第14話 遠征の終わり

『こんばんは~ッ♪ 佐助さんおられますか~ッ♪』

『……、……』

『おろろッ? まだ、遠征中かしら?』

『あ、いや、いるよ。だけど、ちょっと待ってね。今、夕飯を食ってるところだからさ』

『すいません~ッ(汗)。お取込み中だったのですね~ッ♪ では、出直して参ります~ッ♪』

『大丈夫だよ、もう、あと一口だからさ。数分待っててね』

『了解です~ッ♪』

『……、……』

カップラーメンとコンビニの唐揚げ弁当という、とてつもなく不健康な夕食が今終わろうとしている。


 普段はもう少しマシなモノを食べているが、ふわふわの言う通り今日は遠征の追い込みなので、お手軽に済ませたのだ。

 炭水化物と油ものばかりで、こんなのを毎日食べていたら糖尿になりそうだが、手早さと空腹を満たすことにかけてはこのコンボに優るものはなく、俺の忙しい時の御用達メニューになっていたりする。





『はい、お待たせ、ふわふわさん』

『すいません、急かしてしまいまして……。でも、どうしても佐助さんにお伺いを立てたくて来ちゃいました~ッ♪』

『ああ、何かトラブルでも起こった?』

『あ、いえ。実は、遠征終了のご報告に来たのです~ッ♪』

『そう言うことか。もう、何処にも進めない?』

『ですね~ッ♪ 進行方向には全部他同盟様がおられますし、未隣接のNPC砦もなくなりました~ッ♪』

『そう……。実は、東ルートも今日で打ち上がるつもりだったんだ。こちらも壁に到達したしね。あとは、包囲を少し手厚くすれば終わりかな』

『全体的に壁に到達する頃なんですね。じゃあ、皆で、次の段階に進めますね~ッ♪』

『うん、まあ、そうだね。それでお伺いって言うのは何?』

『その……。次に何をやれば良いのか迷っています~ッ♪』

『ああ、そういうことね。でも、遠征は義務みたいなものだけど、義務を果たしたからには、あとは好きにして良いと思うよ』

『ええッ? 好きにして良いんですか~ッ(ルンルン♪)』

『あはは(笑)。その感じだと、もう何かやりたいことがあるみたいだね』

『ですです~ッ♪』

と、言うか、遠征が終わってすぐに気持ちが切る替わるんだな、ふわふわは……。

 俺はどちらかと言うと、一服感が出てちょっと和みたくなるけどな。


 まあ、今は戦争中だから、それどころではないけど。

 それでも今晩くらいは、ぐっすり寝ようとは思っている。


『あの、2プラン考えてみたんですよ~ッ♪』

『2プラン?』

『はい~ッ♪ Aプランは戦争に参加するプランです~ッ♪ まだたぬ吉さんのところに誰も行ってないので、こっそり行って驚かそうかなあ~ッ、と(笑)』

『ああ……。そうそう、せっかく気が付いてくれたのに、ごめんね。ロックさんを説得出来なくて』

『でも、遠征が終わりましたので、私が行けば良いことですから~ッ♪』

『うん……。だけど、出来れば早く辿り着くべきだよね。遠征が終わったら、きっと黒幕が動き出す。そうなる前にケリをつけるべきだったんだ、本当はさ』

ロックの奴は、結局、三日経っても動いていない。


 何が、明日と明後日はリア用があるだよ。

 リア用なんて、あってもなくてもおまえは行く気がないんだろうがっ!


 大体、ロックは遠征をしたことがあるのかな?

 俺の印象からすると無さそうな気がするんだよな。

 そうじゃなかったら、あんなことを言いださないだろ。

 とりあえず皇軍のピンチであることは理解した上で言いやがったんだからさ。


『Bプランも聞きたいですか?』

『ああ、興味があるね。ふわふわさんが何を考えているのか』

『エヘヘ♪ 実は、とっても良いことを考えついちゃったんです~ッ♪』

『とっても良いこと?』

『はい~ッ♪ 今の皇軍にとって必要なことです~ッ♪』

『皇軍にとって……?』

何か、えらく勿体付けるじゃないか。

 だけど、皇軍にとって必要なことって何だろう?


 戦争を早く終わらせることか?

 だけど、それはAプランのはずだろう?

 だったら、Bプランって何だよ。


『Bプランは、NPC砦の攻略をすることです~ッ♪』

『はあ?』

『あ、佐助さん、今、私のことバカだと思ったでしょう?』

『い、いや……』

まあ、ちょっとな。

 それって、誰でも思うしやることだろ。

 ハッキリ言って、期待外れも甚だしいよ。


『ですが、普通の攻略ではないのです~ッ♪ 名付けて、自給自足攻略です~ッ♪』

『じ、自給自足?』

『ですです~ッ♪ 自分で隣接したNPC砦を自分で攻略しちゃうのです~ッ♪』

『……、……』

い、言ってる意味が分からん。


 大体、今まで遠征三昧だったのだから、これから攻略をし始めたって、それほど効果が上がるとも思えない。

 まあ、皇軍は今、車屋が戦争にかまけているから、多少は足しになるかもしれないが、それでも他同盟と比較すれば攻略が遅いことには変わりはないだろう。


『攻略って、普通は本拠で衝車を作るみたいですね』

『うん、まあ、それが一般的かな。車屋は開始早々に作り始めるからさ』

『でも、私は遠征に行っていたから、作れてないです』

『そうだね。だから、これから攻略を始めても、そんなに効果が上がらないと思うよ』

『エヘヘッ♪ それがそうでもないんです~ッ♪ そこがBプランの凄いところなんです~ッ♪』

『んっ?』

『本拠から衝車を撃つと、到着するだけで何十時間も掛かりますよね?』

『そうだね。下手をすると、百時間以上かかることもあるな。なんせ、一時間に3マスしか進まないからさ。兵器の速度を上げるスキルもあることはあるけど、それでも倍速にするのが精いっぱいだよ、1期の初めではね』

『戻りも考えると、その倍の時間掛かるのですから、大変ですよね~ッ♪』

『そうだけど……。それがどうしたの?』

『だったら、衝車を近くから撃てば良いじゃないですか~ッ♪』

『は、はあ?』

『遠征で足場を持っているのですから、NPC砦のすぐ側から衝車を撃てば、すぐに着弾しますよね~ッ♪ それなら本拠から撃つより遥かに効率が良いですから、遠征で出遅れた分を取り戻せます~ッ♪』

『うん、まあ、そうなんだけど……』

『えっ? 私、何か変なことを言ってます?』

『いや、その方法はたしかに効果的なんだけど、欠点もあるんだ』

何でも自力で考えるのは大したものだよ。


 だけど、今回はちょっといただけないな。

 これはハッキリ損だからさ。


『その欠点と言うのはね、資源の生産施設を作るのが遅れるってことなんだ』

『おろッ?』

『拠点は、これから9つまで増えていくんだけど、最終的には全部生産施設にして、資源は米を作るのが正解なんだよ』

『どうしてですか? 資源は米の他に、鉄と木と石がありますよね? 他のはいらないんですか』

『いらない訳では無いよ。ちゃんと使わないとレベリングが出来ないからね』

『だとすると、米以外の資源はどうやって補給するんですか?』

『それは、資源地を幾つも取ってレベルを上げたり、NPC砦攻略の恩恵の資源で賄うんだ』

『なるほど……。レベリングでは大量の兵を養わなくてはいけないから、米が必須なんですね。その他の資源よりいっぱい必要になるのですか~ッ♪』

『そういうこと。それで、拠点に余計な軍事施設を作ると、あとで米に作り替えないといけなくなる。作り替えているロスの分、レベリングが遅れると言うことなんだよ』

『それが欠点ですか?』

『そうだよ、理解出来た?』

『うーん……』

何だよ、珍しく理解出来てないみたいだな。

 だけど、皆、そうやってレベリングの準備をしているんだよ。

 だから、これに関しては俺が言っていることの方が正しいぞ。


『でも、それって同盟があっての話ですよね?』

『うっ?』

『たしか、同盟ごと配下にされちゃうと、攻略したNPC砦って全部勝った同盟のものになってしまうとHELPで読みました。資源も無くなってしまいますよね?』

『ま、まあ、そうだけど……』

『資源地だって、名声がいっぱいあった方がより多く取得できますよね?』

『ああ……』

『だとすると、結局、いっぱいNPC砦を攻略しなかったら、良いレベリングも出来ないと言うことにならないですか? それなら、拠点の生産施設を作りかえるロスなんて、全然大したことがないと思うのです』

『……、……』

『皇軍は、攻略が遅れているから他同盟に攻められそうなんです。ですから、一番大事なのは攻略をする体制を早く作ることだと私は思います。佐助さん、違いますか?』

『あ、ああ……』

ぐ、ぐうの音も出ねえ。

 ブラ戦では古参のこの俺が……。


 つまり、こういうことだな。

 今は個々の小さい犠牲なんかより、同盟全体の利益を考えろってことか。

 同盟が潤えば、結局、個々の同盟員に還元される。

 目先の損得より、大局を見ろ……、と。


 考えてみれば当たり前の話なのかもしれない。

 だけど、俺は今までこんなに明快に同盟の利益を語る奴と会ったことがない。

 しかも、これが初心者なんだぞ。

 どこの初心者が、自分がロスしても同盟の利益の方を優先するっていうんだよ。


 おい、ふわふわ……。

 おまえ一体何者なんだ?

 趣味で将棋をやってるだけでは、こんな発想は出てくる訳もない。


 こう、何て言うか、会社の重役みたいなんだよな、考え方が。

 いや、重役と言うより、政治家に近いか。

 それも、国民の方を向いている政治家だな。





『それで佐助さんに伺いたいのです~ッ♪ AプランとBプラン、どちらをやったら良いと思います~ッ??』

『むう……。どちらが良いか? そう言われてもなあ……』

『エヘヘ、やっぱり迷いますよね~ッ♪ 私もどちらが良いか分からなくて~ッ♪』

『そうだね、悩ましいね(笑)』

と、言うか、そこまで自分で考えてあるなら、普通は自分で決めるだろ。

 俺を信頼してくれているのは、悪い気はしないけどな。


『では、佐助さん自身はどうするつもりだったのですか? 今日で遠征終了なんでしょう、東ルートも……』

『俺? 俺は一応、幹部だから。とりあえず勝手には動けないかな。ふわふわさんの北ルートは1人だけど、東ルートは他のメンバーのことも考えてやらないといけないしな』

『それって、ロック様と相談なさると言うことですね?』

『ああ……。戦争中だし、独断では決められない』

『では、私もそれに従います~ッ♪ きっと、第三の選択はないと思いますから~ッ♪』

『うーん……』

本当にそれで良いのか、ふわふわ。

 ロックはあてに出来ないぞ。

 とんでもないことを言いだす可能性だってある。


 それに、おまえ自身が自力で考えたことじゃないか、AプランもBプランも……。

 俺だったら、善悪はともかくとして、自分で決めるよ。

 その方が悔いが残らないからさ。


 たしかにブラ戦は同盟の利益が優先のところがあるよ。

 それが結局、個人の利益に還元されると言うのも事実だ。

 だから、極力、同盟の方針には従った方が良いのはたしかだ。


 だけど、今の皇軍を見てみろよ。

 本当に同盟のことを考えて動いている奴なんて、どれだけいると言うんだ?

 呼びかけに応じてすぐに遠征をやり出してくれた東ルートのメンバーと、ふわふわ……。

 あとは、せいぜい幹部だけだろう?

 その幹部だって、サンジとココイチなんて何を考えているか分からないじゃないか。

 茉莉にしたって、あれは同盟のためと言うよりロックのために動いているだけだ。

 それは、言ってみれば、党の方ばかり見て国民の方を見ていない政治家みたいなものじゃないか。


 そんな気持ちがバラバラな同盟に、どうしておまえはそこまで尽くす気になれるんだ?

 参謀の俺でさえ、かなり気持ちが萎えているというのにさ。


『佐助さん? 私、何か変なことを言いました?』

『あ、いや……。ちょっと考え事をしてしまってね』

『ですか~ッ♪』

『そう……。ふわふわさんがそれで良いのなら、俺がロックさんと相談して決めるよ』

『よろしくお願いします~ッ♪』

『だけど、多分、第三の選択になると思うよ』

『おろッ? 三つ目の選択肢がありますか?』

『ああ……。ロックはきっとこう言う。俺は幹部だから戦争に参加。他の東ルートのメンバーは、今、隣接しているだけになっているNPC砦を極力囲うこと……、とね』

『では、私も包囲すれば良いですね~ッ♪ と、言うことは、自動的にBプランに決定です~ッ♪』

『そうだね、多分、そういうことになる』

『包囲は何処でも良いのですよね?』

『ああ、それはふわふわさんの判断で決めていい』

『では、なるべく最初に隣接したNPC砦を囲います~ッ♪ 自給自足し辛いですし、他に狙われやすそうですから~ッ♪』

『んっ? 狙われやすいのは、壁際の他同盟と隣り合わせになっているNPC砦だよ。どの同盟も皆、今は壁際に遠征の拠点を置いているからな。きっと、すぐに競合にされてしまうはずだ』

『エヘヘ(笑)。それは織り込み済みです~ッ(ルンルン♪)。わざと競合にさせて、その上で私が先に攻略しちゃいます~ッ♪』

『な、何ぃ?』

『多分、競合になると、どの同盟もそこを優先して攻略するんですよね~ッ♪ 

ですから、競合のNPC砦に競り勝てると言うことは、実質的に他の同盟に無駄足を踏ませていると言うことになります~ッ♪ ね、自給自足攻略って凄いと思いませんか~ッ(笑)』

『あ、ああ……』

そ、そこまで考えているのか。

 しかも、それを自分だけでやるつもりなのか。


 ふふっ……。

 ふわふわなら、しっかり成果を上げるかもしれないな。

 期待して見させてもらうよ。


 ただ、個人的には、ふわふわがどんな戦争の仕方をするのかを見てみたかった感じもする。

 これだけ色々と考え付くのだから、きっと、局所的な戦闘でも冴えた戦い方をするのだろう。


 それにしても、これがつい一週間前にブラ戦を始めたばかりの奴なんだから驚くよ。

 もう、ロックや茉莉どころか、俺としっかり議論が出来るレベルになってやがる。

 いや、すでに、俺に気が付かない部分さえも見えているしな。

 わざと競合にさせるなんてことは、今の皇軍の戦力では相当、考え辛いことだしさ。


 いつの間に成長しちゃったんだろうな。

 遠征のえの字も知らなかった奴がさ。

 今までブラ戦をやってきて、鯖を代表する猛者から超初心者まで多々見てきたけど、こんなに成長するのが早い奴は初めてだよ。

 こう、なんて言うか、モノが違う感じなんだよな、普通の奴とは。

 もしかすると、俺は今、とんでもない天才と遭遇しているのかもしれない。





『ところでふわふわさん……。そのBプランをやるための拠点の候補地はもう選定してあるの?』

『エヘヘ♪ 遠征しながら目を付けていたんです~ッ♪ 生産用の拠点って、星4の領地が良いみたいですね? 皆、そこに村を作ってますから~ッ♪』

『ああ、1期では大抵そうするね。それに、本当は星9の方が拠点内の空白地が多くて生産施設が多く作れるんだけど、星9はそう簡単には落ちないんだよ』

『どのくらいの攻撃力が必要なんですか??』

『大体、隣の領地から攻撃して、NPC砦の星1と同じくらいだよ。だから、1期では武将カードだけで落とすことは出来ないんだ』

『そうなんですか~ッ♪ でも、そうだと思ってました~ッ♪ 私も星9に目を付けていたんです~ッ♪』

『星9を手に入れられれば、米の生産が飛躍的に伸びるからさ。星9自体の数が少ないから、拠点にすることはかなり難しいけど、リターンが大きいから挑戦してごらん』

『エヘヘ♪ 実は、凄く良い物件があったんです~ッ♪ 私が隣接したNPC砦のすぐ側で、星4と星9が並んでいるところがあるんです~ッ♪』

『ああ、なるほどね。最初に星4で自給自足攻略をしつつ兵も育て、機を見て星9も落としてしまうつもりなんだね?』

『ですです~ッ♪ 超お得な構想だと思いませんか~ッ♪』

もう、何も言うことはないよ。

 先の先まで考えてあるのだからさ。


 思うようにやってごらん。

 おまえなら、きっと想定通りの成果を上げるはずだよ。

 俺はそれを陰ながら見させてもらうことにするよ。

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