第10話 対立
『さ、佐助さん?』
『……、……』
『私、これからどうしたら良いのでしょうか?』
『んっ? ああ、すまん。ちょっと考え事をしていたので』
『佐助さんって、お話の途中で急に考え込むことがありますよね~ッ♪ それってクセですか?』
『あはは(笑)。そうなんだよ、悪いクセなんだ。……で、これからふわふわさんがどうするかだっけ?』
『ですです~ッ♪ ロック様から言われていますので、何もなければこのまま遠征を続けたい気もするのですが? でも、オッサン将軍さんがまた攻めて来たら困りますし~ッ(滝汗)』
『うん……』
『この隙にちゃんとお城の周りを囲っておいた方が良いですか? 私にはどうしたら良いか分からないので教えて下さいませ(ペコリ)』
『ああ、そうしたいと思って考えていたんだ。だけど……』
正直、俺にも分からないんだ。
ごめん、ふわふわ……。
『ポイントは、オッサン将軍が何故、ふわふわさんの隣接を破棄したかなんだ』
『ですよね~ッ♪ 私もそれは不思議です~ッ♪』
『その意図が分からないと、正しい対応は難しいと俺は思っている。だから、今、頭をフル回転していたんだよ』
『ふむふむ……。でも、私は思うのです。オッサン将軍さんはもう私のところを攻める気はないのではないかと?』
『ああ、そういう気もちょっとするね。オッサン将軍は明らかに課金者だし、攻め方もスマートでかなりの熟練者だよ』
『だと思います~ッ♪ 遠征でも速い人は領地の破棄の仕方が早いですから~ッ♪』
『うん、ブラ戦を良く知っていて、目的に向かって最大効率で動いている感じがするね』
『でも、どうして課金者だと分かるのですか??』
『ああ、それはふわふわさんが撃退した衝車部隊の武将がSR竹中半兵衛だからなんだ』
『SR竹中半兵衛ですか?』
『そう、あれは兵器の攻撃が成功すると耐久に120の追加ダメージを食わせるスキルを持っている武将カードなんだ。戦闘に勝つと負けた側の部隊がどんな構成だったかや、武将の名前が報告書で見られる。衝車を1台しか伴ってなかったので、間違いない』
『ええっ? それって、拠点を作ったらすぐに相手のお城を攻められると言うことですか?(汗汗)』
『そうなんだ。超使えるスキルだし、レアカードだから誰でも一枚は欲しいと思うものなんだ』
『なるほどなるほど……(滝汗)』
『課金ガチャでも数千分の一の確率でしか出ないと言われているし、トレードなんかでもまず出て来やしない代物なんだよ』
『では、物凄く強い人の可能性があるのですね?(滝汗)』
『ああ……。本当のところはどうか分からないけど、少なくとも俺はそう思っているよ』
『では、間違えて領地を破棄してしまったのではないと、佐助さんは考えておられるのですか?』
『そこが分からないんだ』
『ふぇッ?』
相変わらず理解が早いな。
ちょっと説明しただけで、すぐにそのカードの本質を見抜きやがった。
そう、戦争ではとてつもない神カードなんだよ、SR竹中半兵衛は。
いや、期の序盤ではNPC砦攻略にも無茶苦茶使えるし、チート中のチートカードだ。
俺は他の鯖でも一回も引いたことがない。
それほどレアなんだよ。
『あのね、ふわふわさん……。どんなに凄いプレーヤーにも間違いはあるんだよ。人間だからさ』
『ですね~ッ♪ 弘法も筆の誤り……、なんてことわざもありますしね~ッ♪』
『ああ……。だから、可能性としては低いけど、もう一度オッサン将軍がふわふわさんを攻める可能性もあるよ』
『ふむふむ……』
『だけど、もしミスでは無かったとしたら、どんな意図なのかが分からないんだ。ふわふわさんが言うように、隣接さえ残しておけばそこに拠点を作って、手間と時間を掛けずに何度でもふわふわさんの本拠を攻めることだって出来たのだからさ』
『あ、でも……。ちょっと思ったのですが、私が落ちないと思ってなかったってことはないですか?』
『うん、その可能性はある。だけど、その場合でも俺なら隣接は残しておくよ。ふわふわさんを皇軍に落とし返される可能性が高いのだから、それを阻止するための拠点をいつでも作れるメリットがあるからさ』
『うーん? ですが、私、もし落ちたら本当に救出してもらえたんですか? だって、私の周りに皇軍の同盟員さんはいませんよ(笑)』
『さっきロックさんが見放すようなことを言っていたのを気にしているのかい?』
『あ、いえ……(汗汗)。でも、私のお城に辿り着くのはかなり大変ではないですか??』
『まあ、そうだけど……。でもね、ふわふわさんは何か所もNPC砦の隣接を持っているでしょう? だから、ずっと放っておくことは考えられない。少なくとも、他同盟から看たらふわふわさんを見捨てると考える訳がない』
『あ、なるほど~ッ♪ では、本当に見捨てられた訳ではないのですね~ッ(ルンルン♪)』
NPC砦の隣接なんか関係なく、俺が助けてやるよ……。
そう書きかけて、不意に俺の手が止まる。
たった数日の付き合いだけど、俺はふわふわの考え方が好ましいと思っている。
だが、そんなことをほのめかしてどうするんだ?
所詮はゲーム内の付き合いじゃないか。
それに、本人は見捨てられていないと分かって喜んでいるのだからそれで良いだろう?
余計なことを言う必要はない。
『おろろッ?』
『どうしたの?』
『書簡が届きました~ッ♪』
『今、来たの?』
『はい~ッ、今、点滅しだしましたから~ッ♪』
『……、……』
誰だ、こんな時間に?
もう、午前2時過ぎだぞ。
『オッサン将軍さんですッ(驚)』
『な、何だって? 本当にオッサン将軍なのか?』
『はい、間違いないです~ッ♪』
『……で、何て書いてきた?』
『あ、ちょっと待って下さい。今、コピペしてここに貼り付けますから~ッ♪』
『そうしてくれっ!』
どういうことだ?
何故、オッサン将軍がふわふわに書簡を寄越す?
『初めまして、ふわふわ♪さん。
先ほどは、見事な差し込みでした。
さすが私が見込んだだけのことはありますね。』
『私はずっとあなたが遠征をするのを見ていましたよ。
突然、後方から進み出して、あっと言う間に他同盟を追い越して行ったのをね。
私もブラ戦歴は長いですが、こんなに見事な遠征をする人はあまり見たことがないです。』
『昨日、私が所属する同盟、たぬ無双が皇軍さんに戦争を仕掛けました。
私はたぬ無双の幹部なので、事前に仕掛けることを知っていましたが、同盟の方針とは別に、個人的にふわふわ♪さんと戦闘をしてみたくなったのです。
強い人、旨い人と戦闘をするのは楽しいですから。』
『それと同時に、ふわふわ♪さんを落とせたら、是非、たぬ無双同盟にお迎えしたいと思っていたのです。
つまり、スカウトを兼ねて戦わせて頂きました。』
『私はふわふわ♪さんのハンドルネームを存じ上げません。
ですが、何れ名のある猛者なのではないかと想像しております。
何処かの戦場で手を合わせたこともあるのではないかとも思っています。』
『今回は私の負けです。
潔く冑を脱ぎます。
ですから、もう、私があなたを攻撃することはありません。
最初からそのつもりでおりましたので、撤退することをお約束いたします。
本当は、是が非にも配下にしてたぬ無双同盟にお迎えしたいところですが、諦めます。』
『しかし、皇軍とたぬ無双は戦争中ですので、ふわふわ♪さんが私に仕掛けて来るのであれば喜んでお相手致します。
突然仕掛けられてお気を悪くなさっておられるかもしれませんから、お気のすむようになさって下さい。
但し、私もブラ戦古参としてのプライドがありますから、簡単に落ちる気はありませんが。』
『たぬ無双同盟 軍師 オッサン将軍』
す、スカウトだと?
そのためにわざわざ攻めたって言うのか?
今まで俺は、そんな話を聞いたことも見たこともない。
ブラ戦では移籍も珍しいことではないし、まして、1期なんだからそんな面倒なことをしなくても誘い放題だろう。
皇軍は150人も同盟員がいるんだしな。
これはもしかして、筋を通したってことか?
たとえ1期の序盤だとしても、一度所属したからには同盟に忠義を尽くすべきだと、オッサン将軍自身が思っているのかもしれない。
くっ……。
思った通り、オッサン将軍は熟練者だったか。
文面を看ても、自己に相当な自信があるのがうかがえる。
普通は他同盟の遠征なんて見ていないものだ。
自同盟が遠征をしていないなら尚更な。
たぬ無双は遠征をしていないしな。
それなのに、オッサン将軍はふわふわの動きを観察していた。
その上で力量を認め、攻めることでスカウトを兼ねて試したと言うことか。
ちっ……。
課金量やテクニックも凄そうだが、こいつは人を見る目がある。
ふわふわに書いていた、何れ名のある猛者……、ってのはおまえのことだろう。
明らかに人の上に立つ器だよ。
進退も見事だし、考え方も一本、びしっと筋が通ってやがる。
だがな……。
ふわふわに教えたのは俺だ。
数日のことだが、俺はおまえより早くあいつの才能に気が付いていたんだよ。
だから、絶対にやらないっ!
ふわふわは俺が育てるんだからな。
横から手を出そうったって、そうはいくか。
『何か、オッサン将軍さんって良い人ですね~ッ♪ もう攻めないと言っておられますし~ッ♪』
『あ……、まあ、そうだね』
『でも、私が初心者だとは思ってないみたいですね? 何か、勝手に誤解なさってくれて助かりました~ッ♪』
『あはは(笑)』
『あの、これ、信じて良いのですよね?』
『ああ、大丈夫だろう。また攻める気ならこんな書簡は寄越さない。腑に落ちなかった点も、その書簡を読めば納得がいくしな』
『では、遠征に行っても良いですか、私? 少し前から拠点が出来上がっちゃってるんです~ッ♪』
『うん、遠征で目一杯頑張ってね。もし、何かあったら、今度は俺が対応してあげるから。とりあえず、今、ふわふわさんの隣接に1マス確保しておくために出撃しておいた。こうしておけば、すぐに拠点が建てられるからさ』
『ありがとうございます~ッ♪ 私も安心して遠征で走れます~ッ♪』
『……、……』
ふふっ……。
ふわふわ自身は移籍なんて考えもしてないみたいだな。
もし俺がこんな書簡をもらったら、ちょっとぐらっときそうだけど……。
『あ、ちょっと待って、ふわふわさん』
『はい?』
『もしかして、その書簡に返信した?』
『はい~ッ♪ しましたよ~ッ♪ さっき、書簡には即返信と教わりましたから~ッ♪』
『あ、いや、それは同盟内の話ね。他同盟から来た書簡はケースバイケースだよ」
『えっ? もしかして、返信したらいけませんでしたか?』
『うん、まあ、内容によるかな?』
『それなら大丈夫です~ッ♪ 丁寧なご挨拶ありがとうございました……、ということと、私も攻めません……、ということと、お互いに頑張りましょう……、って書いただけですから~ッ♪』
ぷっ……。
何だ、その返信は?
おまえは攻められたんだぞ。
少しは感情的になっても良かったりするのに。
それに、勝手に、私も攻めません……、なんて書いて。
まあ、俺もおまえにオッサン将軍を攻めさせる気は全くなかったけどな。
だけど、相手は一応、敵の同盟員だからさ。
あまり不用意なことは書くなよ。
ふわふわの能力が高いことは認めるけど、まだブラ戦のことを全部分かった訳ではないしさ。
このゲームは海千山千の猛者が多々蠢いている。
皆が皆、オッサン将軍のように筋の通った奴ばかりではないのだしさ。
中には、人を出し抜くためには裏切りでも追い落としでも何でもやる奴がいるからさ。
それもこれも含めてブラ戦なんだよ。
どこまでも奥が深いゲームなんだからさ。
「ロックさん、たぬ吉の本拠に向かう方法を見つけました」
「おうっ、茉莉、でかしたっ!」
「たぬ吉の周囲は他同盟で埋め尽くされていますので通り抜けが出来ませんが、本拠のすぐ側にたぬ無双の補佐、ココが1マス保有しています」
「うむ。それで、その補佐は落とせそうか?」
「はい。幸いなことに、ウチの複数の同盟員がココの隣にいます。ココは本拠を囲っておりませんので、すぐに隣接して落とせそうです」
「そうかっ! では、すぐに書簡をだせっ! すぐにだぞっ! もし、たぬ吉への足場を消されたとしても、補佐を落とせば向こうの士気はだだ下がりだろう。うん、これはチャンスだっ! すぐにでも落とすように言えっ!」
たぬ吉への足場?
補佐が総大将の側に領地を持っているだと?
おかしいな。
どうしてそんなことをするんだ?
たぬ吉の周りは通れないのだから、とりあえず皇軍から攻められるおそれもない。
だから、同盟員が総大将を守る必要もないし、備えて一マス保有するなんて考えられない。
拠点を作る必要がないのだからな。
「茉莉……、これなら、明日にでも戦争は終わりそうだな。総大将への足場があれば、こちらは同盟員を総動員してたぬ吉を攻めれば良いからな」
「仰る通りです。もう、戦争の帰趨は見えましたね」
「ふんっ! 素人同盟がっ! 粋がって戦争なんて仕掛けるからこうなる」
「……、……」
いや、それは違う。
ロック、おまえは先ほどの戦闘報告を見てないのか?
少なくとも、オッサン将軍はバリバリの課金者だ。
他のたぬ無双の幹部が素人だとは考えにくい。
「ロックさん……。それ、危ないですよ。俺は罠だと思います」
「罠? どういうことだよ、佐助さん?」
「それに、この戦争自体を止めませんか? 俺は和睦するのが良いと思いますよ」
「わ、和睦だとっ⁈ この大優勢な状況でか? 佐助さん、どうしちゃったんだ。あんたらしくもない」
大優勢だと?
おまえは戦況を読み違えているんじゃないか?
今、追い込まれているのは、多分、俺達皇軍だ。
俺の読みが正しければ、まず間違いない。
「先ほどの戦闘報告を見ましたか?」
「いや、見てないが……。それがどうしたって言うんだ?」
「ふわふわさんを攻めたオッサン将軍は、間違いなく課金者です。SR竹中半兵衛を撃って来ました」
「な、何っ?」
ちっ⁈
総大将なんだから、報告書くらいチェックしろよな。
「ロックさんにも、これがどういう意味か分かりますよね?」
「ああ……」
「たぬ無双は素人同盟でも、無課金の集まりでもないです。明らかに経験者が集まった同盟です」
「うむ、そのようだな」
「だとしたら、こんなミスをする訳がない。補佐ともあろう者が、敵同盟から隣接しにくい総大将のところに足場なんかとる訳がないです」
「むうっ……」
「これは、皇軍がココを狙ってくることを分かっていてやっているのですよ。つまり、誘いの隙です」
「……、……」
さすがにロックでも事態が飲み込めたようだな。
誘いの隙だと言う俺の見解に、反論の余地もないだろう?
「だから、戦争を止めろと言うのか?」
「まあ、相当負けることはないでしょうが、かなりの手間と時間が掛かることを覚悟しなければなりませんから。それに、たとえたぬ無双に勝っても、こちらには何もメリットがない……。だったら、和睦して地盤を固めることに邁進すべきだと思うのです」
「いや、俺はそうは思わないぞ、佐助さんっ! この戦争はもうすぐ終わる。佐助さんは戦況を読み違えてないか? それに、ビビり過ぎだと思うぞっ!」
「読み違え? お、俺がですか?」
何を言ってやがるっ!
分かってないのはおまえの方だろう、ロックっ!
「皇軍は150人だ。それに対してたぬ無双は15人。十倍の戦力を持っているのに、和睦なんてあり得ないぞ」
「い、いや……。たしかに皇軍の同盟員は150人です。ですが、その内の何割が活動的に動けますか? 遠征に参加している者だってたかだか10人そこそこですし」
「ふふっw。いざとなれば動くものなんだよ、同盟員ってものはな。勝ち戦なら尚更だ。それに、皇軍には俺も佐助さんもいる。ココイチさんだって、サンジさんだって課金者だ。茉莉もそうだし、他にもいたりするだろう。たぬ無双がたとえ全員経験者だとしても恐れるに足らずだ。ぐちゃぐちゃに踏みつぶしてやるよっ!」
「いや、だけど、遠征はどうするんです? 長く戦争をしていたら、1期で同盟の基盤を固めると言うプランが成り立ちません」
「だから、どうしてそんなに長く掛かるんだ、戦争が? ココって言う向こうの補佐を落としさえすれば、すぐに終了だろう。たぬ無双は誘っているつもりかもしれないが、すぐに落とせば本当の隙に変えられるじゃないか」
「……、……」
「それに、罠ではなく、本当の隙の可能性だってある。オッサン将軍がたまたま課金者でSR竹中半兵衛を引いただけで、他の奴らは全員素人だと言う可能性だってな。総大将が偽のたぬ吉だし、一気にケリをつけに行って何が悪いっ!」
「い、いや……。だから、そうはならないし、オッサン将軍以外が素人だなんて考えられないですよ」
あ、甘過ぎるよ、ロック。
おまえは全然、分かっていない。
他のことなら譲るかもしれないが、今度ばかりは譲れない。
今、判断を誤ったら、それこそ同盟存立の危機になるからな。
俺にはハッキリと分かったよ。
間違いなく、ココを攻めてはダメだ。
和睦しかないんだ。
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