第7話 負けるの、嫌です?

「ふわふわさん。今、どの画面を見てます?」

「遠征先のマップ画面です~ッ(汗汗)」

「じゃあ、画面を本拠のにして下さい」

「は~いッ♪ あ、何か、時間が出てます。佐助さん、これって、チュートリアルでもあった、お城を攻められている表示ですよね?」

そうだよ、本拠を攻められてるってことで間違いない。


 ちっ!

 どこかのバカがうっかり領地に踏み込んだだけかと思ったけど、そうじゃないのか。

 本拠を攻めてるってことは、確信犯だ。

 まあ、保護期間が明けているから、攻撃自体は可能ではあるけど、わざわざこの1期の開始直後に攻めて来るなんてどういうことなんだ?

 衝車だってそんなに数を持ってない時期のはずだろ。


「それで、表示の時間はどのくらい?」

「あと二時間くらいになってます~ッ」

「表示は一つだけ?」

「そうです~ッ」

「ちょっと待ってね、今、ふわふわさんの本拠を見るから」

「は~いッ♪」

すかさず俺は画面を切り替え、マップ画面でふわふわの本拠を映す。


 こ、こいつは正しく攻められてるな。

 敵の城からふわふわの城の隣接地まで、しっかりと赤い領地が続いてるじゃないか。

 だとすると、今、表示されている攻撃は衝車付きの部隊だ。

 これが当たったら間違いなくふわふわの城は陥落する。


 素早く敵の城にカーソルを合わせる。


 たぬ無双同盟のオッサン将軍?

 知らないHNだな。

 同盟名も馴染みがない。

 まあ、期毎にHNは変えられるから、古参のプレーヤーが新たなHNでやっている可能性が高いけどな。


 それにしても、勝負鯖の17鯖で、初っ端から本拠を落としに来るなんて、初心者の可能性もあるか?

 今は遠征真っ盛りで、普通はそれどころじゃないだろう。

 ふわふわなんて落としてもメリットはないしな。


 んっ?

 そうでもないか。

 今、ふわふわは遠征の先端を走っている。

 落とせばふわふわは向こうの同盟の配下になって、その領地は遠征の先端に行く足場になるか。

 すでにふわふわが隣接しているNPC砦の隣接もし放題だしな。


 だけど、そんなのすぐに攻められて終わりだろう。

 なんせ、こっちは150人からの同盟員がいるんだからな。

 皆で、よってたかって攻めたら、あっと言う間にふわふわを取り返せてしまう。

 ふわふわ自体には配下になって四十八時間は手出し出来ないものの、同盟の総大将を落としてしまえば実質問題ないしな。


 だったら、何が目的だ?

 やはり、ふわふわみたいに初心者なだけか?

 いや、衝車を撃ってくるってことは、それも考えにくいか。





「ふわふわさん……。とりあえず本拠の隣接地を攻撃できるかどうかやってみて」

「うーん、と……。あれれッ? 私のお城に隣接されちゃってますね~ッ(汗)」

「そうだね。しっかり隣接されちゃってるね。だから、今、攻撃してきている部隊は、速度から言って多分衝車付きの部隊だ。衝車の機動力は3だからね」

「衝車付き? だとすると、もしかして私、落とされちゃうのですか?(滝汗)」

「まあ、何もしないとそうなるね。衝車は攻撃目標の城や拠点、NPC砦の隣接が取れていないと耐久度を落とす役目を果たさない」

「あ、それで、隣接されちゃった領地を調べて取り返すのですね~ッ♪ そうすると私の本拠は助かるってことですよね?」

「いや、それは違う。衝車は撃った時点で隣接地を取れていれば効果を発揮するから」

「えっ? じゃあ、どうして隣接地を攻撃できるか調べるんですか?」

「ああ、それは、領地の保護期間の有無を知りたいからなんだ。領地を取得してから三時間は保護期間と言って、他の誰からも攻撃出来ない。つまり、どのくらい前に隣接されていたかを知りたいからなんだよ」

「ほうほう……(メモメモ)」

おいっ!

 メモってないで、早く調べろっ!


 おまえが落ちそうだから相談に乗ってるんだからさ。

 のんびりメモってるんじゃねえよ。


「どう? 攻撃できる?」

「うーん、と。あれれ、攻撃出来ないって表示がでます。あ、たしかに保護期間中って書いてありますね~ッ(汗)」

「そっか。じゃあ、隣接してすぐに衝車を撃ったんだな。これでハッキリした。このオッサン将軍って奴は、明らかな意図を持ってふわふわさんを落としに来ているよ」

「意図って何ですか? 私、恨みを買うようなことをしたのでしょうか?(滝汗)」

「いや、そうじゃない。だけど、まだ真意は分からないな。ただ、言えるのは、出来心や間違いで攻撃しようとしているのではないってことだ。ふわふわさんが気が付かない内に本拠を落としてしまおうとしている」

「ひぃッ⁈ じゃあ、気が付いて良かったですね~ッ♪」

「それが……」

「えっ? 気が付いちゃダメなんですか?」

「いや、そうではないけど、気が付いてもどうにもならない可能性があるんだ」

「どうしてですか? 防御とか出来ないのですか?」

「いや、防御自体は出来るんだ。だけど、ふわふわさんにそれが可能かどうかは別問題なんだよ」

「私のせいなんですか?」

「それに、防御と言うのは、相手の攻撃力を上回る防御力を置いておかないといけない」

「ふむふむ……(メモメモ)」

「でも、ふわふわさんって今、兵も雇ってないだろうし、防御武将も育ってないだろう? だとすると、防御力が足りないから、防御しきれなくて城が落ちちゃうんだよ」

「なるほどです(汗)。あ、その……。防御武将って何ですか?」

「防御武将は、防御力を上げた武将カードのことね。ブラ戦ってゲームは、武将カードの役割が予め決まっているんだ。ステを見て、その中で一番特化しているパラメータの数値が、大体、その武将の役割に直結している。スキルもそれを活かすことが出来るものが多い」

「うーん、と。あ、徳川家康って言うのがありますよ~ッ♪ これ、あまりカワイクないのですが、ピカピカ光っていてキレイなので、暇を見ては近くの領地に出してレベルを上げておいたんです~ッ♪」

「徳川家康? それってSRだよね? 防御力は幾つになってる?」

「1530です~ッ♪ 結構、育ってるでしょう~ッ♪」

「ああ、まあ、そうだね。だけど、それで相手の武将の攻撃力を凌げるかどうかは分からないけどさ」

「そうなんですか?(涙)」

「うん……。相手の攻撃スキルが強力ならそれでは凌げない可能性もあるし、兵が一緒に出撃していたらまず1500そこそこではどうにもならない」

「相手次第なんですね? でも、相手がどのくらいの攻撃力で撃って来ているのかは、分からないんですか?」

「それは、櫓のレベルが上がっていればある程度は分かるけど、ふわふわさん、櫓を育ててる?」

「櫓って、本拠の真ん中にある施設のことですよね? いえ、全然育てていません(涙)」

まあ、当然だな。

 期の開始直後は、資源の生産施設を育てるので精一杯のはずだ。

 櫓を育てているのは、総大将くらいのものだ。


 だけど、偶然とは言え、防御武将を育てているのか。

 SR徳川家康はデッキに上げた武将の防御力を上げるスキルが付いている。

 本来なら、他の防御武将と並べればかなり強力なスキルを所有していると言えるが、そもそもの防御武将がSR徳川家康しかないとすると、そんなに効果は見込めないかな?

 それでもスキル効果込みで、総防御力4000ってところか。

 だったら、攻撃武将のスキルだけだったらギリギリ凌げるかもしれない。





「あれ? 佐助さん……」

「どうしました?」

「いつの間にか、攻撃の時間表示が二つに増えているんですけど?」

「来たかっ!」

「えっ? 予想なさってたんですか?」

「ああ……。最初に撃たれたのは衝車付きの部隊だ。……で、今、新たに表示された部隊は兵や防御武将を一掃するための殲滅部隊。衝車は他の兵を作るのより資源がかかるから貴重だし、壊れなければ何度でも使える。だから、殲滅部隊とは分けて出撃することが多いんだ」

「ですか……(メモメモ)」

「今、攻撃表示時間ってどうなってる? 最初の部隊と新たな部隊との時間差はどれくらい?」

「時間は、1:34:30です~ッ。時間差は……、無いです」

「えっ? 時間差がない? それ、本当?」

「そうですが?」

「いや、だとすると拙いな……」

「どうしてです?」

「防御しにくいからなんだ」

「ふぇッ?」

「殲滅部隊と衝車部隊は、殲滅部隊が先に到着するんだ」

「それは分かります~ッ♪ 衝車が壊れないようにですね? 城の兵と防御武将を全部取り除かないと、衝車が防御に引っかかってしまうからですよね~ッ♪」

「そうなんだ。だから、衝車部隊自体には大抵、攻撃力はあまりない」

「なるほどです(メモメモ)」

「だから、それを利用して、殲滅部隊と衝車部隊の到着の間に、防御武将を差しはさむ防御方法があるんだ。これを差し込みって言うんだけど……」

「あ、衝車部隊なら防御武将だけでも十分守り切れると言うことですか~ッ♪」

「そうなんだ。だけど……」

「はい? だったら、徳川家康君をそこに差し込めば良いのでは?」

「いや、それが……。ふわふわさんは二つの攻撃部隊に時間差が無いと言ったよね? だとすると、差し込むのに凄くテクニックがいるんだ。コンマ何秒のタイミングで防御武将を差し込まなければならない」

「ええっ⁈ じゃあ、初心者の私には無理ってことですか?(涙)」

「あ、いや……。そもそも、差し込みってあまり確率の高くない防御方法なんだ。かなりの熟練者でもなかなか百発百中とはいかないしね」

「でも、旨い人はちゃんと出来るんですよね? 佐助さんならどのくらいの確率で成功なさるんですか?」

「うーん、俺でも、7、8割かな? それでも旨い方だと思うけど……」

「じゃあ、私じゃ、全然、可能性がないんですね?(涙)」

「まあ、そうは言わないけど、一秒くらい時間差があればそこそこ成功するとは思うんだ。でも、今回は時間差無しだからなあ……」

「やっぱり、ダメなんですね(ぐすん、涙)」

そうだよ。

 多分、旨くいかない。

 俺みたいな熟練者でもかなり大変だからな。


 初心者で、しかも、トロそうなふわふわでは、まず無理だろう。

 可哀想だけどな。


 SR徳川家康が少し育ってるから、スキル込みで防御出来るかと思ったけど、多分、それも無理だ。

 殲滅部隊の所要時間が1時間半ちょっとだとすると、これは攻撃武将以外に歩兵が付いているに違いない。

 ふわふわとオッサン将軍の本拠との距離は10マス。

 攻撃部隊は部隊の中で一番遅いものが部隊全体の機動力となるので、歩兵は機動力が6だからほぼ間違いない。

 だとすると、防御力4000では到底防御しきれないな。

 残念だけど……。





「佐助さんっ! ふわふわに構ってる場合じゃないぞっ!」

「ロックさん?」

「宣戦布告だっ! たぬ無双同盟とやらに宣戦布告されたっ!」

「やはりそうか……。ふわふわさんだけを狙ってる訳がないですからね」

「ああ……。しかも、あいつらふざけてるぞっ!」

「どういうことです?」

「宣戦布告の書簡に、負けても良いから戦争を楽しみたい……、とか、鯖で一番大きい同盟だから皇軍の胸を借りたい……、って書いて来ている」

「……、……」

「つまり、俺達の遠征の邪魔をしたいってことだろう、これは? それか、ちょっかいを出してからかっているだけか」

「まあ、そうでしょうね」

「許せんっ! 17鯖は勝負鯖なんだぞっ! それなのに同盟の礎を築くのを妨害するなんてっ!」

「……、……」

「たぬ無双みたいないい加減な気持ちでこっちはやってないんだっ! これから、十期以上も鯖内で最強の同盟を目指しているんだよっ! 皇軍は、なっ!」

「……、……」

ロック、いきり立っても仕方がない。

 少し落ち着けよ。


 大体、宣戦布告の書簡が来たのなら、それはふわふわが攻められる前だろうがっ!

 おまえは同盟員が攻撃される前に宣戦布告に気が付くべきじゃないのか?

 それは総大将の手落ちだろうがっ!


 しかも、宣戦布告されて慌てふためいているなんて……。

 これじゃあ、初心者のふわふわとあまり変わらないじゃないか。

 こんな時こそどっしり構えて、同盟員に速やかに指示を出すのが俺達幹部の務めだろう?

 気が付くのが遅い上に指示出しが遅いなんて、論外だよ。


「と、とにかくっ! ふわふわっ! おまえに構ってる暇はないんだっ! だから、しばらくはチャットで話をするのを禁止するからなっ! 分かったかっ!」

「えっ? でも、私、このままだと落ちちゃうみたいですよ~ッ?(滝汗)」

「そうだよ、おまえは落ちるんだっ! だが、心配するな……。ちゃんと保護期間が明けたら助けてやるから。それまでは黙って遠征していろっ!」

「ええっ? もしかして、見捨てられちゃうんですか?(涙)」

「いいか、ふわふわ。平同盟員なんかいくら落ちても良いんだ。落とし返せばまた味方に戻るんだからな。ブラ戦ではそんなの日常茶飯事なんだよっ! 総大将さえ落ちなければどうとでもなるっ!」

「でも……(ぐすん、涙)」

「でももへったくれもないっ! おまえが差し込めれば助かるけど、出来ないんだろう? だったら自己責任じゃないか。どうすることも出来ないんだよっ!」

「……、……」

まあ、これはロックの言い分が正しいかな。

 たしかにふわふわ自身がどうにかしなきゃ、現状ではどうにもならない。


 近くに同盟員がいれば、違うんだけどな。

 他の同盟員から防御武将を援軍に送って凌ぐ手もある。


 だけど、ふわふわの周りには皇軍の同盟員は何処にもいない。

 これでは援軍に時間が掛かって、到底間に合わない。


 そうか、オッサン将軍の奴……。

 それもあってふわふわを狙ったな。

 本拠同士が近いから自身の防御の意味合いもあるだろうが、他から援軍が入らないのも見越していたんだろう。


 こんな時期に戦争を仕掛けてきたから、あまりブラ戦のセオリーを分かっていない同盟かと思っていたけど、たぬ無双って侮れないのかもしれないな。





「いいか、分かったなっ、ふわふわっ! おまえは落とされても構わずに遠征をしろっ! あと、このチャットルームはこれから作戦本部になるから、余計な発言はするなっ! いいかっ?」

「は、はい……(ぐすん、涙)」

作戦本部ねえ……。

 まあ、ロックがどう采配を振るか見物だな。

 今までの感じだと、あまり期待は出来そうにないが……。


 仕方がない。

 俺が助けてやるしかないかな?

 このままロックや茉莉に任せておいたら、どうなっちまうか分からないからな。


 だけど、たぬ無双同盟か……。

 一体、どんな素性の同盟なんだよ。

 宣戦布告の口上通りに、単に戦争を楽しみたいとは到底思えない。


 オッサン将軍の攻め方を見ても、どう考えても意図的なんだよな。

 だが、皇軍を妨害してどうする?

 それでたぬ無双にどんなメリットがあるって言うんだ?


『あの……、佐助さん』

『……、……』

『お忙しいですか? それとも、もう私に構ってる暇なんかありませんか?(ぐすん、涙)』

『あ、いや……。ちょっと考え事をしていただけです。何ですか、ふわふわさん?』

ふわふわ……。

 可哀想だけど、今回は仕方がないな。


 ロックが酷いことを言っているように感じるだろうけど、そうじゃないんだ。

 残念だけど、諦めな。

 これは言い方は別にして、俺でも同じことを言うよ。


 PMでわざわざ話しかけてきたってことは、愚痴でも聞いて欲しいのか?

 まあ、それくらいならしてやるよ。

 作戦会議の片手間にな……。


『私……』

『んっ?』

『初心者ですし、自分がトロいことも分かってます』

『あ、いや……』

『でも、負けるの、嫌なんです』

『えっ?』

『ほんの僅かでも可能性があるのなら、それに賭けないで負けるのは絶対に嫌なんです~ッ!(キッパリ)』

『だ、だけど、さっきも説明したよね? 俺にも、ロックさんにもどうにもしようがない』

『ええ、それは理解しました。ですから、自力で何とかしますッ! だから、差し込みのやり方を教えて下さいッ!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る