三十三話 全て俺のせいだ
「うっ——」
「気付いたか!? グラナ!?」
見知らぬ天井、嗅ぎ慣れない部屋の匂い。ここはどこだ——。俺は、確か⋯⋯。
「シエラ!?」
俺は何よりも大切な弟子を黄金の連換術師に連れ去られたことを思い出し歯がみする。こんなところで悠長に寝てる場合じゃ⋯⋯。
「落ち着け、至近距離で爆発を喰らったんだ——、命に別状は無いとはいえ肝を冷やしたぞ。毎回毎回、無茶しすぎだお前は」
慌ててベッドから起き上がろうとした俺を、親衛隊の制服を着たクラネスが抱きしめる。らしくない彼女の行動に俺は理解が出来ない。何か思考が上手く言語化出来ない。なんだ、この感じ? とても温かいような?
「⋯⋯クラネス?」
「——今は休め。シエラさんが連れ去られたことは、既にビスガンド公爵も知っている。危険の伴う連換術師として行動する以上、このような事態も覚悟の上で——だったそうだ」
「クラネス⋯⋯俺」
「落ち着いたら、お前にも参加してもらうぞ。シエラさんの奪還作戦。それと今日はここ、第七親衛隊宿舎に泊まって欲しいと公爵閣下からの要請だ。ビスガンド邸はこれより第七親衛隊の臨時拠点となる。お前達が見つけた、地下の遺構をこれより徹底的に捜索するようだ」
「あの遺構を⋯⋯か? なんで」
「マグノリアのエーテル変質事件で使われた
もちろん、未曾有の大災害を寸前で食い止めたお前の功績を認める意味も兼ねて——な、とクラネスは付け加える。だが、正直今の俺に取ってはどうでもいいことだ。シエラは奴らに連れ去られた。ジュデールと対峙した時もそうだ。あの時、俺が不甲斐なかったからあいつは——。
「ははっ⋯⋯。二ヶ月前から全く進歩して無いじゃないか。何がシエラの連換術の師匠だよ、あの時も今回もそうだ⋯⋯。俺の自分勝手な行動のせいで、いつもあいつを危険な目に遭わせて——」
「グラナ⋯⋯」
「俺に師匠なんて早すぎたんだ——。俺は⋯⋯エリル師匠が俺をあの劫火から守ってくれたみたいに、あの子を守らなきゃいけないのに——。全て俺の実力不足⋯⋯全て俺のせいだ——」
悔しさに視界が滲む。何であの時、アルと一緒にシエラを行かせた??
あんなカエル、さっさと仕留められたはずだ。なんで、なんで、なんで、なんで、なんで俺はいつも間違える??
「様子を見に来たら、何? 泣きべそかいてるの?」
「アクエス——?」
いつの間にか部屋のドアが半開きになっており、アクエスがジトッと非難するような目をこちらに向けていた。その瞳はクラネスに向けられていたようで、気付いた彼女が慌てて俺から離れる。
「あ、アクエスさん!? い、いやこれは特に何も意味が無いというか⋯⋯」
「いろいろ突っ込みたいけど、とりあえず後回し。⋯⋯気絶していた親衛隊員の人たちの手当て終わったよ。それと、これ」
ぴん⋯⋯と指で弾いてアクエスが銀色に光る何かを俺に向けて放ってくる。パシッと片手でキャッチし、それを見た。なんだ? これ? 何かの破片?
「シエラを追っていった先で、やりあった女から奪った戦利品。随分と特殊なアイマスクだったし、購入出来る店なんて限られるはず」
「目元を隠していたということか? 随分と用心深い——」
「そんなことより、アクエス!! シエラは!?」
「——ごめん、目の前で連れ去られた。あたしも正直、危なかったし⋯⋯」
アクエスは悔しそうに顔を俯かせる。よく見れば手足は擦り傷だらけで、服装もボロボロだ。A級連換術師をここまで追い詰める実力を持つ謎の女。そいつも
これまで得てきた情報の中で、
聖葬人ジュデ—ル、黄金の連換術師ビジネス・ロスキ—モ、水銀の連換術師ヴィルム・セレスト。
今回、アクエスが交戦した女も含めれば四人。
奴らの組織の全貌が掴めない以上、シエラの行方を掴む為にはジュデールを除く、いずれか三人と接触する必要がある。
つまり、この銀製の破片はシエラに繋がる唯一の手がかり——。
「他には!? そのアイマスクをつけていた女の特徴!!」
「え?? ⋯⋯
四大精霊の一柱、
「っと、忘れるところだった。クラネス、副隊長さんが探してたよ。そろそろ公爵邸に移動するって」
「分かった、今から行く。また後でなグラナ、しっかり身体を休めるのだぞ」
「ああ——、え?」
(後でこのメモに書かれた場所へ向かって欲しい。ある方がお前の師匠について伝えたいことがあるそうだ)
去り際にクラネスが後ろ手に一枚のメモ用紙を俺に渡す。アクエスと一緒に部屋を後にしたクラネスを見送った後、俺はメモを広げた。これは、帝城への招待状か? 随分簡潔な内容だけど。
それに⋯⋯。差出人の名は——、セシル・フォン・マテリア⋯⋯だと。
皇女殿下が俺みたいな連換術師に一体何の用だ? それにエリル師匠について伝えたいこと⋯⋯だって??
シエラを連れ去られたショックも冷めやらぬ内に、立て続けに起こる予測不明な事態。俺は何をどう抗うことも無く、ただ流れに飲まれていくしか無かった。
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