第13話 無能

「また失敗したのかっ! 何回同じことをしたら気が済むんだっ⁈ おまえら、それでも幹部かっ!」

「すいません……。ですが、あともう少しのところだったのです」

「何がもう少しだっ! 差し込みが入ることくらい分かっていたことだろうがっ!」

「……、……」

「茉莉っ! おまえはもう少し使える奴かと思ったが、ダメだなっ! あんな援軍も入っていない奴がどうして落とせない?」

「すいません……。次は、必ず……」

まあ、ロックが怒りたくなるのも分からないではないが、そんなに茉莉を責めたって仕方がないだろうよ。

 たしかに攻め方が下手なところもあるけど、たぬ無双側の対応が見事なんだからな。


「茉莉っ! 次は必ずと言うからには、何か策があるんだろうな?」

「さ、策ですか? そ、その……。これから検討してみます」

「ふざけるなっ! もう三日も張り付いているんだぞっ! それなのに、策の一つもないのかっ!」

「……、……」

見ていられないな。


 罠にずっぽりハマっているのが分かっていない総大将と、その総大将のいいなりなだけで何も出来ない補佐。

 ある意味お似合いのコンビと言えるかもしれないが、これが俺の所属する同盟とはな……。

 泣けるぜ。


「佐助さんっ! 佐助さんはいるかっ!」

「いますよ。何か……?」

「遠征の方はどうだ? どっキングより前に出られたのか?」

「いえ……。競っていますし、包囲して競合にはさせていませんが、前に出るまでには至っていません」

「何をやってるんだ、佐助さんともあろう者が? たかが遠征で勝てないなんて情けなくないのか?」

「いや……。遠征はお互いに最善を尽くせば差がつかないものですから。一日、三回拠点を移動しているペースだと、これ以上、速度は上がりませんよ」

「だが、ふわふわは1人でもっと速く進んでいるんだろう? やり方次第でどうにか出来ないのか?」

「ふわふわさんは、ほとんど寝ていません。一日四回の拠点移動をして、その都度所持した名声を使い切っています」

「だったら、東ルートも名声を使い切れば良い。四人で走っているのだから、それで四倍の速さになる」

「いえ、そうはならないです。拠点を破棄するまで三時間です。ですから、片道三時間以上のマスへ攻撃するのは時間が掛かり過ぎて効率が悪いんです。それに、遠くなれば星1でも兵がかなり湧きます。攻撃力が300そこそこの速度武将では、HPが大幅に減ってしまって連続で出撃するのは難しいのですよ」

「くっ⁈ ……」

「これ以上速度は上げられないです。包囲も同時にやっているから尚更ですよ」

イライラしているからと言って、俺に当たるなよな。


 ロックもさすがに自分の言っていることが無茶なのは分かっているようで、押し黙った。


 先日、俺の制止をを振り切ってココを攻めただけに、どうにか俺に難癖をつけたいのだろうが、そうはいかない。


 東ルートのメンバーはちゃんと動いてくれている。

 ここで俺がひるむと、そのメンバー達にも災難が降りかかってしまうから、キッチリ論破しておかないとな。

 ロックの面目は丸つぶれだろうが、それはおまえが自分で蒔いた種だ。

 自力で刈り取る以外方法はないぞ。





「それで、ロックさん……。ココは落ちそうですか?」

「茉莉が、次は必ず落とすと言っていた」

「ああ、それは聞いていました。ですが、ロックさん的にはどう看ているのかを聞いています」

「どうだろうな。俺にも分からん……」

「ですか。では、まだ戦争が長引く可能性があると言うことですね?」

「くっ⁈ それがどうしたっ! 和睦すべきだったと言いたいのか?」

「いえ……。もう戦争は始まってしまいましたから。今、それを言っても始まらない。俺はそんな後ろ向きなことを言ったりはしませんよ」

「だったら、何だ? 何が言いたい?」

「いや、現状把握をしたまでです。他意はないですよ」

「そ、そうか……」

「ただ、このまま戦争が長引くと拙いと言うのは、ロックさんも分かっていますよね? だとしたら……」

「いや、そんなことないぞっ!」

「えっ?」

「現状はそんなに悲観すべき状況ではない。遠征もそこそこやれているし、戦争もたぬ無双を追い込んでいる。少々、戦争が長引いても、何の問題もない。佐助さん、そうじゃないか?」

「しかし、今のままではいくらNPC砦に隣接しても攻略出来ない。車屋が全部戦争に参加してしまっているのですから」

「だから早くココを落とそうとしているんじゃないか。戦争が終わりさえすれば攻略なんていくらでも出来る」

「ですが、ココを落とす目途は立っていないのでしょう? それに、ココを落としたあとにはたぬ吉も落とさなければならない。ココには援軍が入っていないが、たぬ吉は総大将ですから。きっとたぬ無双も死に物狂いで援軍を入れますよ」

「だが、そうやって粘っても、何れはこちらの戦力差が活きるから皇軍の勝ちは動かない。少々、手間取ろうが、結果は同じ事だ。問題ないっ!」

ちっ!

 いくらふわふわが優秀だと言っても、初心者より分かってないってどういうことなんだよ、ロックっ!

 おまえの認識が改まらない限り、この危機的状況は変わらない。

 それも分かっていないのか?


「ロックさん、冷静に聞いて下さい」

「何だっ? 俺は冷静だぞっ!」

「戦争を長引かせて拙いのは、NPC砦の攻略が出来ないからだけではないですよ」

「どういうことだ? それ以外のデメリットなんかないだろ。佐助さん、言いがかりをつけるなよっ!」

「いや、言いがかりなんかではないですよ。それは明らかに拙いです」

「何故だ? そんなに言うのなら、理由を言ってみろっ!」

「他同盟が参戦してくるおそれがあります。このままズルズルと長引くと……」

「他同盟? たぬ無双ごときが、どんな同盟を連れて来ると言うんだ?」

「それは俺にも分からないです。ただ、たぬ無双の戦術は、明らかに戦争を長引かせようとしている。つまり、長引けば勝算があると思っているんですよ」

「そのたぬ無双の勝算が他同盟の参戦だと言うのか?」

「ええ……。向こうはわざわざ宣戦布告して戦争を仕掛けたのです。だったら、何らかの勝算があってやっていると思うのが普通でしょう?」

「ま、まあ……。それはそうかもしれないが……」

「だとしたら、たぬ無双のバックに付いている同盟は、かなり大きな同盟です。そうでなくては長引かせても戦力差を解消出来ないですから」

「む、むう……」

「ですから、この戦争は早く終わらせる必要があるのですよ。ここは重要なのでまず認識していただきたい」

「あ、ああ……」

ようやく理解してくれたか。


 なあ、ロック……。

 戦争ってのは、正しい現状認識と状況把握をしなかったら絶対に勝てないんだ。

 自身に都合の良いことを考えているだけではダメなんだよ。


 だから、耳の痛い話だとは思うが、ちゃんと聞いてくれ。

 それしか皇軍が何とかなる方法は無いのだからな。





「戦争を長引かせるのが拙い理由については、ご理解頂けましたね」

「……、……」

「今、ココを落とせていない状況が、どれだけ危険かも……」

「ああ……。俺もココは早く落としたい。それは佐助さんと同じだ」

「ですが、ココはなかなか落ちないと俺は思います。たぬ無双は少ない戦力ながら、最善の抵抗をしているからです。1期の初期なんて、それほど持っている武将カードにも差がついていないのですから、粘られたらなかなか落とせないのは当然なんですよ」

「そうかもしれないな。だが、それでも早く落とさなければならない。佐助さん、何か良い策でもないか? 茉莉達に任せていたのでは埒が明かない」

「いや、あれは茉莉さん達が悪い訳ではないです。たぬ無双側の策にハメられているのですから仕方がないです」

「だが、それでも落とすしかないだろっ! あれだけの戦力がいるんだからなっ!」

良い策?

 あるよっ!

 まあ、俺が考えた訳じゃないけどな。


 ただ、ロックが正しく現状を認識してくれた。

 それだけでも大きな前進だ。

 これなら策に乗ってくれるかもしれない。

 先ほどふわふわが示した、意表を突いた奇襲作戦に……。





『ロックさん、ここからはPMで話しましょう。もし、スパイに情報が洩れるとせっかくの策がパーになってしまいますから』

『さ、策だと? そんなものがあるのか? だったら、何故、早く言ってくれない』

『それには色々と理由があります。ですが、一番大きな理由は、この策が奇襲作戦だからなんです。つまり、相手の意表を突いた策だからなんですよ』

『奇襲だと?』

『ええ、ココを攻めているのが旨い具合に陽動になるんです』

『陽動? と言うことは、他を攻めるのか? だが、そんなことをして何の意味がある?』

いや……。

 早く言わなかったのが奇襲だからと言うのは嘘だ。

 俺が考え付かなかったから言えなかっただけのこと。

 それは申し訳ないと思っているよ。

 すまんな、ロック。


 ただ、こう言ったのには訳がある。

 ふわふわにこの理由にしろと言われたんだ。

 ふわふわの策だと分かると、ロックはきっと聞く耳を持たないから。


 それに、ココ攻めが陽動になっていると言えば悪い気はしないだろう?

 無駄な戦いではなかったと言ってやってるのと同じなんだからな。


 ふわふわの奴……。

 ロックの性格まで読んでやがる。

 その上でこの策を俺に託したんだ。

 まったく恐れ入るよ。


『攻めるのはたぬ吉の本拠です。あそこを奇襲して一気に片を付けます』

『た、たぬ吉の本拠だと? 佐助さん、気でも狂ったか? あそこにはココの足場しかない。それに、他同盟に囲まれていて入れないだろうがっ!』

『いや、入れます。……と言うか、こじ開けます』

『どうやって?』

『たぬ吉の左上に本拠を構えている天下統一ってのがいますよね?』

『天下統一?』

『ああ、すいません。とりあえずマップで見て下さい』

『……んっ? なんだ、こいつ、農民じゃないかっ!』

『ええ、そうなんです』

『そうか、こいつの領地をまくるんだな?』

『はい』

『よしっ、分かったっ! 早速、茉莉に言って向かわせる。そうか、そんな手があったかっ!』

『あ、それはダメです』

『何故だ?』

『茉莉さんがココ周辺から抜けると、たぬ無双に動きを察知されますから』

『むっ? なるほど……』

『同じ理由で、サンジさんもココイチさんもダメです。たぬ吉の本拠に向かうのは、他の人じゃないと……』

『他の人? だったら、佐助さんが自ら行ってくれるのか?』

『本当はそうしたいです。しかし、俺が東ルートから抜けると、どっキングの侵入が防げません』

『では、誰に行かせる? 佐助さんのことだ、目星はついているんだろう?』

『ええ……』

『だったら、そいつに行かせれば良い。たぬ吉の奴、油断しているみたいで本拠の隣接も囲ってないんだからな。こちらの領地で包囲してココの足場さえ消してしまえば、たぬ無双の他の同盟員だって簡単には入って来られない。そうなれば、一気に片を付けられるってもんだっ!』

『ですね。こちらがたぬ吉の隣接を拠点で占拠すれば、粘りようがない。あとは殲滅部隊に現地生産した衝車を持たせてひたすら攻めれば、差し込みも意味がないですから』

『ああ、物量で押しつぶしてくれるっ!』

『それで、肝心のたぬ吉の本拠に辿り着く役なのですが……』

『んっ? どうした?』

『ロックさんにやってもらえないでしょうか?』

『お、俺にだとっ⁈ 俺が何処かから延々と走ると言うのか?』

そうだよ。

 おまえが自ら走るんだ、ロック!


 俺も最初にこれを聞いた時にはまさかと思ったよ。

 だけど、ふわふわの言い分は間違っていない。

 現状ではそれしか方法もないのだからさ。





『ちょ、ちょっと待ってくれ、佐助さん』

『はい?』

『俺が落ちたら皇軍全体が負けなんだぞ? それを分かって言っているのか?』

『ええ、分かっていますよ』

『少し遠いとは言え、俺の本拠の側にはたぬ吉とオッサン将軍の拠点もある。あれが動き出したらどうするんだ? 俺は名声無しで防衛しなければならなくなる』

『それなら大丈夫ですよ。先ほども言った通り、たぬ無双は戦いを長引かせたいのです。こちらの動きに気が付かなければ動く心配はありません』

『だ、だが……』

『それに、ロックさんの本拠には援軍が入っているじゃないですか。防御スキルの凄い武将カードがあるんでしょう? 将軍の護りでしたっけ? それで援軍の防御力を上げれば、攻撃力の絶対量が少ないたぬ無双では貫けませんよ』

『それはそうだが……。万一のことがあったらどうする?』

『リスクが皆無とは言いません。これは勝負事ですからね。ですが、これで何か悪い局面を引き出す可能性は低いです。まごまごしていれば他同盟が参戦してきますから、一刻も早くケリを付けなきゃいけないでしょう?』

『むう……。だが、佐助さん。偶然、そのタイミングで他同盟が参戦してきたらどうする? 佐助さんはその他同盟の見当がついていて、絶対に俺がたぬ吉を攻めている間にそいつらが参戦してこないと言い切れるのか?』

『そ、それは……』

『ほら、佐助さんにだって絶対にないとは言い切れないじゃないかっ!』

『ですが、ロックさんは足場を取るだけで良いです。攻める必要はないですよ。たぬ吉の至近に行ったら、他の幹部に声を掛けてココの周辺を引き払わせれば良いです。だから、最短ならほんの一日ちょっとリスクを負うだけで済みます。たぬ吉の本拠まで最寄りの皇軍の同盟員は約80マス。そんなに大したことはありませんよ』

『は、80マスだと?』

『ええ、たったそれだけです。それで勝てるのならやり得ではないですか』

『……、……』

『この策を実行するにしても、時間が経てば経つほどリスクが増えるだけです。やるなら今ですよ。いや、今しかないっ!』

『い、今……?』

迷っている暇はない。

 それに、こんなチャンスは滅多にないんだ。


 一日や二日くらい良いだろう?

 遠征の真似事をしてみたって。

 ふわふわなんか、連日、ほとんど寝てないはずなんだぞ。

 俺だって、昼間、眠い目を擦りながら仕事をしている。

 遠征に加わっている者は皆、多かれ少なかれそういうリアルを過ごしながらやっているんだよ。


 それなのに、総大将のおまえがこんな美味しい役をやらなくてどうする?

 面倒で、迅速にやらなかったらいけない役であることはたしかだよ。

 だが、成功すれば間違いなくMVPだぞっ!

 これから長く皇軍を繁栄させていくつもりなんだろう?

 だったら、その礎を築く絶好のチャンスじゃないかっ!


『さ、佐助さん……。話は分かった』

『では、やってくれるのですねっ⁈』

『いや、検討してみる。悪いが、明日と明後日はリア用で忙しいんだ』

『はあっ?』

『だから、今すぐに行くことは出来ない。これからしっかり考えてみて、明後日以降でも有効だと判断したら、その時には行くかもしれない』

『か、かもしれない?』

『ああ、それは諸々の情勢を看ないとな。今断言するのは危険だからな』

『……、……』

こ、こいつはダメだ。

 絶望的にやる気が感じられない。

 勝負事に必ず勝つと言う、覇気が無さすぎる。


 すまん、ふわふわ……。

 せっかく献策してくれたのにな。

 こんなに明快な策なんて、滅多にないのに。


 ロックは無能だ。

 多分、奴は明後日以降もたぬ吉の本拠に向かうことはないだろう。

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