第五話 生徒会役員になろう③ ~煽りスキルSランク~
ここは校舎三階生徒会室、その扉は豪華絢爛。
どこかのお偉いさんの屋敷と見間違うほどの装飾に思わずたじろいでしまう自分がいる。
きっと生徒会というのはそういう人が所属する組織なのだろう。
改めて先輩の顔を見れば、なるほど確かにそれっぽい気品がそこはかとなく隠れている。
「会長、失礼します」
「失礼します……」
金魚のフンみたいに、堂々と扉を開ける先輩の後をついていく俺。
あたりを見回せばそこにあるのは扉以上に豪華な調度品の数々。
田舎者の俺がそう思える位なのだから、きっと世界に名だたる一級品に違いない。
そして豪華な肘付きの椅子に腰をかけ、ニッコリと微笑む黒髪の美少女。
その平たい胸にはどこか見覚えがある、星を象ったペンダントが。
どこで見たんだっけ? まぁいいか。
「随分遅かったね副会長。キミのことだからどんな男を引っ掛けてくると思ったら……これまた宣言通り偉い人材を連れてきたね」
頬杖を付きながら、鼻で笑う生徒会長。
けれど気品とか中性的な美しさを漂わせるその表情には無邪気の三文字がよく似合う。
「お言葉ですが会長? 少なくとも彼はこの間追放されたメガネ君よりよほど実力があるのは証明済みでしょう?」
刺々しい言葉を臆面もなく口にする先輩。なるほど『あの憎き会長』の言葉に偽りはないらしい。
そこまで悪人には見えないが、きっと性格が合わないのだろう。
「ふふっ、それぐらい承知しているさ」
どことなく犬対猫みたいなイメージが頭をよぎる。
もちろんチョロいほうが犬。
後ろで縛って上げてるポニーテールも犬のしっぽみたいだしね。
「で、そこの有名人はいつ自己紹介してくれるのかな?」
にっこり笑顔を浮かべながら、すっと俺を指す会長。おっとこれは失礼しました。
「あ、はい……召喚科一年生のアルフレッド・エバンスです」
「私は会長のマリオン・トルエンだ。よろしく……ところで今日はご自慢の召喚獣は連れてないのかい?」
「ええ、読書で忙しいみたいで」
「ふうん、勤勉なんだ」
また一通り微笑んでから、彼女は椅子から立ち上がる。
「では私の推薦する候補者にも自己紹介してもらおうかな?」
そしてパチンと指を弾けば、教室の隅に置かれたパーティションから一人の少女が顔を出した。
「ようやく……ようやく会えたわねFランク!」
赤毛でショートカット、少し小柄な一年生。
……初めて見る顔だがようやく会えたとはどういう事かな。
「えーっと」
「攻性科一年生ローレシア・フェニルよ、まさかこの名前に聞き覚えが無いなんて言うんじゃないでしょうね?」
あるかなぁと顔を見つめてみる。
美人というかかわいい系だな、この顔は。
「……もしそうだと言ったら」
「殺すわ」
冷たい視線に氷のような言葉が刺さる。俺恨まれてたりするのかな、身に覚えはないんだけど。
「まぁまぁローレシア、物騒な言葉なんてキミらしくないじゃないか。ほら役員候補者同士で握手握手」
諌める生徒会長が、笑顔で俺とローレシアさんの肩を叩く。
いやまぁ、彼女の殺意はきっと勘違いだろう。
それを解くためにはやっぱり挨拶って重要だから。
「はじめまして」
――笑顔でそう手を差し伸べた。
「……殺す!」
帰ってきたのは平手と殺意のこもった言葉。
なぜなのか、俺には理解できない。
「ちょっちょちょっと良いかしら!?」
何故か焦った顔の先輩が俺の肩を思い切り掴んできた。
いや聞いてくださいよチョロチョロビッチ先輩この女いきなり平手打ちしてきたんすよ。
「あんたねぇ、いくらなんでも喧嘩売るの早すぎるわよ! しかも何で煽るの妙に上手いのよ!」
「いやだって本当に知らない人に叩かれて……」
「はぁっ!? 本当に覚えてないのね……ほらアンタが入学式で助けられたとか言ってたじゃない! その子よその子、会長の親戚筋なの」
思い出す。
ここ最近記憶を探る事にろくな思い出が一つもないが、それでも必死に頭を捻る。
まぁでも謝罪文で誰かの名前を言ったような気もするし、この人の顔もどこかで見かけた事があるような。廊下とかかな?
「あー、そう言えば確かに見覚えが」
……という訳で嘘をついた。
俺にだってそれぐらいの社交性は持っているんだぞ。
「よし行きなさいアルフレッド、喧嘩はまだ早くてよ」
「はい先輩!」
よし挨拶をもう一回だな、また握手に挑戦するぞ。
「えーっと、お久しぶりです」
「ええ、貴方に会える日を首を長くして待っていたわ」
「そうだったんですかぁ」
手を握り返してきたローレシアさん。
でも結構強めに握ってるよね痛いねなんでだろうやっぱり恨みが籠もってるな。
だが挨拶と握手までは出来た。次は世間話あたりかな、えーっと当たり障りのない話題と言えば。
「ところで髪切りました? ロングヘアーだったよ」
「殺す!」
いきなり残った手で胸ぐらを掴まれた。なんで駄目なの女性に髪切ったって聞くの殺されるレベルなの?
「まぁまぁまぁ抑えて抑えて」
「マリオン会長どうして止めるんですか! 今すぐこの男を殺させて下さい!」
会長が暴れそうになるローレシアさんを羽交い締めにする。
そこまで怒るような事言ってないと思うんだけどな。
「あのねぇローレシア、生徒会役員はそんな物騒な方法で選定しないの」
「じゃあどうするんですかマリオン会長! この男を地獄に落とすには何をすれば良いんですか!」
ひどい言われようだ、やっぱり人間関係って嘘つくのが良くないのかな。
「では早速、対戦方法を発表しようか!」
それにしてもこの会長、随分とまぁ楽しそうで何よりである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます