二十九話 風の騎士槍
前方で間の抜けた表情を見せる巨大カエルに、錬成した風の
「元素結合!」
先行しているアクエスが棍から消臭霧を巨大カエルに向かって噴射する。体内に滞留している汚染された生命エーテルが、霧の浄化作用に拒絶反応を起こしているのか巨大カエルがひっくり返り、その巨体でジタバタしている。
「グラナ、後は任せた」
「任された! くらいやがれっ!」
一足飛びに両足から風を連換してカエルの剥き出しの腹目掛けて飛び上がる。勢いよく落下しながら、風の
ゲコォォォォ!? と苦痛に喘ぐカエルが俺を振り落とそうと、さらに激しく身体を震わせてくるが振り落とされないようにしっかり根本までランスで貫いた。
このカエルの体内、相当エーテル汚染が進んでいる。エーテル錬成とは、いわば自らの体内エーテルを連換玉で増幅して、望む形状に作り替えること。つまり肉体の延長上にエーテルで作った擬似的な義手や義足を取り付けたようなものだ。多分、本来のエーテル錬成の使い方は武器にすることでは無いのだろう。このまま剥き出しの生命エーテルを、汚染されたエーテルに突っ込んでたら俺の身体も危ない。
「悪いな。お前の身体の中の汚れたエーテル、祓い清めさせてもらう。元素解放!!」
突き刺したランスから浄化の風を解放。カエルの体内器官に風は隅々まで吹き荒れて、仰向けにひっくり返っているその口から風が抜けていく。しばらくすると、みるみる内に巨大カエルが萎み始め、俺は慌てて飛び降りた。
「カエルが萎んでる?」
「みたいだな。うん? なんか吐き出したぞ」
元のサイズより半分ぐらいの大きさになったところで、カエルが何か白い玉のような物を吐き出した。これは、皇都に来る途中の列車の中、機関室に嵌められていたあの白い玉か?
「ん—? 何これ? 真っ白い連換玉?」
「それ列車テロの最中にも見た、用途不明の連換玉だ。確かシエラの見立てだと、火属性と水属性のエーテル同士が反発し合うように作用しているとか、なんとか」
「異なる属性同士のエーテルが相入れないのはそうだけど、エーテルに反発作用を持たせる? ⋯⋯これ協会本部に持ち帰って、詳しく調べてもらった方がいいかも。汽車の中で見つけたのはどうしたの?」
「それなら第七親衛騎士隊の副隊長さんが持って帰ったよ。事件の証拠としてな」
「そう。悪臭も収まったみたいだし、シエラと王子様を追いかけよう。水の流れを追う限り、そこまで距離は離れていないはず」
なるほど、俺が風で人の気配やエーテルを感じ取れるように、アクエスは水でそれらを感じ取っているのか。そういえばここら辺の感覚野は連換術師の中でも相当珍しいものだよ、とロレンツさんから言われたことあったな。なるほど、アクエスが
俺たちがその場から駆け出そうすると、後ろから「お二方、お待ちくだされー!!」と野太い男の声が聞こえてきた。声だけでなく大勢の足音と普段からよく知ってる気配も。
「間に合ったか⋯⋯。無事か? グラナ?」
「ジャイルさんに、クラネスも? なんでお前がここに?」
「第七親衛騎士隊のオリエンテーション中にお前達がラスルカン教過激派を追って、下水道に突入したと知らせが入ってな。——そんなことより、馬鹿者!! 一国の王子をこんな危険なところに連れてくる奴が何処にいる!?」
相変わらず男装の格好をしているクラネスに再会早々怒られる。しょうがないだろ、アルにも何か事情があるようだし、皇都の親衛隊だって決して腰が軽い訳でもない。一応国賓として招かれているアルが親衛隊を頼らず、独自に行動していた時点で何らかの妨害が入ったと見るべきだ。
「シェリー。——おっと、今はクラネスだったね。とにかく今は過激派を抑えるのが先だ。彼らの行動は決して褒められたものでは無いが、こうして奴らの拠点を突き止めることが出来た。時間が惜しい、急ごう」
「エルト⋯⋯。分かった、この馬鹿が世話を掛ける」
「何、彼は先日起きた列車テロでもこちらの思惑以上の働きを見せた。連換術師でなければ、君共々、ジークバルト隊長が第七親衛隊にスカウトしていただろうからね」
誰だ、クラネスとやけに馴れ馴れしい奴は?? それにこちらの思惑?? また何か知らない間に厄介ごとに巻き込まれていたのか?? それに、こいつ——今、クラネスのことをなんて呼んだ??
「あんた、クラネスとどういう関係だ??」
「——気になるだろうけど、そういう話も後にして欲しい。皇太女の儀を控えている今、不穏分子は一掃せよ——、というのが上からのお達しなんでね」
「ん。それは同感。それにグラナ、いつまでもシエラを放って置いていいの?」
「そういえば、アルに任せきりだった!? とにかく急ぐぞ!!」
「おい、待て!? グラナ!? 王子様どころかシエラさんも先に行かせたのか!? 何をやっている!! 大馬鹿者!!」
どうやら完全にお叱りモードに入ったらしいクラネスが、俺を追いかけてくるが知ったことか。
俺を先頭に結構な大所帯となった集団は、徐々に傾斜していく遺構を走り抜けて、最下層に到達する。そして、最悪の展開が待ち受けていた。
「アルさん!?」
「ぐあっ⋯⋯。バーヒル将軍、何故、貴方ほどの方がこんなことを⋯⋯」
「——もう私は将軍では無い、王子。いずれにせよ、今、ここで行動を起こさねば帝国もラサスムにも未来は無い」
円月刀を根本から折られ地面に這いつくばっている傷だらけのアルを、貫頭衣を羽織った修行僧のような褐色肌の大男が哀れむように見下ろしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます