第6話

 タブラ・スマラグディナは自分を偏屈で頑固、その上で理屈屋という世間一般でいうメンドクサイ人種であると認識している。社会のルールに乗っていても、人の足を引っ張るような連中はいくらでもいる。そんなリアルの社会とは一線を画すこのユグドラシルというゲームはわかりやすく、そして自分というものを出すことができた。むしろ、こんな男を迎え入れてくれたアインズ・ウール・ゴウンの面々は、仲間という意識さえしていた。なにより自分という存在を排除せず、仲間たちとの間を取り持ってくれたギルドマスターのモモンガには感謝の念があった。


 少なくともこの数年退屈することもなく過ごすことができた。


 しかし、仲間たちの引退に伴い、やはり退屈を感じるようになった。


 それは誰が悪いわけではない。


 時間の流れに伴う環境の変化。

 

 ならば、いままでの集大成を残そう。


 たとえだれの目に残ることが無いとしても



******

 


 タブラ・スマラグディナが姿を消してからしばらくした頃、至高の御方々の頂点、モモンガ様が子ともいえる存在を生み出したと噂がでる。


 多くの至高の御方々が去る中、ついにアウラとマーレの創造主であるぶくぶく茶釜様と、シャルティアの創造主であるペロロンチーノ様が去られたそうだ。



 アルベドにとって、それは必要な情報ではあるが重要な情報ではなかった。


 今日も数多の報告が情報の津波となって、玉座の間に侍るアルベドの元に集まる。その膨大な情報を取捨選択し、最適化し、ナザリックの担当部署に効率よく指示を出す。その姿はさながら、先進企業が保有する経営支援AIのようであった。 


 しかし、それでもなおアルベドの処理能力には余裕があった。


 煌びやにシャンデリアで飾られた光のベール。荘厳な彫刻に彩られた柱。壁もその一枚にいたるまで磨き上げられ、その財と技術を見せつけている。しかしそこには世界の至宝の一つであるワールドアイテムと一体化した玉座のみ。


 そんな場所で一人アルベドが思いを巡らすのは、皮肉にも己が記憶設定であった。


 ナザリック地下大墳墓の守護者統括という地位に就いている―多くの耳目を集めているという事実を知るため、けして外に見せることはない感情だが、最初は己が記憶を奪う存在タブラ・スマラグディナを憎んでいた。


 だれの姿もない玉座の間で何年も一人でいれば、ふと思うことがあった。


 シャルティアは恋慕。


 コキュートスは忠義。


 アウラとマーレは家族愛。


 デミウルゴスは叡智の指針。


 プレアデスは姉妹愛。


 セバスは友愛。


 ではあの存在は、私に何を残したのだろうか?


 そして、ナザリックの守護者統括という役目の傍ら、一語一句精査をはじめたのだった。


「三文小説かしら」


 それが最初の感想でった。


 しかし一年ほど経つ頃、あることに気が付く。


「言葉の並びに法則性?」


 言葉の重なり、文字の順列、法則、秘された意味。アルベドが出会った初めての暗号であった。その日からアルベドは暗号の解析に取り組んだ。


 きっと、その暗号の先に何かある。それがどんなものなのか、惰性ともいえる今の生を彩る何かがあるのかもしれない。


 そしてアルベドがその暗号を解いたのは、くしくもユグドラシルがサービス終了する前日の夜だった。 








 


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