第四話 はた迷惑なユニコーン③ ~チョロチョロビッチ先輩のチョロチョロ伝説~

 隣の一年凋落科、の教室の扉の前に立つ俺達。


 聞こえてくるのは阿鼻叫喚の地獄絵図っぽい悲鳴の数々。


 あのユニコーンどうやって扉閉めたんだろうという無駄な事をつい考えてしまう自分がいる。


「うわー開けたくねー」


 そして漏れた言葉はただの本音。しかし俺の尻は叩かれる。


「ちょ、ちょっとアンタが開けなさいよ」


 露骨に不満そうな顔を浮かべるビッチ先輩。開けるの、俺が?


「いやここはやっぱり生徒会のビッ……なんだっけ……生徒会の先輩にビシッと決めていただかないと」


 思いの外よく回ってくれた口が、とても二歳年上の先輩に言うべきではない台詞を発してくれた。


 また尻を叩かれるのかな、と思ったがビッチ先輩は顔を赤くしてもじもじし始めた。




「そ、そうかしら?」


 うわこの人チョロい。




「ええ、ここはビシッと! いよっ先輩美人すぎる!」


 持ち上げれば先輩の鼻息が荒くなり、意気揚々と扉に手をかけた。


 よし今度からこの作戦で行こう。


「せ、生徒会副会長のイザベラ・ミハイロビッチよ! 全員大人しく」


 絶句する俺達。


 散々机やら椅子やら教科書やらを撒き散らしたユニコーンは教室のど真ん中でブルブルと鼻を震わせている。


 そしてゴミのように倒れる全ての男子生徒と教師とあと三分の一ぐらいの女子。


 うわ結構確率高いんだな同年代割とショックなんだけど、じゃなくて。


「わー地獄絵図」


 身を寄せ合う一部の女子生徒に満面の笑みを浮かべるユニコーン。こいつ最低だよな。


「ちょっと、どういうことか説明しなさいよ!」

「なんてことだ、奴は処女の楽園を作る気なんだ……!」


 あれでもそれって結構悪くないんじゃ。


「あああアルくん? あんまりそういう言葉言わないでもらえると……」

「ごめんなさい」


 ディアナに謝る。


「しかしどうやって奴を押さえようかな……」




 さて、作戦を考えよう。




 ごく普通に考えて、あれだけ体躯の良い馬を学生四人で取り押さえるというのは無理な話。


 だが一人見た目だけ学生の人っぽいのがいるので、そこが作戦の要だろうから聞いてみる。


「エル、何かいい案ある? 俺の記憶うんぬん以外で」


 正直あれには頼りたくない。


 白昼夢を作戦に組み込むなんて正気の沙汰じゃない。


「ま、足止めだけなら色んな方法があるだろうな。麻痺させたり眠らせたり……後は罠とか」


 成る程それが現実的か。で、それってどうやるんでしょうかね。


「なるほど、エル出来る?」

「殺していいなら」

「駄目です!」


 ディアナが大声で抗議する。そのせいでこちらに気付いたユニコーンが、器用に扉を角で開けてからゆっくりと教室を後にした。


 慌てて口をディアナが押さえるが、時既に遅しとはまさにこの事。


「ハッ、本当に使えないわねFラン共は」


 そんな俺達の様子を見て、ビッチ先輩から手厳しい言葉が一言。


 返す言葉は一個だけ。


「ビッチ先輩出来るんですか?」


 必殺自分を棚上げ。あ、ビッチ先輩って言っちゃったまぁいいか。


「はっ、当然でしょう!? こう見えてもアタシ錬金科主席……薬の扱いならお手の物よ?」


 ふんぞり返って偉そうな言葉を吐くので、早速ついさっき覚えた作戦を決行する。


「すごい先輩、さすが先輩お願いします先輩!」


 褒める。


 効果は抜群だ、ぐんぐんビッチ先輩の鼻が伸びていくぞ。




「し、仕方ないわね!」




 チョロっ。

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