第5話
ナザリック地下大墳墓 宝物殿
「ごめん。モモンガさん」
すまなそうな声と共に頭を下げる親友の姿にモモンガは心を痛める。
「いえいえ、リアルのことですしょうがありませんよ」
モモンガは本心とは裏腹に、社会人ゲーマーとして、そして良きギルドマスターとして至極まっとうな受け答えをする。
親友と称するペロロンチーノも、モモンガのそんな演技を見抜いてはいたが、ユグドラシルというゲームにモチベーションを保てないこと、仕事で責任ある立場となり、いい加減本腰をいれなくてはならないこと。少し前、本業の声優の仕事がかなり忙しくなり、引退した姉というある意味で重石が無くなったこと。理由はそれこそ、山程あるがそれを理由にやめていく自分が、残していく友人にかける言葉などない。そんな風に感じたため、いくつかの言葉を飲み込んだ。
「今でもそこそこの金額になると思うので、売り払ってもOKですよ。ほらナザリックの維持費も馬鹿にならないでしょ」
ペロロンチーノはそういうと、自分のメインウェポンなど財産の多くをモモンガに譲渡する。武装などストレージに入るレベルはモモンガのアイテムストレージに、そしてあふれる分は、宝物殿モモンガ名義の場所に展開される。
そんな光景もモモンガ都合三十回以上見ている。
「そんなことできるわけないじゃないですか」
モモンガは笑うアイコンを出しながら答える。
「じゃあ、やっぱりアレですかね」
「ええ、そのつもりです」
二人が視線を向けた先は、宝物殿の奥、いつしか霊廟なんて名前でよばれるようになった場所であった。そこにはアインズ・ウール・ゴウン最盛期、四十一人の姿を模したゴーレムが残されている。とはいえ、引退したものだけであるが……
「在りし日の栄光か」
「ですね。あの時のわくわくはすごかったな。今でも思い出しますよ」
「かといって、いま同じことがあってもそこまで楽しめるかは……うん、むずかしいですね」
「まあ、大人になったということかもしれませんね」
二人は自重するように笑う。
若かった。
数年前のことなのに、これほど的確に表現できることは、そうそうない。
「しょうがないですよ。みんなリアルでの生活があり仕事があり、そして守るべき者がいますから」
「いつまでも子供のようにってわけにはいきませんか」
その守るべきものにナザリックは入らないのかと、モモンガはなんてことを言いそうになる。
もし、ここでモモンガが物わかりの良い社会人という皮を脱ぎ捨て、ギルドマスターという仮面を外すことができれば、また違った道もあっただろう。以前から連絡先としてメールアドレスなどをもらっているが、そのメールアドレスにもありきたりな話題しか書くことができず、モモンガはやはり最後の最後までみんなの頼れるギルドマスターであり、物わかりの良い大人の姿を捨てることができなかった。
******
ペロロンチーノが引退し、半年もするとナザリックでアクティブと呼べるログインをするのはモモンガ一人となった。
そのころになると、必要最低限の狩りで金策を終えると、モモンガは宝物殿にこもるようになった。
NPC達はその後ろ姿を痛ましいを思い、自分たちが悲しみなど、モモンガのそれに比べればどれほどのものかと考えるようになっていた。
実際には、不器用ながらも仲間達のゴーレムを造り、パンドラズ・アクターの変身精度の向上などにせいをだした。そしてある時、ぴたりととまり、思い出に浸る。そんな一日を繰り返した。
そんな主の姿を見守るのは宝物殿にいるNPC、パンドラズ・アクターだけだった。だが、モモンガの宝物殿での行動が他のNPC達に伝えられることはなかった。
ーー至高の御方々の別れの言葉と、それを受け止め見えぬ涙を流す主の姿
―ー主が時々漏らす弱音や思い。
その全てを受け止めるのは自分であり、伝えるものではないと考えていた。だからこそ、じっと黙り、悠久ともとれる時間を、動かず、ただ一人見守り続けた。
だが、そんな状況に不満を持つものが一人だけいた。
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