第一話 魔王が名乗った日③ ~99点の秘訣~
「ま、待ってください先生! どうして僕達がFランクなんですか!」
席に戻る間もなく、シバが抗議する。
「ファンタスティック馬鹿だからだ」
が、一蹴される。なるほどFランクのFはファンタスティックの意味だったのか。
試験には絶対出ないから覚えなくていいな。
「納得できません!」
しかし、その一言で大人しくなる彼ではなかった。
むしろその鼻息は荒くなり、侮辱されたかのように悔しそうな顔をしていた。いや馬鹿にされてたね俺達ファンタスティックって付けても単純に馬鹿呼ばわりされてたわ。
今度は担任が表情を変える番だった。
面倒臭いって文字が顔に張り付くぐらい呆れたような表情で頭を掻く。
それからタバコの煙を吸い込みゆっくりと吐き出して、教師らしく一つの提案をしてくれた。
「あー……まあそこまで言うなら仕方ないな。入試の結果って本当は個別に教えなきゃならないんだが、全員納得いきませんって顔してるから今ここで教えてやる。いいな?」
その一言でこのFランクの無駄な暴動騒ぎは収まった。
各々が席に戻り、ただゆっくりと頷いたのだ。
まぁ当然そうするよね、皆自分の入試の点数に自信があるんだから。
「そこの天パの名前は……シバだな」
と言うわけで、初めは扇動者だったシバが指差された。
「シバ・イシュタールです。故郷にスジャータという恋人がいて彼女はそうまさしく天からこぼれ落ちた太陽の化身僕の人生全ては彼女に捧げるためにある!」
拳を握り力説する。
自己紹介と言うか彼女の紹介だったが幸せそうで何よりです。先ほど風貌までは伺えなかったが、線の細い流行りの美男子といった風貌の彼にお似合いの美人なんだろうと自然に想像してしまう。
多分彼の愛のなせる業なのだろう。
「筆記は平均の53点実技は44点……面接が2点だな」
手に持っていたノートを捲りながら、先生が淡々と答える。
面接が異常に低い。
あれ自信あったんじゃなかったっけ面接。
「にて、2点ですかぁっ!? おかしいですよ、僕はスジャータの素晴らしさについて時間の限り語ったというのに!」
「それが原因だな、よかったなー自己採点間違えてて」
なるほど面接中もこの調子だったのか、そりゃ駄目だわ魔法学園関係ないわ。
「で、そこのボブ眼鏡」
「……ファリン・エゼク」
小柄なボブカットで眼鏡の少女が、多分トレードマークなのだろう眼鏡をクイっと直して端的に答える。
確か錬金科志望だったような気がしたぞ。
「筆記99点実技0点面接0点……何やったんだお前」
「……寝てた」
「そうか良かったな、これからは寝放題だぞ」
どうして試験の三分の二を放棄してFランク認定に疑問を持てたのだろうかこの人。
「次行くか。金髪のディアナな」
「は、はいディアナ・ハーベストでしゅっ!」
噛んだ。
可愛いなって素直に思うのは俺だけじゃないだろう。
「あがり症だったんだな、欄間違えて筆記0点で実技も39点だが面接60点だ」
「あ、でも面接もうまくしゃべれませんでした……」
「おじさんの面接官って人種はね、そういうの好物なの」
良かった面接官のおじさんも俺と同じだ。落ち込んでる顔も可愛いと思うよ。
うーん100点あげちゃう。
「で、眼帯ツインテ……目怪我してんのか? 医務室行くか医務室」
次の標的に容赦のない言葉を浴びせる先生。多分それ悪いの目じゃないと思うんですよね。
「ちがっ、これはじゃが、邪眼であるぞ! それに魔界のプリンセスの生まれ変わりたるこのブラックレイヴンをが、眼帯ツインテとは不敬であるぞ!」
「本名はエミリー・フランシスっと……筆記22点実技77点面接0点だぞ理由はわかるな」
本名エミリー以外のクラスメイトも頷いた。何となく察したのだ、眼帯で隠された出来物とか物貰いの類には触れちゃいけないんだなって。
「ふっ、あのような俗物どもに我の崇高な闇の理想を理解できるものか……クックックッ、この学園も地に落ちたものだないずれ地獄の業火がこの学園を包むことだろう」
「そういうとこだぞ」
ちなみに学園が物理的に浮いてたことは一度もない、むしろ浮いてるのは……やめておこう触れたら地獄の業火で大火傷するかもしれない。
「最後、そこの……特徴ない奴」
「アルフレッド・エバンスです」
最後の標的こと俺は素直に名前を答えた。
まぁそうだよね、背も体重も標準で少し長めの黒髪ってどこにでもいる特徴だよね。他のクラスメイトが個性豊かすぎるだけって気がしないでもないけどさ。
因みに名前は大賢者にあやかった名前でこの国で五番目ぐらいに多いはず。苗字は確か三番目だったかな、自分でも平凡なのはわかってます。
「名前も特徴ないな、よくある名前によくある苗字か……おっでも点数は特徴的だな」
「本当ですか?」
「全部33点だ」
わぁ逆に取るのが難しい点数だ。
「はい、じゃあ君らに早速問題。三科目合わせて合計何点だった?」
ノートを閉じ、ため息混じりに先生がそんな事を尋ねてきた。
俺は簡単だ、33の3倍するだけ。99点、惜しいね。いや何にも惜しくないわこれ普通に悪いだけだわ。
だが少し不思議なことに、クラスメイトの呟き声も俺と同じ数字だった。
「……皆99点だ」
シバが呟けば、思わず互いの顔を見合わせる俺達。
そんな所に共通点があった、いやむしろFランクというのはそもそも。
「そういう事だ。Fランクってのはこの学校の合格最低点に対する評価だぞ、この教室にいる事に納得したか? ちなみに採点ミスってのは無いからな。よし納得したな? よかったなお前ら、私は最低点を取る奴が五人もいる事実に全然納得してないぞ」
まぁ死んだ目でタバコふかしてる人が納得してる訳ないよね。
「最低点ってことは、例年召喚学科って一人しかいないんですか?」
「いや二年と三年は0人だ。学内でFランFランと馬鹿にされるのに耐えきれず実家に帰った」
思わず口についた質問の答えは、思った以上にひどい話だった。
ついさっきまで意気揚々とえいえいおーなんて叫んでいたクラスメイト達も、三年間そんな生活が待ってると知って目どころか顔の筋肉まで死んでいる。
まぁその片鱗に関しては、皆あの掲示板の前で味わったのだろう。
「ま、今のうちに諦めて実家帰るってのも手かも知れないな。そういう相談は5時までならいつでも聞いてやる」
で、先生が無駄に追い討ちをかける。最早背筋を伸ばして着席しているのは俺だけだ、
スジャータスジャータと呟いたり目を閉じたり涙声で嗚咽を漏らしたり眼帯を掻きむしったりと皆全力で現実から逃げようとしていた。
流石に申し訳ないと感じたのか、タバコの火を消しポケットから取り出した小さな灰皿に吸い殻を入れ、先生が両手をぱんと叩いた。
「聞いてやるが、まぁ焦って結論を急ぐ話でもないさ。今日のオリエンテーションぐらい受ける元気はあるだろう? これからの事はゆっくりと考えれば良い」
先生が微笑めば、少しだけ顔を挙げて微笑む生徒。
流石フェルバン魔法学園、Fランクの召喚科でも先生はこうやって人を励ませれるぐらい一流の人が揃ってるんだな、なんて思ってしまった。
「どうせ召喚学科暇だしな!」
なんて思ってしまった二秒前の自分を殴りたい。
絶対人をおちょくって楽しんでるよこの先生。
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