第六話 林間学校≒ダンジョン① ~悲劇! カレー論争の輪舞曲~
揺れる二頭立ての馬車の中、膝を付け合せる俺達召喚科の面々。
「林間学校って何するんですかね?」
「そうだね、召使に聞けば自然の中で集団生活を営むことで協調性を身に着けるものだと返ってきたね……実際のところ野営らしいが、名門フェルバン魔法学園はそれだけじゃないだろうね」
「困った、枕変えたら寝れなくなる」
「ファリン君はいつも寝ていると思うのだが」
「それは昼寝、今のは夜の話」
いやね、和気あいあいとしているのは良いんだけどさ。
「あのー」
その前に聞きたい事とかあるんですよね。
何普通ににこやかに会話してるんでしょうね君たちは。
ファリンですら珍しく起きてるというね。そういえばそんな声だったね君。
「そうか、睡眠は大事だな……でもこうは考えられないだろうか? どんな環境でも寝るといのも訓練の一端ではないかと」
「なるほど」
「フッ、我が眷属どもよ……その前に決めなければならぬ重要な議題がある事を忘れてはいないだろうか!?」
「えーっと、部屋割りならぬテント割りですか?」
突然立ち上り右手を広げ、堂々と大声で叫ぶエミリー。
立つと危ないよ? いやそれより。
「あのさ」
「違うっ、林間学校といえば野営、野営といえば自炊……となれば今晩の夕餉が黄金の黄河たるカレーである事は明白! であるならそう、辛さを決めなければならぬのだっ!」
はいまた無視。
カレーの辛さより大事な話あるよねわかるかな?
「えーっと、みんなが美味しく食べられる辛さが良いと思います」
「我は甘口を所望するぞ」
「甘口……? それは香辛料の貿易で財を成したイシュタール家に対する挑戦と取って良いのかね?」
「絶対激辛、辛くないカレーはカレーじゃない」
「なにっ、あの甘さこそがカレーの秘める輝きそのものだというのに!」
ああもうカレーの辛さなんて真ん中くらいでいいだろうっての。
「あのーっ!」
声を張り上げれば、ようやく馬車の中が静かになる。
良かったよ俺の事に気づいた。シバなんかね、神妙な顔になってくれたからね流石話が分かるね。
「……アルフレッド君、まさか中辛とか言うんじゃないだろうね?」
どうでも良い話題で神妙になっているだけでした。
「その前に一つ確認したいんだけど……何で誰もいきなり林間学校って言われて疑問に思わないのかな!?」
生徒会の役員候補選抜のいざこざがあって突如俺の命が狙われたのが昨日。
こんなタイミングでいきなり林間学校だなんて何かあると考えるのが自然だ。
「えーっとですね、本当はもう少し先らしいんですけどライラ先生が気を利かせて早めてくれたみたいですよ? ほら、わたし達何かとトラブル続きでしたし……」
昨日の帰り、召喚科全員に対して行われた説明は一応筋が通る内容ではある。
けれどそれはどこか取り繕ったようなものに感じるのは俺だけじゃないはずだ。
「まぁ良いじゃないかこれぐらい。どうせ授業も自習が殆どだし、グリフィードを思い切り外で遊ばせたかったからちょうど良かったよ」
「フッ、我が愛猫の名前付けも切羽詰まっていたところ……これはまさしくリフレッシュ休暇に違いない」
シバとエミリーがそれぞれ頷きながらそんな事を口にする。
昨日生徒会長に殺されそうになったんだけど、と言えば神妙な顔つきになってくれそうだが、そういう事をして欲しい訳でもなく。
「気になるなら先生に聞けばいい。今はカレーの辛さの方が大事」
ファリンがその通りな事実を口にする。
横目で先生を見れば諸事情によりため息しか出てこない。
「そうだ、君達このマイガラムマサラが目に入らぬか!」
シバはポケットから香辛料の詰まった小瓶を突き付ける。
それは晩飯の時にでも出してね。
「……エルはどう思う?」
クラスメイト達に意見を求めても埒が明かないので、隣で腕を組みながらうたた寝をするエルの鼻提灯を突いてから聞いてみた。
「そうだな」
眠そうな目をこすりながら、ゆっくりとエルは口を開いて。
「中辛で作って自分で調味料足せばいいんじゃないか?」
――この論争に終止符を打つ発言をしてくれた。
もちろんカレーの辛さ論争である。
「……ちょっと先生に質問してくる」
やっぱだめだ怖いけど先生に聞いてこよう。ちなみに聞かずにいた理由なんだけど。
「難しいと思いますよ?」
ディアナの言うとおりである。
先生の足元にはワインの空き瓶が三本転がっており、いびきをかいて寝息を立てているのだ。
……ちなみにまだ朝である。
「あの先生」
「お、ついたか?」
「まだです、それより聞きたい事があ」
「チッ」
舌打ちをしたライラ先生、そのまま夢の世界へご帰宅。
なのでもう一人の引率者に声をかけてみるものの。
「学園長、事情とか知ってます?」
「ワンッ!」
返ってくる嬉しそうな鳴き声。そりゃ学園長だもんな、仕方ないか。
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