第2話 女神様 現る





「悲しいことに、貴方は死んでしまいました」



 俺が目を覚ますと、目の前の美しい女性が そんなことを言ってきた。

 いや、俺だけではなく、同じように目を覚ました翠にも そう伝えているようだ。


 だが、今この美女は ひどく気になることを言わなかったか? 



「ちょ、ちょっと待ってくれ! 死んだ……? 俺たちがか?」

「……はい」



 馬鹿な!! この女性は何を言ってるんだ!? 

 翠も この状況が掴めず、「……えっ? 何ですか!?」と驚愕している。

 おれが周囲を見渡してみると、ここは白い空間だった。


 白い空間、そうとしか表現できない。

 俺は動揺しながらも、眼鏡を掛け直して気を落ち着かせた。

 

 

「死んだ……!? じゃあ、俺と翠は天国にでもいるっていうのか!? 翠、ちょっと手を貸してくれ!!」

「は、はい!」



 慌てて隣の翠の右手を握りしめ、感触を確かめる。

 温かい。とても死んでいるようには思えない。

 ついでにしてみた。柔らかい。

 もう一つ ついでに

 おいしい!



「ふむ……。身体は冷たくなっていないみたいだけど?」

「ねえ、お兄ちゃん。それ2段階くらい前にわかんなかったんですか?」

「……え、ええ。ここは転移の間ですから。死んだといっても肉体は健常なままにしてあります」



 俺の質問に引き気味に女性が答える。

 しかし彼女の言葉に、翠が首を傾げた。



「転移? 転移って何ですか?」



 女性の言葉に、翠が首をかしげる。 

 その言葉を受けて女性は小さく微笑み、そして両手を広げた。

 すると、彼女の背後から煌めく虹色の光が差した。


 それはまさしく、後光と呼ぶにふさわしいものだった。

 その様子を見た時、俺と翠の脳内には同じ単語が浮かんだ。

 ――神様。

 そう、俺たちは彼女が神様であることを確信した。

 こんなにも美しい姿を見せられれば、彼女が神であることは疑いようがない。



「そ、そんな神様が私達に何の用……ですか?」

「はい。先ほども言いましたが、貴方は死んでしまいました。しかし、若く才能ある貴方のような人をそのまま輪廻させるには惜しい。なので……ぜひ貴方には異世界に旅立ち、魔王と戦う勇者になって欲しいのです!!」

「おお、翠! これ異世界転移って奴だよ!」



 女神さまの言葉に俺は興奮しながら叫んだ。

 まさか異世界なんてものが本当にあるだなんて!!



 まあ異世界転移って言ったらニートか引きこもりって相場は決まっているからな!!

 いやあ、人生なんてクソゲーだと思っていたが、まさかこんなボーナスが転がって来るなんて!!

 などと思って浮かれる俺に、女神は言った。


「……あの、ところで。さっきから ずっと気になってたんですけど……。そちらのお兄さん、?」

「えっ?」



 女神様が俺の眼を見て言い放った言葉に、俺は凍り付いた。




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