第一話 魔王が名乗った日④ ~オリエンテーションと竹槍~
所変わって俺達は年季の入った教室を出て、校庭のすぐそばにある森の入り口の前で体育座りをさせられていた。
先生はと言えば相変わらずタバコをくわえながら、俺達に一枚の紙を差し出してくれた。
「よーし、全員に行き渡ったな。早速だがオリエンテーションを始めるぞ」
「今日の資料ですか?」
軽く目を通して質問する。ちなみに題名は、召喚魔法をはじめよう。
その1、召喚獣と契約しましょう。
地面に五芒星の魔方陣を描いて召喚獣を真ん中の五角形に放り込んで魔力を込めれば契約完了です。
その2、召喚魔法を使いましょう。
指先に魔力を込めて五芒星を描いたら、真ん中の五角形を強く押します。何で押してもいいです。
その3、もう教えることはありません。
「いや、お前らの三年間の教科書」
――これだけである。
ちなみに紙の半分は言われなくたってわかる五芒星の絵で埋まってるのにまだ余白がある。
すごい、たったこれだけを三年間もかけてどうやって学べば良いんだろう。
「仕方ないだろ、召喚魔法ってこういうものなんだから……はい魔物捕まえた契約します召喚します以上! あと何の説明する? こっちの身にもなってみろ」
三年かけて紙切れ一枚の内容を教える方と教わる方どちらが大変かと言う議論の結論はおそらく出ないが、今日のところは他の四人の表情が相当暗いので教わる方の勝ちでいいだろう。
「まあ何だ、全く役に立たないって訳じゃないからな召喚魔法。むしろ交通や流通には欠かせない魔法だぞ、奇跡的に卒業した連中の就職先は悪くないぞ?」
先生がフォローをいれてくれるが、誰も聞いちゃいなかった。
「ところで先生、どうして俺達外にいるんですか?」
それはともかくとして、落ち込んでいても話が進まないから先生に純粋な疑問を投げかける。
まさかさあオリエンテーションだと言われて教室を後にするなんて思ってもいなかった。
「どうしてってアルフレッド、お前は召喚獣も無しに召喚魔法が使えると思ってるのか?」
「確かに」
「ちょうどこの森には召喚獣になりそうな魔物が沢山いてな。お前らその辺から捕まえてこい」
「今からですか?」
「私はこう見えて面倒な仕事は先に片付けるタイプなんだ」
ちょっと先生の都合はどうでも良いですね。入学初日から魔物と戦うとか想定してないんですけどねこっちは。
「ライラ先生、僕らに魔物と戦う力はないと思うんですが」
と、最早クラスのまとめ役と言っても遜色のないシバが至極真っ当な質問をしてくれた。きっと地元の彼女が絡まなければ結構常識人なのだろう。
「あのなぁシバ、まさか丸裸で魔物のいる森に向かわせる教師がいると思うか? 武器ぐらい用意しているに決まってるだろ」
その言葉に俺達は胸を撫で下ろす。そうだよねまさかろくに魔法も使えないFランクに魔物と戦ってこいだなんてそんな無茶な要求あるわけないよね。
「あそこに刺さってる竹槍から好きなもの持って行っていいぞ馬鹿ども」
先生が指差した先には、竹槍が地面にぶっ刺さってた。もはや竹槍の群生地である。
もっとまともな武器はないんですかという質問はどうせ無駄だろうと無言で悟った俺達は死んだ目で竹槍を引き抜いた。
夜に会ったらゾンビに間違われるに違いないだろう。生気のない表情なんて特にリアルだ。
「よしじゃあ……行ってこい」
えいえいおー、なんて掛け声は無い。
生きる気力を無くしたFランはコミュニケーションを放棄し重い足取りで森に入っていく。
団体行動なんて取れる気力は残っておらず、皆それなりの距離を置いて藪のなかを進み始める。
「ディアナ」
その一つの去り行く背中が暗かったから、思わず声をかけてしまう。
「あ、アルくん……どうしました?」
「いや元気かなって」
あるわけないだろ見りゃ分かるだろ俺の馬鹿。
「え、えへへ……あんまりないです」
「良かったら一緒に探しにいかない? 一人より二人のほうが効率いいかなって」
ごく自然にそんな提案を口にする俺。けれど彼女は少しも頭を悩ませず、首を左右に振っていた。
「えっと、今は一人にならなきゃいけないと思うんです。あ、アルくんが嫌だとかそういうのじゃないですからね!? ただ、家族に何て言おうとかこれからやっていけるのかとか……ちゃんと自分で考えなきゃいけないかなって」
「立派だねディアナは」
「こんな状況で周りの心配する人に言われるとは思いませんでした」
クスクスと彼女が笑い、そんな言葉を残して森の中へと進んでいった。
その足取りは少しだけ軽そうだったから、自分も少しは人の役に立てたのかなと自惚れる。
と、周りの心配している場合じゃないな俺も。
結局Fランクなのは変わらず、馬鹿にされる未来も目に見えているけど今は目の森に挑もうか。
何の役に立つかわからない、竹槍でも杖にしながら。
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