありえるはずだが、それでは人間の世界では目立つ。

 この目立たたない馬車に乗っているのは、魔界の運命を決める選ばれた6人のモンスターなのだ。

 6人と書いたが、その立場は少々違う。なぜなら、6人は対等ではない。正確に言うと、5人とヤマダは対等ではないのだ。

 人間の女を誘惑するのが得意のインキュバスは、このチームの最も期待できるエース扱い。ドラキュラ伯爵はその能力からして、このチームの最強実力者。さらにダークエルフの族長は、能力もさる事ながら、後がないという悲劇のエピソード付きである。

 オークとスケルトンは問題外だが、ウサギ男のヤマダよりは戦闘力がある。よって、この5人がレギュラー。ヤマダは控え選手。補欠である。やっぱり幻の6番目のモンスター、略して『幻のシックスモン』である。

 なんだかよく分からないが、ヤマダはこの5人に命令されて馬車の運転をさせられているから、下僕扱いなのである。あとの5人は馬車で寝ているから、明らかに対等ではないだろう。

 だが、ヤマダは悲しんでいない。なぜなら、ヤマダは大人(おっさん)だからだ。大人の男(おっさん)は小さなことにはこだわらないのだ。

 ヤマダはそもそも他の5人と同じ空間には居たくはないと思っている。インキュバスは姿が卑猥で目にやり場に困るし、ドラキュラは相変わらず棺桶の中だし、ダークエルフの族長は精神的に追い込まれているのか、ブツブツと何やらつぶやいて怖い。

 そしてオークは豚だし、スケルトンは骨である。話が合わない。だから、暗闇の中をカンテラに照らされて馬車を動かしていたほうが、気が紛れるのだ。

 馬車の目指しているのは、旧都ガダニーニ。目的である女勇者はそこに滞在中と聞く。彼女は仲間と共に魔王軍の追討任務についているのだ。

「おい、ヤマダ、腹が減った。何か食物はないか?」

 馬車の中からブタがそうヤマダに問いかけた。基本、人間の飯を食うのはヤマダとこのおっさん豚(オーク)だけだ。悪魔族のインキュバスは人間の精力が食物。ドラキュラの食事は血だし、ダークエルフは自然食由来の食物しか食べないらしい。骨野郎(スケルトン)はそもそも飯を食べない。

「はい、旦那、これが最後の1つです」

 ヤマダはそう言って腰に付けた袋から食べ物を取り出した。これは先ほど、村で買った麦まんじゅうである。改造人間のヤマダが買ったわけだが、変な格好した人間と思われただけで、お金を出せば売ってくれた。

 基本ウサギの仮面を付けただけの姿では、モンスター認定してくれないらしい。そのことが悲しいのか、嬉しいのかヤマダには未だに判断ができない。ちなみに確認しておくが、ヤマダは自分のことをパシリとは思っていない。

「ちっ……麦まんじゅうか……」

 おっさん豚、せっかくヤマダが手に入れた食料に文句を言う。

(だったら、お前が買ってこいや!)

 と心の中でヤマダは主張するが声は出さない。悔しいが喧嘩してオークに勝てる気がしない。ここはおとなしくまずい麦まんじゅうで我慢してもらうしかない。

 それにおっさん豚が買い物しに来たら、村中がパニックになるだろう。これは隣でカクカクしている骨野郎が買いに行っても同じである。

変な格好していると思われるヤマダが買うのが正解だ。だから、ヤマダがパシリというわけではない。これは戦略的な選択なのである。

「おい、パシリ、水をくれ」

(おい、おっさん豚、そのセリフはやめろ!)

 もう一度言う。ヤマダはパシリではない。水を汲むのも人間に似ているヤマダがした方が、違和感がないからだ。おっさん豚が川で水を汲んでいたら、見かけた村人がパニックを起こすに違いない。

 カンテラで暗闇を照らし、静々と馬車を走らせていたヤマダだが、太陽の光が山の峰を白く照らし、夜の暗闇が青く変化してくるのが目に入った。

(朝が来た……)

 夜通し走ったから、ヤマダは眠気を感じている。あくびをしながら馬の轡を引く。

「あれ?」

 前方に人の気配がある。

 なぜ、その気配を感じたのかヤマダには分からない。分からないが、背中に冷たい汗を感じた。轡を握る手がなぜか震えてくる。

 2人の人間らしきものが前方に立っている。旅人のマントを頭からすっぽりかぶっているので、正確には分からないが、マントから出た細い2本の足とそれほど高くない身長から女性ではないかと思われる2人である。

「……キサマら、ここで止まるがいい」

 2人のうち、背の高い方が話しかけてきた。冷たい言葉である。その冷たさは北極点にクールビズの格好で到達したくらいだ。もはや何を書いているかわからない。

(この声は女だな……しかも若い……けど、なんだこの冷たさは……)

 ヤマダはそう思った。こんな朝早く、女性がこんな人気のないところにいること自体がおかしい。そして、この聞いている者を凍らせるような態度。

「チョコさん、相変わらずダメですねえ……。モンスターの方々には優しく言わないと」

 そんな言葉を発したのは背の小さい方。こちらも女性の声である。こちらはキャピキャピした如何にも女の子と言った感じの話し方だ。

「どうせ死ぬのだ……優しさなどは無用だ」

「チョコさん、すぐあの世へ行くのだからこそですよ」

(な、なんだ、この会話。よく聞くとこえ~よ)

 ヤマダは馬車を停止させている。急に止まったので中の連中も緊急事態だと思うはずだ。

 だが、窓から顔も出してこない。

(寝てるだろ……絶対、寝てるだろ!)

 奇跡の5人、魔界の運命を背負うこの5人のモンスターたちは、ヤマダの心の叫びのとおり、ぐっすりと寝ていた。残念としか言い様がない。

「一応、キサマら邪悪なモンスターに私の名前を教えよう。私の名はチョコ・サンダーゲート。職業は勇者だ」

 そう背の高い方が名前を名乗った。マントをはねると青く染められた服に簡易な胸当て、スカートという冒険者風の格好である。長い生足に白いニーソック、短いブーツが艶かしい。そして背の低い方も続く。こちらは右手に飾りの付いた杖をもち、僧侶服に身を包んでいる。こちらは明らかに大きなバストが艶かしい。

「私は司祭のエヴェリン・トラウトですわ」

(ゆ、勇者御一行様ですよ~。いきなり、ターゲットの登場ですよ~)

 魔界で叩きこまれた知識の基本中の基本。ターゲットである女勇者の名前。

『チョコ・サンダーゲート』

 実に勇者らしいというか、変な名前というか……。そもそもサンダーゲートって、雷門という名前からして芝居がかった名前だとヤマダは思っている。

 ヤマダはこの展開は予想していなかった。こちらから勇者を捜し出す、長くて辛い日々を過ごすはずだったのに、いきなり目標が現れたのである。これは喜ばしいことだが、よく考えれば、とても悲しいことだ。

 ゲームで言えば、経験を積み、レベルを上げて強くなる部分をとっぱらい、いきなりボスの目の前に放り出されたと同じことなのだ。

「それでは、みなさ~ん。ここで死んでちょうだい」

 背の小さい方がそんな言葉をキャピキャピした声で言い放った。これは本気だ。声や姿に騙されてはいけない。この2人は絶対に強い。間違いなくボスキャラだとヤマダは確信した。

「あわあわあわ……敵だ、奇跡の5人の皆さん、出てきてくださいよ!」

 ヤマダは叫んだ。絶体絶命の危機に叫んだ。魔界に連れてこられて改造人間にされたヤマダは、確かにレベル1かもしれない。だが、馬車に乗っているのはそれなりに経験を積んだ魔界のモンスターたちだ。それなりの強さがあるはずだ。

(おや?)

 ヤマダは目の変化に驚いた。辺りが急に暗くなる。今は夜が開けたばかりの眩しい太陽が顔を出していたはずだ。それが分厚い雲が太陽を覆い隠したように薄暗くなる。

(こ、これは!)

 インキュバスの仕業である。悪魔族のインキュバスは、対象物ごと自分のテリトリーである夢の世界へと導く。夢の世界へ運ばれた人間はインキュバスに誘惑され、身も心も乗っ取られてしまうのである。

(すげえぜ、インキュバス。空間ごと夢の世界へ運ぶとはすごい魔力!)

 インキュバス。ヤギの頭をしたモンスター。但し、下半身は露出した男。完全な変態である。変態であるが、その魔力は侮れない。

 タン……。夢の空間に引き込まれたはずの背の高い女の方が一歩踏み込んだ。いつの間にか右手に剣を握っている。

(え?)

 ヤマダはインキュバスを見た。頭から真っ二つにされている。一刀両断とはこのことだ。

「くえええええええっ……」

 ものすごい断末魔と共に、幻想世界も消えてしまい、元の太陽が眩い朝になっている。

「い、一撃かよ!」

 ヤマダは2つに分かれたインキュバスが、やがてガラスのように粉々になって消えていくのを見た。剣で切った現象ではない。それは勇者の持つ聖剣の特殊能力であろう。

「セクハラ、即斬!」

 そう冷たく言い放つ女。その姿は神々しい金髪の美女。長い脚がセクシーな超絶美人である。確かにこんな美人の前に下半身露出するのは変態行為。セクハラである。

 ガタガタ……馬車の後ろにくくりつけられた棺桶が自然に落ちた。それはドラキュラ伯爵が眠る棺桶だ。

(ああっ……ついにドラキュラ様が降臨するのか!)

 ヤマダはこの魔界から送り込まれたパーティの最強メンバーに期待を寄せた。目の前の女に対抗できるのは彼しかいない。

バンパイアの始祖であるドラキュラの戦闘力は、相当なものである。その力はインキュバスの10倍。勇者といえども簡単には倒せないはずだ。

(ドラキュラ伯爵様、天誅を下してください!)

 ヤマダは心の中で叫んだ。ドラキュラが負けたら、もはや勝てる期待がもてない。

 棺桶が少しだけ開いた。そこから手が一本ニョキッと出た。赤いバラが一本握られている。女勇者に捧げるプロポーズ。

(え、えええええええっ。それかよ、それなのかよ。確かに任務はこの女勇者を誘惑するのだけど……)

 ヤマダは冷静になった。この女勇者チョコは、その気になればドラゴンですら葬る実力者だ。例え、吸血鬼の真祖、ドラキュラでさえもまともに戦えば瞬殺なのだろう。

(ドラキュラ様、ここはあなたの中年ダンディの力に賭けましょう!)

(その無言のプロポ力、ダメージ999はあります!)

 この大胆な行動に女勇者は思わず赤面してしまう……はず……がなかった。顔色を少しも変えない女勇者は無言で聖剣を振り上げた。

 バシッ。

 女勇者は棺桶ごと切った。真っ二つにされる棺桶。

「あああああああ……伯爵さま~っ」

 ドラキュラ伯爵、一度も姿を見せないまま、あの不思議な剣の特殊能力でガラスくずのように煌くものになってしまった。

(これはヤバイ……こんな化物を口説くなんて無理だ~)

 そもそも、人間の女を魔界のモンスターが口説いて結婚しようなどという、突拍子もない作戦から間違っているのだが、その圧倒的な戦闘力を見てしまうと、戦って勝つ選択もないだろう。

「お嬢さん……乱暴はいけないよ……」

 いつの間にか女勇者の背後に立っていたのはダークエルフの族長。キザなセリフを吐いて女勇者の肩をポンと叩く。

(おお……やるな、ダークエルフのおっさん!)

 ヤマダはこのダークエルフの族長の華麗さに目を奪われた。スマートな身のこなしに、色気のある表情。ダークエルフなので美形である。さらに褐色肌がアラブ人的なエキゾチックさをそそり、大半の女性を虜にするフェロモンを放っている。

(そうか、エルフは美形だ。この美形という武器を考えれば、この族長は一番可能性がある。ごめん、俺はあんたを見くびっていた!)

 ヤマダは心の中でこの族長に謝罪した。人間型のモンスターであるダークエルフ。そして美形なら、女は喜んで尻を振るに違いない。

「あらあら、ダークエルフさん、それはいけませんねえ……」

 黙って戦闘の様子を傍観していた女司祭の小娘はそうのんびりとした口調で微笑んだ。

「チョコさん、男の人から口説かれるの、大嫌いなんですううう……」

(おいいいいいっ……それを早く言えよ!)

 ヤマダは突っ込んだ。ダークエルフのおっさんは真っ青になった。褐色の肌なのに青ざめるのだとヤマダは初めて知った。

「ふん!」

 女勇者チョコ・サンダーゲート。無言で聖剣を振る。ダークエルフのおっさん、素粒子の粒まで分解されて消えていく。断末魔の声すらあげられない。

「この私を口説こうなどとは、セクハラ!」

 女勇者はそう断定した。この女。自分を口説くという行為をすぐセクハラと断定し、問答無用で素粒子まで分解するらしい。

(お、終わったあああああああ……)

 ヤマダには走馬灯が見えた。なぜ、こういうことになったのであろう。もはや、作戦の失敗は確実である。5億円が当たるジャンボ宝くじを300円出して1枚だけ買う。そんな絶望と僅かにあるだろう細い細い希望の糸。それしかない。

「ぶううううっ……いい女、いい女、実物はいい女だ、ぶう。そのケツ、触らせてくれでぶうう」

 おっさん豚。口説くというよりセクハラ発言。お下品なセリフと共にその場で素粒子へ分解。

 カクカクしていた骨野郎。勇者の仲間の司祭。エヴェリンとか言ったのんびり系小娘によって、魔力解除(デスペル)されてしまった。こちらは粉へと姿を変えた。

(つ、次は……俺かよ。俺ですよね。一瞬ですよね……)

 ヤマダは足が震えた。残忍な女勇者は一歩一歩、ヤマダへと近づいてきている。もはや、ヤマダには何もできない。せめて、ウサギのように可愛い容姿なら命乞いしたら見逃してくれるかもしれなかった。人間に害を与えないというなら、それも可能性がないわけではない。

 だが、ヤマダの姿は黒いスーツにウサギの仮面を付けた変態的な格好である。可愛くもなんともない。ウサギ仮面の半分の顔はおっさんだ。若い娘からすれば、おっさんは即斬であろう。

(く……どうする俺……一応、死ぬ前に任務を果たすべきか……)

 任務とはプロポることである。女勇者にプロポーズするためにやってきたのだから、ここは死ぬ前にキザな言葉の一つでも吐いて、美しく散るべきだろう。

「あ……あの……その……」

 ヤマダは目の前にやってくる『死』に抗うように声を出す。だが、何も出てこない。元38歳のおっさん。結婚は俺に相応しい女がいないからしないだけだと豪語していたおっさん、ヤマダ。ここで自分の実力を知った。

 そう。おっさん山田は38歳になるまで、自分から女を口説いたことはなかったのだ。

 だから、気の利いた言葉が出てこない。

(ああああ……こんなんだったら、もっと練習しておくべきだった~)

 確かに社長となり、成功者で金持ちになってからはモテた。女など口説かなくても向こうからやって来た。そんな境遇だったから、口説き慣れていない。

 いや、そもそもこの作戦自体が無謀だったのだ。男嫌いで口説かれるのが大嫌いな女勇者にプロポるなんて、自殺行為なのである。

(このくらい調べておけよ)

 死んだと思われる調査員を恨むヤマダ。そして、こんなふざけた作戦を立てた悪魔元帥と許可した魔王を恨むしかない。

(お前ら、とっとこ、この女勇者に殺されなさい!)

「あらあ……このモンスターさん、改造人間さんのようですね」

 人が命を失うかもしれないという時に、能天気な女司祭の口調がたまらなくシュールだ。

「この人、ウサギさんみたいですよ、チョコさん」

「ウサギ……この男が?」

 女勇者がヤマダを見る。その視線に心臓が締め付けられる。心筋梗塞というのは、非常に苦しいというが、ヤマダはその苦しさで意識が遠のく。両手を心臓に当てて、顔をしかめる。暑くもないのに汗が吹き出る。顔から出た汗がポタポタと顎を伝って落ちていく。

「ふん。どうせウサギと合体するなら、可愛くすればいいものを……ただの変態おっさんじゃないか……」

 両膝をついて心臓の苦しさと戦うヤマダをそう冷たく見下す女勇者チョコ。

「どうします……あまり害はなさそうな改造人間さんですけど……」

「モンスターは滅する。それだけだ……」

(終わった~っ。口説くというか、プロポる前に終わりましたよ。もういいです。心臓が苦しいので、その聖剣で斬って、素粒子に分解してください……)

 ヤマダは覚悟を決めた。ここまで来たら、自分の命運は尽きたに違いない。ヤマダは苦しさに耐えて、両手を広げた。何かの映画で殺される主人公が両膝をついて、天を仰ぎ、両手を広げて死んでいくシーンがあった。

 そのシーンに合うかのように、黒い雲がもくもくと空を覆い始め、明るくなった朝の空をどんよりとしたものに変えていく。

「殺す前にお前の名前を聞いておこう。もし、故郷でお前の帰りを待つ者がいたら、この死に様を伝えておいてやる」

 女勇者はそう冷たく言った。ヤマダは天を仰ぐようにして名前を言う。折しも、雨雲が天を覆い尽くし、ポツリと雨滴を顔に落とした。

「ヤマダ……」

「ヤマダ!?」

 女勇者の言葉の質が変わったように感じたが、次々と落ちる雨滴にヤマダは下の名前を続けた。

「マサノリ……」

 女勇者は沈黙している。そして雨音が激しくなっていく。

(はい、ここで終了。俺の人生、ジ・エンド……)

 心臓が締め上げられ、そのまま意識が遠のく。女勇者が近づいて来るのが気配で分かった。きっと、聖剣で首を撥ねるに違いない。ちょっと痛いだろうがすぐに素粒子に分解されるだろう。消えておしまいである。

「あれ……あ、あなたは……しゃ、しゃちょう?」

 女勇者チョコの言葉が微かに聞こえたが、もはやヤマダの意識はぶっ飛んだ。


 ウサギは命の危機を感じると心臓が止まり、自ら自分の生命を閉じるという。

 それが苦痛から逃れるための、弱い動物のもつ特殊能力。

 ウサギと合体した改造人間ウサギ男もこの能力を備えている。

 つまり、命の危険を感じると心臓が止まり、仮死状態になるのだ。そのまま、殺されても苦痛はない。都合がよいが、実に意味のないスキル。

 改造人間ウサギ男の特殊能力発動。『俺はもう死んでいる』が発動した。


おっさんはあきらめが早い。されど死んだフリもうまい。

                ウサギ男ヤマダ語録3 

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