最終話 大賢者を名乗った日① ~記憶の底、いつかの景色~
持参した机や何やらで作った簡素な炊事場で事件は起きていた。
「くそっ、誰がこんなひどいことを!」
「そんな監督、しっかりしてください!」
「殺せ、殺してくれ……」
どうでもいい辞世の句を詠むエルを抱えながら嘆くシバに両手を合わせ祈りを捧げるディアナ。
「どうしたの虫刺され?」
また大袈裟なんだから全く。
「アルフレッド君、これがこんな呑気な状況に見えるかね!?」
「ごめんなさい」
怒るシバに思わず謝罪する。もしかして結構な緊急事態?
「事情教えて」
「……無いんだ」
冷静なファリンがそう尋ねれば、涙を流しか細い声を絞り出すシバ。
そして透き通るような高い青空に向けて叫ぶ。
「持ってきた食材の中に……肉が無いんだ!」
「へぇー」
わーきんきゅうじたいだー。
「肉の入ってないカレーはカレーじゃねぇだろおおおおおおおっ!」
目を見開いて叫ぶ、じゃなくて駄々をこねるエル。
恥ずかしくないのかな600歳超えてるんだよねこの魔王様。
「くそっ、誰がこんなひどいこ」
「食材用意してくれたの先生じゃなかった? 抗議したら良いんじゃないかな」
シバがそう言ったので、正しい意見を口にする俺。
そして生徒一同馬車を見て、飲んだくれていびきをかいて酔っぱらってる教師を確認。そっと視線を元に戻す。
「駄目だ皆、どうやらオレはここまでのようだ……ガクッ」
ガクッって自分で口で言いながらうなだれるエル。
「監督ーーーーーーーーっ!」
「今日は俺の意見封殺される日かな?」
みんなそれらしく叫んでるけど俺の声聞こえてたよね?
「アルくん! お肉、お肉が無いんですよなんでそんなに平然としていられるんですか!」
「無いなら仕方ないんじゃない?」
「駄目だ、それは許されない! イシュタール商会のロングセラー商品ミックス・カレーパウダーの裏にも『まず初めに肉と玉ねぎを炒めます』と書いてあるんだ! そしてその調理法はまさしく家訓……それに背くという事は家を継ぐ資格がないつまりスジャアアアアアアタアアアアア!」」
今スジャータ関係ないよね? と言いかけてやめた。
よく考えたら、いつもスジャータは無関係なのだから。
「俺だけじゃなくてこっちの二人も冷静だけど」
ファリンとエミリーを指してそう言えば。
「おもしろい冗談。肉のないカレーは許さない」
「我の怒りが伝わらないとは、とんだ朴念仁もいたものだな」
「あれえっ?」
返ってきたのは悪態二つ。
そんな肉なんて偶にしか食えないんだから無いなら無いで良いと思うんだけどなぁ。
あれ、もしかして俺の家が貧乏だっただけ?
「しかしどうしようか、肉がなければもはや林間学校の感想文はカレーに肉が入っていなかったで終わってしまう」
さっきまでの元気はどこへ行ったのか、意気消沈するクラスメイト達と魔王エルゼクス。原因はカレーの肉がない事。
いや流石にそれは情けなさすぎるだろう。
「そんなに言うなら……取ってこようか? この森にも動物はいるだろうし」
さらに静まるクラスメイト、無言というよりは息を呑んだって感じだろうか。
どこか居心地の悪さが身を襲う。失言だったのかなもしかして。
「アルフレッド君、捕まえてもその……出来るのかい? 捌く的な」
「そりゃね。子供の頃からやってるから」
得意な仕事じゃないけれど出来ないって事はない、小さい鹿か猪あたりだと捌くのも簡単なんだけどな……等と考えていれば。
突然両手をシバに掴まれた。
「今日ほど君が親友だったことを喜んだ日はない!」
咽び泣くシバ。
「流石ですアルくん!」
ぴょんぴょん飛び跳ねるディアナ。
「アルフレッド、見直した」
ふふんと鼻を鳴らすファリン。
「クックックッ……我が眷属から同胞に格上げしようぞ」
何故か上から目線のエミリー。
「うわー入学してから一番褒められるのこれかー」
魔法学園に入学したのに魔法以外の事で褒められちゃったぞ。
「罠作るから、一応二人ぐらい手伝ってくれたら嬉しいんだけど……」
「私も行く。少しは錬金魔法が使える」
「あー眠らせる方が楽か」
そっちの方が余計に苦しませないで済むか。暴れたら血が回って臭みも増えるし。
「クックックッ……我も馳せ参じようぞ」
「森の中虫出るけど」
大丈夫なのかなエミリー耐えられるのかな。
「……だって料理できないもん」
まぁ無理そうですね何となく。
「んじゃ行ってきまーす」
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