第12話 黒幕の存在
『しょ、焦土戦術とは、難しい言葉を知っているね?』
『エヘヘ♪』
『そうだね、たしかに焦土戦術と言うのが相応しい状況だね、今の戦局は』
『私、少々、将棋をたしなんでいたりします~ッ♪ 将棋の場合は、飛車同士が向かい合っている状態の時にわざと相手にそこを攻めさせて、相手の攻撃がしっかり自陣に届いた瞬間に飛車を他方面に転換して敵の弱いところを攻める方法だったりします♪』
『なるほど……。飛車同士が向かい合っている状態が、今、ココを攻めていることか。そして、敵の弱いところと言うのが、手薄になったロックさんの本拠ってことだね?』
『だと思います~ッ♪』
『つまり、ココを落とした瞬間に、たぬ無双は全力でロックさんを攻めて来ると?』
『それは微妙ですね~ッ♪ 他の可能性もありますから~ッ♪』
『他の可能性?』
『ええ……。ですが、皇軍がココさんを攻めさせられていることは間違いないと思います~ッ♪』
将棋か。
そうか、だから戦局が読めるのか。
将棋は、基本的に互角の戦力を持って一対一で戦うゲームだ。
盤の上に戦力情報が全部出ていて、お互いの読み筋を戦わせて優劣を決める。
互角の戦力を持ち合うから、読み筋の精度が勝敗を分ける。
そういうゲームになじみがあるから、自然と戦いがどういうものか分かるってことなんだな。
どうりでふわふわの理解が早い訳だ。
戦略シュミレーションゲームに対する免疫があったのか。
『他の可能性って、具体的にはどういうこと?』
『それは佐助さんにも分かってるはずです~ッ♪ だから、和睦を提案なさったのでしょう?』
『あ、ああ……。そうか、それも察していたんだね?』
『和睦を提案なさったのは、たぬ無双さん以外の同盟が攻めて来る可能性があるからですよね~ッ♪』
『そうなんだ。俺はそうなることを恐れていたんだ。だから、この戦争には反対なんだよ。戦っても皇軍にメリットが無さすぎる』
『ですね~ッ♪ それに、たぬ無双さんは決め手を持っているとは言い難いです。皇軍は同盟員が多いので、ロック様のところに皆さんの防御武将を集めたら相当硬くなっちゃいます~ッ♪ その防御を破るのには兵が必要でしょうけど、今の時点で1人、2人の戦力でそれが出来るとは思えないです~ッ♪ たぬ無双さんは同盟員が少ないので全力でもロックさんを撃ち抜ける保証はないですよね? それなのに攻めて来たと言うことは他に大きな攻撃力のあてがあって、今はその攻撃力が揃うのを待っているのではないですか?』
そこまで見通していたのか。
ああ、俺もそう思う。
たぬ無双は援軍を待っているんだ。
間違いない。
ココがもし落とされても、たぬ吉のところでまた同じように時間を稼ぐつもりなのだろう。
そうこうする内に何処かの大同盟が攻めて来たら、手薄になっているロックの本拠はひとたまりもない。
皇軍は戦争に掛かり切りになって攻略が進まないのだから、他同盟が順調に攻略して戦力を調えてしまったら、どう考えても太刀打ちできない。
ふわふわ、おまえの言う通りだ。
だからこの戦争は受けてはいけなかったんだ。
和睦を申し出て、手早く終息させるしかなかったんだよ。
たとえたぬ無双が和睦を蹴っても、その時はたぬ無双にロックを攻めさせて、皇軍全体は力を貯めることに専念するべきだったんだ。
なのに、ロックは罠に掛かってしまった。
全力でココを攻めてしまっている。
これだけ戦力を割いてしまったら、結果を出さなかったら総大将の面目は丸つぶれだ。
だから、もう引けなくなっている。
これから和睦を言い出したら、たぬ無双の策に屈したことになってしまうから……。
同盟員の少ない弱小同盟に、鯖内最大の皇軍が後れを取ったことになる。
17鯖は勝負鯖だ。
そこで一度でも舐められたら、これからずっと他同盟の後塵を拝し続けなければならなくなる。
プライドだけは人一倍高いロックがそんな選択をする訳がない。
と言うことは、皇軍はこのまま戦い続け、破滅を待つのみなのか。
同盟員だけはやたら多いが、何も出来ない無能な幹部しかいない同盟と言う烙印を押されるのを待つしかないのか……。
『ふわふわさん……。その通りなんだ。この戦争は受けてはいけなかったし、ココを攻めたらダメだったんだ』
『う~んッ? そうでしょうか~ッ?』
『ああ、そうだよ。今となっては和睦も出来ない。その上、何処の同盟かは分からないが、たぬ無双の後ろには黒幕がいる。その同盟が攻めて来たら、皇軍には備えがないからまず勝ち目が無い』
『そうかもですね~ッ♪ 黒幕さんはきっとおられますよね~ッ♪』
『俺がいけなかった。あの時、もう少し強くロックさんを押しとどめていたらこんなことにはならなかったかもしれない。だが、俺もこんなに見事にハメられるとは思っていなかったんだ。オッサン将軍かたぬ吉か……。それとも黒幕の同盟の誰かは知らないが、この戦争の画を描いた奴は相当な切れ者だ。正直、完敗だよ。俺が甘かった……』
『おろッ? 諦めてしまうのですか?』
『いや、諦めている訳ではないさ。だけど、戦局を冷静に見つめれば、当然のように導き出されるけ評価だよ。皇軍もだけど、俺の負けだ。俺がもっとしっかりしていれば……』
『おろろッ?』
何だよ、ふわふわ……。
おまえだって分かっているだろう?
この絶望的な状況が。
それなのに、悲観するなと言うのか?
局面を打開する策もないのに。
そうなるのが当然なことくらい、おまえにだって分かっているだろう?
『佐助さん、もしかして絶望的だとか思っていませんか?』
『……、……』
『えっ? そうなんですか?』
『んっ……、まあ……』
『え~んッ、そんなの佐助さんらしくないです~ッ(涙)。まだまだ、挽回する手はあります~ッ!』
『挽回する手?』
『はい~ッ♪ 先ほども言った通り、急所を直接攻めれば良いのです~ッ♪』
『きゅ、急所って、たぬ無双の総大将ってことか? たぬ吉を直接攻めて落とせば良いって言ってるの?』
『ですです~ッ♪ 戦争を早く終わらせてしまえば問題ないです~ッ♪』
『そ、それは……』
なあ、ふわふわ……。
俺だってそんなことくらいは考えているんだよ。
……と言うか、ロックだって茉莉だってそれは考えている。
だが、実際問題無理なんだ。
たぬ吉の本拠は、こちらの同盟員の本拠から80マスも離れたところにある。
しかも、周囲を他同盟の領地に囲まれていて、通ることが出来ないときてる。
だから、ロックも罠に引っかかったんだ。
たぬ吉本拠の隣接にココの領地があるからな。
最短距離にして唯一の到達ルート……。
その他の方法ではたとえ到達出来ても手間が掛かり過ぎる。
それに、もし他同盟の領地をまくってたぬ吉の本拠に辿り着いたとしても、それには更なるリスクがある。
領地をまくると言うことは、戦闘を仕掛けることだ。
つまり、たぬ無双の他にも戦争相手を増やすことになる可能性があるんだ。
もしそうなったら、黒幕が出るまでもなく、皇軍は終わりだ。
ふわふわ……。
最初に和睦するしか、手は無かったんだよ。
『私、マップでたぬ吉さんの周りを調べたのです』
『ああ、俺も調べたよ。見事に他同盟の領地に囲まれている。何処にも通るところがない』
『ですね~ッ♪ 不自然なほど綺麗に囲まれていますよね~ッ♪』
『んっ? どういうこと?』
『あれって、まるでたぬ吉さんのために領地を取っているように見えませんか~ッ♪』
『ま、まあ、そうだね。言われてみれば……』
『遠征をしなきゃいけない時にあんなところに領地をとって名声を無駄遣いする人はいないですよ~ッ♪ ですので、きっと、たぬ吉さんのお友達か、複垢が協力しているのだと思います~ッ♪』
『そうかもしれないね』
『ですので、迂闊に踏み込むと、戦争の口実にされてしまいますね~ッ♪』
『ああ……』
何だよ、ふわふわにも分かっているじゃないか。
そうなんだよ、だから直接たぬ吉の本拠は攻められないんだ。
『ですけど、その領地を詳しく見ると、抜け道があったりしますよ~ッ♪』
『抜け道?』
『はい~ッ♪ この人なら領地をまくっても大丈夫な人がおられます~ッ♪』
『んっ? どういうこと?』
『たぬ吉さんの左上に、天下統一さんって方がおられますよね?』
『うん、いるね』
『この方、凄く強そうなHNなんですけど、農民の集い同盟なんです~ッ(笑)』
『ああっ! そういうことかっ!』
『私、農民の集い同盟の詳細も見てみたんです。そうしたら、同盟方針に、あらゆる戦争に参加しません。当同盟は何があっても非戦を貫きます……、って書いてあるじゃないですか~ッ♪』
『そうかっ! その天下統一とかって奴の領地なら、まくっても戦争の口実にはされないな。まくった領地は即破棄して、返してあげれば更に問題ない』
『ですです~ッ♪ ね、通れますよね~ッ♪』
『ああ、そうだね。そうか、そんなところに抜け道があったのか……』
お、俺としたことが……。
こんな単純な抜け道を見逃すなんて。
ブラ戦にはよくあることなんだ、非戦を掲げる同盟が存在することは。
そういう同盟に所属する同盟員の多くは、他鯖との統合の時に少しでも有利になるように、武将カード集めを目的としていたりする。
それか、仕事などのリア用の関係で今はブラ戦に割く時間が少ないが、あとでやり込む時に困らないように、とりあえず垢だけを作っておいたりすることもある。
どちらも共通しているのは、活動的ではないことを表明してなるべく厄介ごとに関わらないことだ。
そして、そういうプレイの仕方をする者を、農民と言う。
だから、少々、領地をまくられても筋さえ通せば誰も問題にはしない。
ただ、17鯖は勝負鯖だ。
参加している者の多くは、これから良い目を見るために頑張っている。
だから、俺にも盲点になっていたんだ。
天下統一ってHNも厳めしいし、こいつが農民だとは思わなかったんだよ。
それと、普通はあまりこういうことは無いのだ。
戦争をするときには、通り抜けや足場になりそうな他同盟の同盟員は、予め落として排除したりするから。
特に、農民は歯向かってこないので、落としても何の問題も無い。
これはブラ戦の常識であり、誰でも何処の同盟でもやっていることだ。
だからこそ、まさか戦争を仕掛けてきた同盟が、そんな農民をケアしていないとは思っていなかったのだ。
だが、よく考えてみると、これは仕方がないのかもしれない。
もし、たぬ無双が天下統一を落とすと、そこは必然的に皇軍が攻めても良いところになる。
戦争に負けたプレーヤーは勝った同盟の配下になって、実質、たぬ無双の勢力下に入るからだ。
たぬ無双が戦力の充実している同盟なら配下ごと守れば良いが、15人しかいないたぬ無双ではそれも出来ない。
だったら、農民のまま置いておいた方が少しでも目くらましになる。
実際、俺はそれで錯覚してしまったしな。
そうか……。
でも、これはふわふわだから見つけられたのかもしれない。
あいつは初心者だ。
先入観無しに局面を看られる。
その上、初心者離れした戦局を看る力も併せ持つ。
更に、あの遠征力だ。
80マス程度なら、一日ちょっとで走り抜ける自信があるからこそ、気が付いたのだ。
普通ならまずそんなに遠くまで遠征まがいの進み方はしない。
足場を活かして飛ぶことを考えるに決まっている。
ふわふわみたいな存在は、まずブラ戦のどの鯖を探してもいないだろうな。
たぬ無双の目くらましも、普通なら絶対にバレない。
たぬ無双も盲点に入っているのだろう。
ふわふわが初心者だという可能性は……。
『でも、一つだけ問題があるんです~ッ(汗汗)』
『ああ、そうだね』
『誰がたぬ吉さんの本拠に辿り着くかなんですよね~ッ(笑)』
『うん……』
そう、たぬ吉に辿り着くことは可能だ。
それはふわふわに気が付かせてもらった。
しかし、実際に誰が行くのかが最大の問題なのだ。
今、遠征は力を抜けない。
特に、東ルートは俺が抜けたらどっキングと並走することは出来ないだろう。
バランスを崩したら、間違いなくどっキングは北側になだれ込んでくる。
そうなったら、北東に向かって走っている三人のところも荒らされてしまうに違いない。
ふわふわの北ルートもそうだ。
独走しているとは言え、これからまだ何か所もNPC砦に隣接してもらわないといけない。
今や、皇軍で一番重要なのは北ルートだとさえ言える。
そこを放棄してしまっては、たとえたぬ吉を迅速に落としたとしても、同盟に成長力が無くなってしまうので無意味だ。
だったら、遠征に参加していない同盟員にやらせれば良いのだが、そいつらが80マス分を短時間で走るとは思えない。
遠征をしない=やる気が無い、だからだ。
辛うじてやる気が見える、ココ周辺に集った同盟員も似たようなものだろう。
実際、その中で戦闘に参加している者は、1人か2人。
ココ周辺で戦っているのは幹部の茉莉、サンジ、ココイチなのだから。
これは戦闘報告を見れば一目瞭然だ。
幹部以外の同盟員は戦力としてあてに出来ない。
ましてや、80マスも走ることなんて、絶対にそんな面倒なことはしないだろう。
だったら、幹部が走れば良いかというと、それも違う。
あの3人はもう戦場に出ていて、拠点も構えていれば領地も多々ココ周辺に置いている。
その内の1人が抜けたら、たぬ無双に目的と動きがバレてしまう。
これはたぬ無双の虚を突かなければ成功しないのだ。
備えられてしまっては、短期決着は望めない。
なあ、ふわふわ……。
せっかく教えてくれたけど、やはりダメだ。
たぬ吉に辿り着く奴がいないよ。
くそっ……。
手段はあるのに、それをやる者がいないなんて。
悔しいな……。
皇軍にもう少し使える奴がいればなあ。
『実際に辿り着ける人がいないよね。残念だけど……』
『おろッ?』
『んっ? 誰か心当たりがいるかい?』
『はい~ッ♪ 多分、走る能力もおありでしょうし、やる気もいっぱいおありの方がおられます~ッ♪』
ちょ、ちょっと待て。
そんな便利な存在がいてたまるか。
あ、もしかして、複垢を使うってことか?
俺が複垢を作って皇軍に入り、たぬ吉まで駆け抜けろって言ってるのか?
まあ、あまりでかした手とは言えないが、たしかにその方法はあるな。
だけど、俺は複垢を持ったことが無いんだ、ブラ戦ではな。
ブラ戦は知恵と人間力が試されるものだと思っているから。
他の奴は何でもありだったりするけど、俺はそういうのは違うと思うんだ。
特に、17鯖だからさ。
正々堂々とやりたいんだよ。
これからずっと続けていくつもりの鯖だからな。
……って、ちょっと青臭過ぎるかな?
オッサンならオッサンらしく、出来ることは何でもやったら良いのかな?
『ふわふわさん……。俺、出来れば複垢は作りたくないんだ』
『おろろッ? ですね~ッ♪ そんな必要はないですし~ッ♪』
『はあっ?』
『私もそれしか手段がないのなら複垢を作っても良いです~ッ♪ あてはありますから~ッ♪』
『ふわふわさんが言っているのは、複垢ではないってこと?』
『そうです~ッ♪ その方は、まだ名声もいっぱい持っておられるはずですし、ココさんの周りには飛んでおられません。きっと、動いても誰も気が付かないと思いますよ~ッ♪』
な、何だとっ⁈
どいつだよ、それは?
皇軍にそんな奴がいたか?
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