第16話 遺した書簡

「先ほどはすいませんでした。

 せっかく佐助さんに色々と教えていただいたのに、全部無にするようなことを致しまして(涙)。

 ですが、ロック様の除名という一言で、私の中の何かが壊れてしまったような気がしたのです。

 ですので、もう、皇軍にはいられないな、と……。

 ゲームを続けていく気力も萎えました。

 ブラ戦ともお別れする気でおります。


 佐助さんもご確認なさったと思いますが、私は離反致しました。

 離反って悲しいですね。

 本拠も一から作り直さないといけませんし、領地も全て無くなってしまいました。

 残ったのは、遠征を共にした速度武将と、陥落の危機から救ってくれたSR徳川家康君などのカード武将だけです。

 出来ればBプランを試してみたかっただけに、その点には心残りがあります。


 離反を押した直後に、私は垢削除のボタンも押しました。

 垢を削除するのには48時間の猶予があるようで、今、ゲーム画面ではカウントダウンが進行しています。

 この時計が0:00:00を示したときに、私はブラ戦とお別れするようです。


 ただ、私が0:00:00を見ることはありません。

 もう、インするつもりがないからです。

 ですので、これが佐助さんに送る最後の書簡になります。





 私は同盟を去りましたので、もう皇軍のことについてとやかく言うつもりはありません。

 しかし、佐助さんにはお世話になりましたので、幾つか気になったことを記そうと思います。

 私が思っただけのことですから、その真偽のほどは定かではありませんが、私的には間違いないと思っています。





 まず、先ほど述べたように、近い内に皇軍はどっキングに落とされると思います。

 これは遠征を始めた当初からそうなるのではないかと危惧しておりました。


 根拠は、どっキングが東ルートへ凄く力を入れていたからです。

 マップを見ると分かるのですが、東ルートと並走しているどっキングの方々は、たしかに速くて統率がとれています。

 これは佐助さんも仰っていましたよね。

 ですが、南東の他の地区を見て下さい。

 どっキングはそれほど一生懸命に遠征をしていないのです。

 南東と南西の境などは、大して速くもない同盟に競り負けていたりします。

 南東の隅へ向かうルートでも、隣接したNPC砦の数は多くありませんし、明らかに東ルート方面だけに多くの人力を割いているのが分かります。


 しかし、NPC砦の攻略に関しては突出した結果を残しています。

 すでに10か所を攻略し、17鯖で断トツの早さです。


 つまり、どっキングには、南東以外に攻略するNPC砦のあてがあるとしか思えないのですが、いかがでしょうか?

 NPC砦をどんなに早く攻略しても、隣接している数自体が少なければ早晩手詰まりになります。

 そうならない自信があるからこそ、遠征はそこそこにして攻略に力を入れているように、私には見えるのです。


 こう考えると、遠征で一番力を入れた北東側に色気を持っていると判断するのが妥当だと思うのです。

 その色気を持っている北東で一番大きい同盟と言えば皇軍です。

 皇軍を攻めることを前提に戦略を立てているとしか思えないのですが、いかがでしょうか?

 皇軍で一番動きの良い佐助さんを遠征に釘付けにするためだったと考えるのは、勘繰り過ぎなのでしょうか?

 以前お話したたぬ無双の黒幕は、どっキングであると私は確信しております。





 次に、たぬ無双との戦争についてお話します。


 先ほども申しましたが、私は戦闘報告をメモっていました。

 随分と面倒なことをすると、佐助さんは呆れておられたのではないでしょうか?

 ですが、そうしたのには、訳があります。

 それは、あまりにもたぬ無双側の手際が良過ぎると感じたからです。


 効率的に防御をするには、敵襲のマークがいつ点くかを見極めることが重要だと思います。

 衝車に耐久を壊されてしまえば落ちてしまうのですから、いつ衝車が撃たれたかを見極めることこそが防御の基本ですよね。

 ですが、人それぞれ生活があり、常にゲーム画面とにらめっこしている人はいないと思います。

 と言うことは、戦闘相手に合わせるのには限界があると考えるのが普通ではないでしょうか?

 私がオッサン将軍さんの攻撃を撃退できたのも(あれはかなりラッキーだったと思いますけど、汗汗)、衝車が撃たれた時にゲーム画面を見ていたからです。

 そうでなかったら何も知らずに落ちていたと思います。

 しかし、そんなラッキーなことはそうそう起こらないはずです。

 衝車を撃つタイミングは攻撃側にそれを選択する権利があるのですから。


 そう考えると、たぬ無双側の防御が不自然なことが分かります。

 まるで、こちらがいつ衝車を撃ってくるのかが分かっているかのように、ピンポイントで籠城なさっておられましたから。

 幹部様方の拠点からココさんの本拠周辺までの距離は、4~5マス。

 所要時間は最速のスキルを使って40分。

 速度のスキルを使わないと1時間20分です。

 何度も衝車を撃たれて、ピンポイントで籠城に入るのは明らかに不自然です。

 籠城は5時間前に設定しないと、間に合いませんから。


 佐助さんなら私が何を言いたいかお分かりですね?

 そうです。

 皇軍内にはスパイがいて、たぬ無双側に情報を流しているのです。

 それも、幹部様方の中にいます。


 私が思うに、衝車を撃たれるのが嫌だったら、衝車を壊す作業をするはずなのです。

 つまり、防御側が攻撃側の拠点を攻撃し、作ってストックしてある衝車を壊す作業をするのではないでしょうか?

 しかし、戦闘報告には、それと思しきたぬ無双側からの拠点への攻撃は一切ありません。

 これは明らかに衝車を撃たれても大丈夫だと思っているからです。

 そして、皇軍側で衝車を撃ったのは、茉莉様とサンジ様とココイチ様の3人のみ。

 だとすると、この3人の中に裏切り者がいるのではないかと考えるのが妥当ではないでしょうか?


 茉莉様は違うと思います。

 理由は分かりませんが、ロック様に忠誠を尽くしているからです。

 その忠義の方向が正しいかどうかは分かりませんが、ロック様の不利益になるようなことをしたいと思う訳がありません。

 ですので、茉莉様はスパイではありません。





 余談になりますが、私にはリアに将棋を含めたゲーム全般を教えてくれた師匠がいます。

 師匠はネットゲームにも堪能で、先日も某ゲームでランキング1位になったと言っておられました。

 まあ、師匠はいつもゲームを極めてしまう人なので、それほど驚くにはあたらないのですけどね(汗汗)。


 その師匠が以前、言っていたのです。

 複垢を判別するには、HNを見ろ……、と。

 アニメのキャラクターをHNにしている者は、複垢使いの可能性が高いのだそうです。


 これは、本垢と複垢を同時に運用するときに、その垢ごとに人格を設定しておかないと管理が難しくなるからなのだそうです。

 本垢と複垢が立場が違うのに同じようなことを言ったらおかしいですし、複垢しか知りえない情報を本垢が不用意に漏らしてしまったらすぐに複垢使いであることがバレてしまいます。

 そうならないように、アニメのキャラクターの人格を利用するのだそうです。

 このキャラならこんなことを言いそう……、と考えながら複垢を運用するそうです。


 ……で、私はこの理屈を根拠にサンジ様を疑っておりました。

 ですから戦闘報告をメモっていたのです。

 サンジ様の戦闘の仕方が不自然かどうかを確かめたかったので。


 しかし、この予想は外れていました。

 サンジ様は茉莉様ほどではありませんが、ココさん周辺のまくり合いにもしっかり参加していますし、ご自身だけで殲滅部隊と衝車部隊を撃っていることもありましたから。

 そして、その時だけ、ココさんの隣接を埋めるたぬ無双側の拠点が落ちたのです。

 落ちない時も、サンジ様だけで攻撃した時には籠城には入られていません。

 たぬ無双側は差し込みで攻撃を凌いでいました。


 つまり、サンジ様はスパイではないです。

 サンジ様が複垢かどうかは分かりませんが、少なくともたぬ無双と通じているスパイではないことは断言出来ます。





 茉莉様ではない。

 サンジ様も違う。

 残る幹部は佐助さんとココイチ様だけ。

 ロック様がご自身が立ち上げた同盟の不利益になるようなことをする訳がありませんので、可能性は二択となります。


 ですが、ロック様もスパイがいそうなことに関しては、気が付いておられたようです。

 あまりにもココさんが落ちないので、不審に思っておられたのでしょう。

 チャットルームでの会話にも、それは表れていましたね。

 そして、その疑いを私に向けていたのではないかと感じていました。

 あのチャットルームに頻繁に顔を出していたのは、ロック様、茉莉様、サンジ様、佐助さん、私でしたから。

 しかも、私は発言を禁じられたにもかかわらず頻繁に出入りしていた(佐助さんと話をしていたのですから当然なのですが、それはPMですのでロック様には分かりませんよね、笑)。

 疑われる要素を強く持っていたのは自覚していたのです。


 だから、ロック様はたぬ吉さんの本拠に自ら行くのを嫌がったのだと思います。

 私が佐助さんをそそのかして、ハメようとしているのではないかと勘繰ったのでしょう。

 もしかすると、ロック様が本当のスパイに相談したときにそう言われて、信じたのかもしれません。


 しかし、私はスパイではありません。

 それは、何れどっキングが皇軍を落とすことで証明されます。

 それに、私がド初心者だったことは、佐助さんならお分かりですものね(笑)。


 話を戻します。


 幹部の中で怪しいのは、消去法でココイチ様だけとなります。

 佐助さんは当然違いますし、ロックさんもそれは分かっておいでです。


 そこで、私はココイチ様の戦闘報告を調べてみました。

 すると、ココイチ様はご自分だけで攻撃したことが一度もないことが分かりました。

 常に他の幹部の方々と連携しながら攻撃しているのです。

 しかも、領地のまくり合いにはほとんど参加していない。

 手間のかかることはほぼせず、衝車を撃つタイミングを知ることを目的にしているかのような戦闘の参加の仕方なのです。


 結果を見ると明らかなのですが、ココイチ様が戦闘に参加した拠点や本拠への攻撃は、全て籠城で防がれています。

 これをもってココイチ様がスパイだと断定するのは行き過ぎた判断でしょうか?


 傍証として、もう一つココイチ様を疑えますので、こちらも書いておきます。


 ココイチ様は一度もチャットルームには顔を出していませんね。

 少なくともログは一つも残っていませんし、私はインしたのも見たことがありません。

 ですが、戦闘の連携が出来ていると言うことは、幹部の皆様とは書簡で連絡をとっておられるのでしょう。

 何故、チャットルームに現れないか……。

 それは佐助さんの慧眼を恐れたからではないでしょうか?

 ロック様や茉莉様ならたぶらかせても、佐助さんの目は誤魔化せないと思ったに違いありません。

 下手なことを言って疑われたら拙いので、接触しないことでそれを避けたのだと思います。


 あ、もう一つ、傍証がありましたので、こちらも書いておきます。


 師匠はこうも言っていたのです。

 複垢を運用するときは、数字を振って管理する場合もある……、と。


 たぬ無双にはココさんがおられますね。

 ココイチさんのイチが、数字の1の意味でしたらどうでしょうか?

 てっきり、カレーチェーン店を由来にしたHNかと思っていましたが、こう考えると非常に怪しく見えてきませんか?





 私が思っていたことは以上です。

 佐助さんの助けになるかは分かりませんが(おそらく、どちらも察しておられるでしょうから~ッ♪)、皇軍から去り、垢も削除致しますので最後に記しておきます。


 佐助さん、本当にありがとうございました。

 短い間でしたが、凄く楽しかったです。

 ドキドキワクワクしながらブラ戦を出来たのは、偏に佐助さんのお陰です。


 垢削除致しますと、もうお目に掛かることはないと思います。

 佐助さんが、いつまでも楽しく真剣にブラ戦で活躍なさることを、陰ながら祈っています。


              ふわふわ♪        」





 くっ……。

 おまえ、こんなことを考えていたのかよ。


 たしかに黒幕のことについては、ふわふわに言われる前から俺もその存在を感じていた。

 スパイに関しても薄々いるとは思っていたよ。

 皇軍は最初、加入自由にしていたからな。

 当然そういうこともあるとは思っていたさ。


 だけど、俺はどっキングが黒幕だと具体的に疑っていた訳では無い。

 速いし統率の取れた遠征だったけど、他がぐだぐだだったなんて知らなかった。

 攻略の数が多いので、単に優秀な同盟なのだと思っていただけだ。


 そこまで気が付いてはいなかったよ。

 だが、言われてみれば腑に落ちる。

 たしかに黒幕はどっキングだ。

 ああ、それしか考えられない。

 ふわふわ……。

 おまえの言う通りだよ。


 スパイがココイチだと?

 これに関しては、俺は夢にも思っていなかった。

 スパイがいるにしても、放置同然か、サボりながら寄生している奴等の中にいると思っていたんだ。

 だから、それほど心配する必要はないと思っていた。

 情報を抜くときには、何らかの形で幹部に接触してくると思っていたから。


 だけど、言われてみれば納得だよ。

 そうだな、ココイチがスパイで間違いない。

 俺は戦闘報告をメモってはいないけど、思い起こせばたしかにあいつの攻撃は成功した試しがないのだからな。


 そうか、幹部の中にいたのか。

 これは俺が気が付かないといけなかったな。

 そういう意味では、ロックにはすまないことをしたのかもしれない。

 俺がもう少ししっかりしていれば、ココはもっと簡単に落ちたのかも知れないのだからな。


 あまりにも東ルートにかまけすぎたかな?

 そうなるようにどっキングが仕向けたのかもしれないな。

 まあ、何れにしても、これは俺の手抜かりだ。

 茉莉にはこういうことを察するのは無理。

 俺以外に皇軍で気が付ける奴はいないのだから。

 ふわふわ……、おまえ以外にはな。





 そうか、ロックはおまえを疑っていたのか。

 俺はてっきり初心者だから侮っていたのだと思っていたよ。

 と言うか、そういう差別的な見方をする奴なのかと思っていたんだ。


 ふわふわに言われるまで気が付かなかったのは本当に不覚だった。

 今思えば、ロックが疑っていた節は多々見えていたのにな。

 遠征についても、ふわふわがあれほど成果を上げたにもかかわらず、それほど歓迎している感じがしなかったのは、その辺に理由があったのか。

 NPC砦の包囲を命じたのも、ふわふわの動きを封じる狙いだとすれば合点がいく。


 ただな……、ロック。

 スパイはあんなに一生懸命遠征をしたりはしない。

 これは間違いなく言えるぞ。

 それに、ふわふわの指摘はどれもこれもピンポイントで急所を突いていた。

 それも間違いない。


 大体、複垢にこんなに手を掛ける奴はいないよ。

 寝てない上に、マップは四方八方までちゃんとチェックし、しかも戦闘報告まで記録し分析していたのだからな。

 ふわふわが複垢だったら、俺はすぐにでもブラ戦を辞めてやる。

 そう言い切れるくらい、あいつは本気でブラ戦に向き合っていたよ。

 17鯖でプレイしている誰よりもな。





 ふわふわ……。

 こちらこそ楽しかった。

 それに、置き土産まで用意してくれてありがとう。


 策にずっぽりハマってしまっているから、これからどうなるかは分からないが、俺なりに最善を尽くしてみる。


 もう会うこともないのか。

 おまえこそ、また他のゲームででも活躍しろよ。

 リアでは、俺に言われるまでもなく、活躍しているのだろうからな。


 じゃあな……。

 元気でな。

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