第五話 生徒会役員になろう⑤ ~続・叡智の欠片~

「説明しよう! 生徒会役員選抜借り物競争は三つの関門が用意されているのだ! まずは心の関門!」


 大声を張り上げる会長を尻目に、立ち上がって土埃を払う俺。


 ……それから一呼吸置いて一言。


「いやエル、お前ここで何してんの?」

「いや楽しそうな事やってんの窓から見えてな……本を読むのも飽きたしな」

「そうなんだ、勉強になった?」


 少し歩を早めて進んでいく。


 正直全力疾走するような競技ではないように感じていたから。


「どうだろうな……ま、大した事は書いてなかったさ。それよりアル、そろそろ第一関門だぞ」


 第一関門と言えば聞こえは良いが、雑に係員らしき生徒会役員と穴の空いた少し大きな箱と机が置かれているだけ。


「ま、召喚獣使うなって言われてないし……手伝ってもらおうかな」

「おう任せとけ!」


 反則と言われたらその時はゴネようと決心して、小走りで進んでいく。


 ちなみにローレシアはもう箱からくじのような物を引いて借り物を探しに行っていた。


 なるほどあの紙に持ってくるもの書いてるのか。


「はっ、独り言なんてFランク様は随分と余裕みたいね!」

「お見ろよアルあいつ、髪の毛焼けたからショートカットになってるぞ」

「あいつって……知ってる人?」


 エルが笑い声交じりにそんな事を言うのだから、思わず聞き返してしまう。


「お前らを襲って来た奴だろ?」

「あー……」


 そこで完全に思い出す。


 オリエンテーションの時に召喚科に喧嘩を売って来たと思ったら返り討ちにあったあの攻性科の人か。


 髪はエルの魔法で焼けたんだなうん。


 そりゃ死ねって言われるわ俺。


「アーッハッッハッハ! 先手必勝よぉ!」


 ご機嫌に駆けていくローレシアさん。まあ心の傷とかは無さそうで何より。


「残り物には福があるってね」


 遅れて第一関門にやって来た俺は箱の中からくじを引く。


 ローブのポケットに入ってる物なら助かるけど、ゴミしか入ってなかったなそういや。


 で、開ける。エルと二人で覗き見れば、思わずほくそ笑んでいる。




『バカ』

「俺が……借り物だ!」




 係員らしき人の前で紙を突き付け叫ぶ。これ以上のないバカがローブのハンガーになっていたのだ。


「認定!」

「よし!」


 叫ぶ係員、思わず唸る俺。いやこれ喜ぶべきものじゃないのかもしかして。


「ちょ、ちょっといきなり……ズルよズル!」


 丸太を引きずっているローレシアが叫ぶ。


 うわ借り物にあんなもの入ってるのか次から気をつけようっと。


「さあ次は……技の関門! どうする一歩リード中のアルフレッド・エバンス!」

「この調子でいこうぜアル!」

「いやこの調子はちょっと傷つく」


 会長の声に励ましてくれるエル。次はアホって書いてあったら、流石にシバを読んでこよっと。


 少し小走りしたら到着しました第二関門、やっぱり雑で係員らしき以下略。


 とりあえず箱に手を突っ込み、珍しく神に祈る。


「頼む……重くない奴!」


 そして選んだ一枚の紙、開かれたその文字列は。




『処女』


 違う意味で重かった。




 まあでもうん、楽な借り物で良かった。


「ビッチ先輩、ちょっとこっち来て下さい」

「何? 美人とか尊敬する先輩とか?」

「そういうの良いんで早く」

「……はいはい」


 どんな手を使ってでもと言っておいて不満そうな顔でちんたら歩いてくるチョロチョロビッチ先輩。


 彼女には見えないよう、お題を係員に見せる。


「はい認定!」


 よし、この紙は破いてポケットに突っ込んでおこう。


「先輩助かりました」

「あ、ちょっとその紙見せなさい!」


 無視して走り出す俺。


 ここまで来ればあと一歩、少しぐらい急いだってバチは当たらないだろう。


「なっ、どんなインチキよ!」

「あいつ意外と大変だな」


 抗議するローレシアは、ようやく係員に丸太を見せていた。その額には汗が滴り肩で大きく息をしている。


「ったく張り合いのない相手だな……アルもうさっさと終わらせようぜ」

「だね」


 エルの言葉に頷いて、第三関門まで一直線。箱に手を突っ込んで、やっぱり神に祈ってみる。


 今度は小さいものが良いなと。


「じゃ、最後のお題はっと」


 紙を開ける。


 成る程そこに書かれているのは、確かに小さな物だったけど。




『叡智の欠片』




 何この俺だけ触れない謎の道具。


「……詰んだわこれ」


 そもそもどうやって運べば良いんですかね。


「なんだこれ?」

「ああ、エルに言ってなかったっけ。生徒会の人がつけてるバッジなんだけど、なんか俺触ると消えるんだよね。アインランツェの時みたいに」

「あーあれか」


 簡単に説明すると、アルが頷いてくれた。


「それに貸して来れそうな人はもういないしね……」


 すいませんビッチ先輩また貸してください、というのは流石に無理だろう。


 この間の騒動の時に俺が叡智の欠片を触って消滅させたのは見ている。


 それに派閥争いで自分の席が無くなるなんて間抜けすぎる。


 後は他の生徒会役員に来てもらう……という考えが頭に過ぎるが恐らく難しいだろう。


 今回は前二つのお題の人と違って物だし、係員は中立だろうし会長は俺を勝たせたくない筈だ。


「布越しとかなら大丈夫なんじゃないか? 試したか?」

「試すにも現物が無いと」

「いや無いって事は無いだろ? そうだな……生徒会室とか」


 閃いたアルが提案するが、俺は首を傾げるだけ。


「でも貸してもらえるかなぁ」


 運良く事情の知らない生徒会役員がいて、事情を話して貸してくれる、なんて事は無さそうだ。


「は? 何言ってんだよアルこういう時は……盗むに決まってるだろ」


 決まってないです、と返したかった。


 けれど他に手段なんて無い俺は、そのまま生徒会室に向かって走り出すしか道は無かった。


 泥棒ってやっぱりバレたら生徒指導室送りなのかな、なんて些細な疑問を頭の隅に追いやりながら。

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