第四話 はた迷惑なユニコーン⑤ ~早すぎますっ~

 ――だが反省文は書かされた。


 自分の監督不行き届きではと言いたかったが、今日は生徒指導室送りにされなかったのでそれだけでも良しとしよう。


 ビッチ先輩が懇切丁寧に事情を説明してくれたおかげだろう、俺とディアナは放課後に数枚の反省文を提出する程度で許された。


 ちなみに処女じゃない方の生徒会役員は何者かにバッジを奪われて生徒会を追放されたらしい。


 絶対身内の犯行で動機は逆恨みだよね。


「ふーっ……終わったぁ」


 ディアナが机に突っ伏して、風船から抜けた空気のように言葉を吐き出す。


「お疲れ様、災難だったね今日は」

「ですねぇ……ってアルくんもう終わったんですか?」

「うん、もう反省文は慣れたからね」

「まだ入学して三日目ですよね?」


 クスクスと笑うディアナからそっと目線を逸らす俺。


 多分現実からも逸しているんだろうな、うん。


「そういえばあのユニコーン……アインランツェはどうなったの?」

「一旦家に帰ってケージにしまってきました。3日は外に出してあげないんですから」


 頬を膨らましてそんな罰を口にするディアナ。


 ま、そんな程度でめげるあいつじゃないだろうと一人で笑う自分がいた。何が乙女はワインだよ全く。


「あの、それはそうとアルくん……」

「何?」

「今日は……ありがとうございました。私、何にも出来なくて……全部頼りっぱなしでした」


 深々と頭を下げるディアナ。そのせいで少しの気恥ずかしさが芽生えてしまう。


「いや何にも出来なかったって事はないんじゃない? というか一番大変だったのディアナだしさ。こういう時って謝らなくていいと思うよ。大変な時って誰にもあるから」


 何かそれっぽい事を口走る俺がいる。


 理論なんて無いに等しいけれど、ディアナの表情が曇るのを黙って見れない自分がいたから。


「でも……私っ」


 何かを言いかけたディアナだったが、意外な闖入者が主張してきた。


 それは俺の腹の虫で、グーグーと鳴っている。


「ごめんなさい」

「普通こういう時謝りますか?」


 また彼女が小さく笑ってくれたから、今日はよく眠れそうだと一人で思う。


「あの、良かったら少し寄り道して行きませんか? 美味しいケーキ屋さんが近くにあるってお姉ちゃんが言ってたんです」


「えっ、ケーキ! 行く行く!」


 ケーキと聞いて黙ってられない俺がいた。


 いやだってケーキだよ年に一回しか食えないアレだよ。アレが食べれるのかこの学校の近くで都会って凄いな。


「そ、そんなに喜んでくれると思いませんでした……」

「あーでも金あったかな」

「何言ってるんですかアルくん、今日のお礼も兼ねて私のおごりですっ」

「女神かな」


 実際一番の功労者はライラ先生だけど、表彰理由を口にできないので黙っておこう。


「エルも誘ったほうが良いかな? 何か気になること出来たから図書室行くって言ってたけど」

「あ、えーとそれはその……」


 もじもじと恥ずかしがるディアナ。その表情から察するに、だ。


「わかるぞディアナ、あいつ大食いだからいくらかかるか怖いんだろ」


 店のケーキ全部食いそうだもんなあいつ。


「え!? あ、えーっとはい私もそんなに持ち合わせは無いっていうか」

「じゃ、二人で行こうか……こっそりさ」


 ケーキでつい浮かれているのか、人差し指なんか口の前に当ててしまう。でも隠れて食う甘い物って余計に美味いんだよな。


「あっ、はいっ!」


 ピンと立ち上がるディアナに、想像以上に足取りが軽くなる俺。


 さーて反省文さっさと出しに行きますか。


「もうアルくんったら、早すぎますっ」


 抗議の声は聞こえたけれど、ここはあえて反応しない。




 何故って今の彼女の台詞は、あのユニコーンが大喜びしそうなそれだったから。

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