第六話 林間学校≒ダンジョン⑨ ~≠ダンジョンコア~
「よう遅かったなアル! 何だそいつが今日の獲物か?」
ダンジョンから戻ってきた俺達を迎えてくれたのは満面の笑みを浮かべたエルの姿だった。
俺、エミリー、ファリンの三人は今日の獲物を捕まえたせいでクタクタだ。
「ンッ、ンーーーッ!
ちなみに獲物はロープで簀巻きにして猿轡をした自称天才です。
「すぐ捌こうかと思うんだけど包丁ある?」
「あと硬い棒」
「あとカミソリ」
ファリンとエミリーがそれぞれの獲物で捌くのを手伝ってくれるらしい、全く心が一つになった頼もしい限りだ。
「わぁ、おふたりの召喚獣見違えましたね! もしかしてアルくんに名前つけてもらったんですか?」
と、ここでディアナが簀巻きにした獲物を運んでいる二匹の召喚獣を見て感嘆の声を上げる。
俺が名前を付けたといえばちょっと語弊があるな今回は。
「いやエミリーのメモに書いてあったんだ。こっちの蛇がね」
「ヨルムンガンドにキャスパリーグだろ?」
「そうそれ」
説明しようとした途端、エルが名前を言い当てる。
やっぱり彼女何か知ってるなと思う物の、今は別の事に気が取られる。
「あれ、エル元気だねそういえば」
あれだけ肉がなくて死にそうな顔をしていたエルは、もう元気いっぱいの満点笑顔だ。
「おう! 取り柄だからな!」
「カレーの肉は?」
「生肉は匂い強くて魔物が集まるといけないからって、先生が退避させてたんです……ごめんなさい、ちゃんと確認すれば良かったですね」
ディアナが苦笑いを浮かべながら頭を下げるが悪いのは彼女じゃないだろう。
強いて言えば連帯責任、もっと言えば一言もそんな事を口にしなかったそこの大あくびをかましている担任かな。
「よく寝た……良い匂いだなカレー出来たか?」
「任せてくださいライラ先生! このイシュタール家秘伝のカレーパウダーを仕上げに入れて……完成!」
「お米も炊けましたよー」
鍋の上からパラパラと秘伝の粉っぽいものを撒くシバと飯盒の蓋を開けいそいそとかき混ぜるディアナ。
「なぁアル、カレーにするかライスにするかオレにするか!?」
「オレ以外で」
あとは訳の分からないテンションのアルだったが、腹が減っているのは俺達も同じ。
各自皿とスプーンを用意してそれぞれよそり、適当な所に腰を掛ける。
「よし席についたな、それじゃ食べ……ってアルフレッド、マルフォーネルの生徒なんてどこで見つけた?」
食事の挨拶を中断して、眠そうな目をこすりながらライラ先生が俺達の捕まえた獲物を指さし尋ねて来た。
ちなみに全員腹が減っていたのでがカレーをスプーンで掬い始める。
「ダンジョンの最深部で」
「そいつだけか?」
「ええそうですけど」
そう答えてから俺はカレーを口に運ぶ。うんやっぱり疲れた後のカレーは最高だな特にこの肉が良いね。
「面白いなアルフレッド、そんな冗談どこで仕入れてきた? ダンジョンの生成と維持ってのは常に膨大な数の魔法を同時に処理しなきゃならなくてな、最小単位の三階層でも十人単位でやるもんだぞ」
「一人で出来ないんですか?」
「まぁ出来る奴がいるとすれば……天才か変態かその両方だ」
先生も一通り説明してから、晩飯を酒で流し込み始めた。
まだ飲むのかこの人。
「そうなんですか……だってさ変態マスター」
少しだけ芽生えた罪悪感が、俺に食事を中断させて獲物を解放するという心優しい行為をさせる。
ちなみに獲物は大声で喚き始めたのですぐに後悔する羽目になる。
「天才ダンジョンマスターヴェルナスだ! 全くこれだからフェルバンの化石どもは……まぁ教師の質は及第点と言ったところだがな」
「硬い棒早く」
「カミソリ」
その鳴き声に苛立つ被害者の会のお二人。俺も包丁貰おうかな。
「まぁお前が馬鹿だって事は一旦置いといて、ダンジョンってのは特殊だからウチで教えてる魔法と同じ基準で比べるなよ」
と、ここで先生が先生らしく励ましてくれた。何てことだ折角の林間学校なのに明日は雨が降るらしい。
「と言うと?」
「ダンジョンコアってのがあってな、そいつには膨大な魔力が詰まってるんだが……どういう理屈かまともに使える代物じゃなくてな」
いつの間にか食べ終わっていたライラ先生が、煙草に火をつけながら説明を続ける。
食べるの早いんですね初めて知りました。
「自身の防衛、とでも言えばいいか。ダンジョンコアそれ自体を守ろうとする魔法に対しては無限に魔力を供給するんだよな。だから自身の魔力を使うウチの魔法とダンジョンを関連の魔法は別物ってわけだ」
「なんか凄いですねそれ」
なるほどよくわからない、ダンジョンコアは凄いけどダンジョンにしか使えないって事で良いのだろうか。
いやでもあんなダンジョンなんて何かの役に立つとは思えないんだけどな、何のために有るんだろう。
「ダンジョンコアの実物があれば少しは実感できるかもな……あのマルフォーネルのが回収してるんじゃないか? 青い球体なんだが」
必死に首を横に振るヴェルナス。
だが悲しいかなこの場所にはまだカレーに夢中じゃない仲間というか教師が一人じゃなくて一匹残っていたのだ。
「あ学園長」
まだ簀巻きにされたままのヴェルナスのポケットから器用に青い球を取り出す学園長。
嬉しそうにこっちにやってきたので、ついその頭を撫でてしまう。
「偉い偉い」
口にくわえたダンジョンコアをじっと目を凝らして見る。朝の青空のように透き通った真球のそれは妖しく光輝いている。
その色はどこか先ほど倒した何とかファントムによく似ており、その魔力はつい最近似たようなものを見たような。
「さっきから聞いていればやはりフェルバンの知識はカビの生えた物でしかないらしいなぁ! 近年はダンジョンコアの解析も進み……その名で呼ぶ物などマルフォーネルでは皆無だ!」
って眺めてるだけじゃ仕方ない。
滅多に無い機会だろうし、少しそれを触ってみようか。
「そう、その青く輝く宝石の名は」
ゆっくりと手を伸ばし、指先がそれに触れる。
吸い込むように、包むように。
辺りの景色を歪ませて。
「記憶の欠片だ」
落ちて行く。深い深い記憶の底に。
進んで行く。懐かしき日々への旅路へと。
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