第五話 生徒会役員になろう② ~内ゲバの鉄砲玉~

 先輩は妙に踵の高い靴でカツカツと景気のいい足音を静かな廊下に響かせながら、意気揚々と進んでいく。


 それはまぁ良いとして、呼ばれた理由がわからない。


「用事って何でしょうか?」


 なので聞く。


 多分怒られるだろうなというのが八割で、むしろなんで今さらという感情が二割。


「あんた知ってる? ここ最近で生徒会役員が二人も追放された事。それもバッジの紛失という前代未聞の事態でね……十年ぶりぐらいじゃなかったかしら?」


 まぁ当事者だから当然知ってますよね、二回とも。


「まさか犯人を探してるとか」

「いやあんたが犯人だってのは周知の事実だから」

「はい、覚悟します」

「怒るわけじゃないわよ。第一うちの生徒会は実力主義だから、ハッキリ言って取られる方が悪いわ」


 内心ホッとした自分がいる。まぁ悪いのは俺だと思うけどさ。


「じゃあ俺に話ってのは……」

「その前に、あなた生徒会役員ってどうやったなれるか知ってるかしら?」


 いきなりクイズを出されて驚く。そんな事言われても人並みの案しか出てこないのですが。


「選挙とかですか?」

「半分……まぁ人数で言えば三割ぐらい正解ね。それは生徒会長と副会長だけ。他の役員は任命だけど、ある条件があるのよ」

「と言いますと?」

「学科内で主席またはそれに準ずる成績を取る事よ。どこの科でも努力次第では生徒会役員になれるってしておかないと、優秀な人間が入ってこないでしょう?」

「確かに放っておいたら攻性科ばっかりになりそうですね」


 納得する。


 普通に成績上位者だけを集めてしまえば、Aランクの攻性科だらけになってしまうのは自明だ。


 それでも学科毎にするなら、誰でも役員になれるチャンスが生まれる。


 それは学校という小さな組織でも重要なんじゃないかって思えた。


「そういう事。それで本題なんだけど」


 一呼吸置いて、ビッチ先輩が毛先を指で遊ばせながら口を動かす。




「あんた生徒会役員にならない?」




 予想外の提案に、思わず息を呑む。


「いや、そのっ俺が……ですか? 別に頭が良いって訳じゃ」

「理解してるわよそれぐらい。Fランの成績に期待してる訳無いでしょ」


 バッサリと斬り捨てる先輩。まぁその通りです本当に。


「ただ、ある意味主席でしょ? どうせ全員最低点数なんだし」

「確かに」


 もはや言葉遊びや屁理屈みたいな理論だが、一応筋は通っている。


「だからあんた生徒会役員になりなさい。まぁアタシが推薦してあげるのよ、名誉な事なのよ?」


 名誉、という言葉が引っかかる。


 いやそもそもこの提案事態引っかかる事しか無い。


「質問良いですか?」

「ええ、許可するわ」


 堂々としつつも、若干目が泳いでいる先輩に聞きたいことは沢山ある。


 何で俺なんですか、先輩に何か利益があるんですか、そもそも生徒会って何をするんですかとか。


 けれどそれはどれも本質じゃなくて、聞くべき事はたった一つ。




「この話、何か裏がありませんか?」


 これだ。




 生徒会副会長がわざわざ俺を誘うなんて、裏があるとしか思えない。


「アホのくせに鋭いわね」

「先輩の表情が読みやすいんですよ……それにこの間の事もありますし、事情さえ説明してもらえれば普通に協力しますよ」


 まぁでも、裏があるからといって先輩を手伝わない訳じゃない。


 アインランツェの騒動で助けて貰った恩もあるし、何より先輩の事は人として好きな部類だ。


「そう、だったら単刀直入に言うわ」


 その四文字熟語にふさわしく、先輩は人差し指をぴんと伸ばし俺の眉間を強く押す。


 念じるように、言い聞かせるように。


 そして何より溜まりに溜まった鬱憤を爆発でもさせるかのように。




「あんたはアタシの手足になって……あの憎き会長の金魚のフンを蹴落としなさい!」




 あ、内ゲバの鉄砲玉だ俺

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