第五話 生徒会役員になろう① ~暇~

 入学式から早二週間。


 それなりに学校も慣れおまけにシバの屋敷での居候生活にも遠慮なく過ごせるようになった。


 後者が良い事かどうかは置いておいて、前者についてはおおよそ困ることは無くなってきた。


 ……ついでに生徒指導室に放り込まれるような事も。




 ただまぁ、問題が無くなる事はない。





「で、午後の授業は」


 昼休みが終わって少し経ってから、あくびをしながらやって来た先生が開口一番そんな事を言う。


「先生、『は』じゃなくて『も』じゃないですか?」


 そして黒板に爛々と輝く『自習』の二文字。なおこの文字はここ十日間消されたことは一度もない。


 他にやることは無いのだ。


「んじゃおやすみ」


 抗議の声虚しく、先生は椅子にもたれ掛かり持参したアイマスクを被せた。もはや何を言っても無駄だろう。




 ――で、クラスメイト達は言うと。




「ねぇエル、その本面白い?」


 この間から図書室に通うようになったエルは、何やら難しそうな本を椅子の上にあぐらをかきながら読んでいる。


「まーな、悪くないぞ」

「ふーん」


 ま、俺は興味ないけどねその『絶滅した生物辞典』って奴。


「ディアナは刺繍? 綺麗な柄だね」

「ええ、昔おばあちゃんから教えてもらって」


 ディアナはと言えば、たまに文字通り自習をしているのが六割で趣味の時間に当てている事が四割。


 人間案外堕落するものである。


「シバはキャッチボールね」

「君もやるかい?」


 その提案に首を振る。


 シバはだいたいグリフィードと遊んでいる。ある意味一番召喚科らしいと言えなくもない。


「ブツブツ……ブリュンヒルデ、アスガルド、レーヴァテイン……」

「うーん……ラグナロク」


 エミリーは相変わらず辞書で小難しそうな単語を引いているし、ファリンはつられて寝言を口にする。


「あの二人は邪魔できなさそうだ」


 で、最後に俺。


 入学式から数日は色々あったものの、今の状況は落ち着いているという言葉がよく似合う状況だった。


 ついでに気付いたのは、自分が案外無趣味な人間だったという事実。


こうやって手持ち無沙汰な時間を与えられても、これといってやりたい事もなく。




「あーあ、暇だな」




 ぽつりとそんな言葉を呟く。


 自分が一番この状況に適応できてないかもなんて、ほんの少しの寂しさを感じながら。




 ――なんて言ってた自分を殴りたい。




「ちょっと! 生徒会副会長のイザベラ・ミハイロビッチだけどアルフレッド・エバンスいるかしら!?」


 突如開かれる教室の扉に、威勢の良すぎる声が響く。


 えーっと……確かこの人は。


「チョロチョロビッチ先輩おはようございます!」

「誰がチョロチョロビッチよ! ……って暇そうねアンタ」


 腕を組んで辺りを見回し、見たまんまの事を言う。


「はいその通りです」

「アンタちょっとついて来なさい……良いですねライラ先生?」


 返事はない、ただの昼寝してる不良教師のようだ。もはやこの光景にクラス全員何も言わない状況が怖い。


「いいそうです」

「全く、これだからFランは……」


 呆れたため息をつく先輩だったが、誰も言い返せやしない。


 どうやらシバが謳った我々の地位向上は随分と先の事になりそうだ。

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