第6話 敵襲
「どうもまだ釈然としない」
「何がですか?」
「佐助さんはやたらと庇うが、ふわふわがスパイじゃないって保証はまだ何もないだろう?」
「はあ?」
ロック、おまえはアホか?
ちゃんと説明してやっただろうが。
書簡が届いているのも分からないような奴が、どうしてスパイなんだよ?
「初心者のフリをしているだけかもしれないからな」
「い、いや……、そんなの考えられないでしょ」
「ふんっ! 佐助さんはすっかりふわふわに丸め込まれているなw だが、俺にはちゃんと疑うだけの根拠があるんだよ」
「根拠ですか? そんな不自然なことはないと思いますけど?」
「いや、明らかに不自然だ。今からそれを証明してやる」
「しょ、証明って……」
どういうことだ?
何か、やたらと自信満々だけど……。
俺のブラ戦プレーヤーとしての直感が、ふわふわが複垢やスパイではないと告げている。
おそらくこの勘は外れていないはずだ。
たしかに打てば響くように答えるし、遠征はしっかりやってるしで疑いたくなるのも分からないではない。
初心者であることが事実なら、これはとんでもなくゲームセンスが良いことを意味するからだ。
だが……。
知らない、分からないことの質が、とてもとぼけているだけには思えないんだよ。
自分に都合よくサボって潜伏したり情報を抜くことを目的としているのなら、遠征の仕方を自ら聞いてやるなんてことはバカバカしくて出来ないはずだ。
それこそ、自分から面倒なことを買って出ているようなものだからな。
実際、スパイなら、
「初心者だから知らなかったので出来ませんでした」
と言うはずだし、そういう奴なら数えきれないほど見てきた。
それに、書簡がどう届くか分からないフリなんて絶対にしやしない。
疑われるだけ損だし、そのまま除名になっても文句が言えないんだからな。
「ふわふわっ! おまえもスパイではないと言い張るのだろう?」
「ふえッ? スパイって何ですか? あ、他の同盟がスパイを送り込んでくることがあるのですか? このブラ戦では……」
「ふふっw あくまでもしらを切りとおすつもりか。まあ、良いだろう。素直に白状する訳もないな」
「えっ? もしかして、私、疑われちゃってるのですか? そ、そんな~ッ(涙)」
「じゃあ、今から俺が聞くことに答えろ。納得がいく答えなら信じてやる」
「は、はい……(ドキドキ)」
「それと、聞いたら即答しろよ。少しでも間が空いたら、それも許さないからな」
「た、多分、大丈夫だと思います……(滝汗)」
ちっ、何を疑ってるんだよ?
ロック……。
おまえがいつも言ってるじゃないか、早く言えよっ!
「ふわふわ……。おまえ、書簡を読んでなかったと言ったな?」
「はい(汗)。すいませんでした、これからは必ず読んで即、返信致します~ッ(汗汗)」
「だったら、何故、おまえはここに来られたんだ?」
「は、はい? ここって何処のことですか?」
「ふんっ⁉ とぼけるなよっ! このチャットルームにどうやって来たか聞いてるんだよっ!」
「えっ? それは、URLをコピペしてですが?」
「ふふっ、まだそんなことを言ってるのか。それは当然だろう、URLが分からなきゃ来られる訳がないし、パスワードが分からなければ入室も出来ない」
「ですです~ッ♪ だから、私もパスワードを入力して入室しましたよ~ッ♪」
そ、そう言うことか。
ようやく俺にもロックの言いたいことが分かってきた。
だけど……。
「だったら、そのURLとパスワードはどうやって知ったんだ? ここで開幕日の集会があることは、幹部ではないんだから、佐助さんからの全体書簡を読まなければ分からないはずだろうがっ!」
「おろッ? 私はURLとパスが書いてあったので遊びに来てみただけなんです~ッ(汗)。そうしたら、何か、いっぱい人がいて、集会が開かれていたんです~ッ(汗汗)」
「ふんっ、チャットルームに何気なく来たら、偶然、集会をやっていたって言うのか?」
「ですです~ッ♪」
「ふざけるなっ!」
「ひぃッ(涙)」
「なら、URLとパスワードは何処に書かれてたんだっ! おらっ、何とか言ってみろっ!」
「URLとパスは……(ぐすん、涙)。掲示板に書いてありました~ッ」
「掲示板? ふふっ、とうとう馬脚を現したなっ! そんなの何処にも書いてないっ! 今もそんなスレは立ってないぞっ!」
「えっ? そんなはずないです~ッ(滝汗)。私、たしかに掲示板で見てコピペしたんですから~ッ(涙)」
ちょ、ちょっと待て、ロックっ!
それは誤解だ。
ふわふわの言ってることは間違いないっ!
「ロックさん……」
「何だ? 茉莉……、突然」
「ふわふわさんの仰っていることは嘘ではないです」
「どういうことだ? 俺は今、掲示板で確認してきたんだぞっ! そんなURLもパスワードも何処にもなかった。それどころか、チャットルームのことさえ全く触れられていない」
「いえ……」
「あん? どういうことなんだ。ちゃんと説明してみろっ!」
「実は、皇軍の同盟が立ち上がってすぐに、私がチャットルームのURLとパスワードを掲示板に貼り付けたのです」
「それは本当か?」
「はい、間違いないです。初日に集会があることは予測がついていたので、同盟員の皆様が分かりやすいようにスレを立てました」
「では、何故、今は無いんだ? おかしいじゃないか?」
そうだよな、茉莉……。
おまえは補佐を何度もやってきているから、いつも同盟を立ち上げるときはそういう対応をしているんだろう?
俺が以前いた他の鯖の補佐もそうやっていた。
だから、それ自体は不自然なことではないよ。
いや、几帳面な奴ほど、掲示板をちゃんと管理するものなんだ。
そして、基本的にそれは悪いことじゃない。
「俺がスレを消したんですよ……、ロックさん。そのことはちゃんとスレを立てた茉莉さんに伝えたよ」
「さ、佐助さんが? どうして?」
「皇軍は加盟自由だからだよ。それこそ、スパイでも誰でも入れてしまうからだ。中にはいるんだよ、同盟に入るだけ入って、ずっと放置するタイプのスパイがさ。だから、書簡で反応をチェックすることで、そう言う奴の当たりをつけるつもりだったんだ。掲示板に書いてあったら、それこそいつでも都合の良い時に情報を抜かれてしまうからさ」
「それじゃあ、ふわふわは佐助さんが消す前に掲示板をチェックしていたってことか?」
「ああ、そういうことでしょう。だから、ふわふわさんは嘘なんか言ってないですよ。ちゃんと辻褄が合っている」
「……、……」
ようやく納得がいったか?
だから違うって言っただろうが。
それと、ロック……。
おまえは幹部や同盟員が何をやっているか、全然見てないんだな。
そういうの、総大将として恥ずかしぞ。
たかがゲームではあるけど、仮にも人の上に立つ人間だったら、味方くらいには気を配れよ。
そんなことじゃ、敵が何をしようとしているかも分からないんじゃないか?
よくそんな行き当たりばったりな対応で、これまでブラ戦をやって来られたなあ。
それとも、おまえのいた同盟はいつもそんなところばかりか?
「あ、あの……。私の疑いは晴れたのでしょうか?」
「ああ、晴れたよ。ふわふわさんの言ってることには何処にも嘘も矛盾もない」
「でしょでしょ~ッ♪ と、言うか、私、まだブラ戦のことが良く分かってないので、スパイなんか出来ないです~ッ(笑)」
「あはは(笑)。そうだね」
分かってるよ、俺は。
ロックも茉莉も、ようやくこれで納得しただろ。
こいつは初心者なだけなんだよ。
抜けてるところもあるだろうけど、大目に見てやってくれよ。
「ま、まあ……。今度だけは許してやる。だが、今後は疑われるようなことをするなよっ! いつまでも初心者じゃ同盟全体に迷惑なんだからなっ!」
「は~いッ、了解しました~ッ♪ もっとブラ戦を理解して、お役に立つように致します~ッ♪」
「そ、そうか……」
「は~いッ♪」
は~いッ、って。
ふわふわ、おまえ、何を言われたか分かっているのか?
普通だったらおまえが激怒して良いくらいの話なんだぞ。
ありもしない疑いをかけられたんだから。
それなのに、ロックの奴、何が、
「今度だけは許してやる……」
だよっ!
偉そうに。
それにちゃんと謝れよな、俺にもっ!
甘いとか何とか、言いたい放題言ったんだからな。
いくら総大将でも言って良いことと悪いことがある。
おまえだってそれくらいの分別はあるだろ、さすがにさ。
「あ、それで……、一つ聞いても良いですか? 今、チャットの過去ログを読んでいてちょっと思ったんですけど~ッ♪」
「何だ? 聞きたいならさっさと言えっ!」
「あのですね……。先ほど、包囲より遠征を優先するって話があったじゃないですか」
「それが何だ?」
「私、それ自体はそうかなって思うのです~ッ(ルンルン♪) 皆で遠征すれば、いっぱいNPC砦に隣接出来ると思いますから~ッ♪」
「それで?」
「ですけど、包囲は包囲でも、何かNPC砦じゃないところを包囲している人もいるんですよね? 星のいっぱいある土地を囲っているんです」
「それがどうした?」
「私、思うんですよ。NPC砦を囲うのって大事なことじゃないですか。それなのに、普通のところを囲ってるのって無駄じゃないです? だったら、その人たちも遠征をしたら良いと思うんです~ッ♪」
「ふざけるなっ!」
「ひぃッ⁈ や、やっぱりそれってダメなんですか?(涙)」
「くっ! これだから初心者は……。茉莉、しょうがないから説明してやってくれ。良いか、ふわふわ、今回は特別だぞっ!」
ま、マジかっ?
ふわふわの奴、いいとこ突いてるよ。
そう、おまえの言ってることは間違ってない。
俺もそう思ってるぞ。
「いいですか、ふわふわさん……」
「はい(汗)」
「普通のところを囲っているのではなく、あれは資源地を囲っているのです」
「資源地、ですか?」
「ええ、そうよ。資源地と言うのは、占領してレベルを上げると獲得資源が増えるのです」
「ふむふむ……(メモメモ)」
「今はまだ武将カードの攻撃力が足りないのでなかなか占領出来ないですが、レベルの高い資源地を多く所有することで兵や衝車を多く雇うことが出来るのです」
「では、遠征よりもそれを優先した方が良いのですね? でしたら、私も囲ってみようかな~ッ♪」
「それはダメです。遠征を優先して下さい」
「ええッ? どうしてですか?(汗)」
「今、資源地を囲うのは、衝車を作ることに特化する人にだけ許されるからです」
「はいッ……?」
ちっ、茉莉の奴……。
相手が初心者だからって、適当なことを言いやがって。
おまえの言ってることこそ間違ってるんだよっ!
「あの、衝車って何ですか? どうして作らないといけないんです?」
「あ、そんなことも御存知ない?」
「すいません、知らないです~ッ(汗汗)」
「衝車と言うのは、城や拠点、NPC砦を破壊するのに必要なのです」
「ふむふむ……、衝車は大事、と(メモメモ)」
「今挙げたところを占領、または攻略するには、武将カードと兵を全部倒して、更に耐久度を下げねばなりません」
「耐久度……、ですか?」
「そうです。耐久度は、普通の攻撃では下げられないのです。ですから、その時に耐久度を下げる専用の兵器である衝車が必要なのです」
「なるほど、なるほど……(メモメモ)」
「衝車を作らないとNPC砦も落とせません。ですから、衝車を作る資源を得るために大量の資源地が必要なのです。あと、衝車を作ることを専門にやる人のことを車屋と呼びます」
「車屋には、資源が必要……、と(メモメモ)」
「ここまでは良いですか?」
まあ、ここまでは基本的には間違ってない。
たしかに衝車を作らないとNPC砦も攻略できないからな。
だが、今、本当に車屋が必要か?
それは違うだろう、茉莉……。
「一応、理解したと思います~ッ♪」
「では、資源地を囲うことも重要なことが分かりましたね?」
「うーん……、そうかなあ? 今、説明を聞いたら、猶更分からなくなっちゃいました(汗汗)」
「何故ですか? 私の説明が分かりにくかったですか?」
「あ、いえ……。そうではないのです。説明はちゃんと分かりました~ッ♪ でも、どうしても今すぐに衝車を作らないといけない理由が分からなくて……(汗汗)」
「それは、衝車を作ってNPC砦を攻略しないと、資源も名声も増えないからですよ。早く攻略すればするほど良いのですからね」
「あ、それは分かっているんです。でも、衝車を作っても今すぐNPC砦って攻略出来ないですよね?」
「何故です?」
「いくら耐久を下げる兵器を作っても、肝心の敵兵を倒す攻撃力が足りていないと思うからです。たしか、兵を雇うのにも資源が必要なんですよね?」
「そ、それは……」
「だとしたら、先にドンドン遠征をして、しっかりNPC砦を囲い、それから皆で車を作ったら良いのではないかと? 遠征は他の同盟との競争ですから、最優先だと思うのですがいかがでしょうか~ッ♪」
「……、……」
ズバリだよ、ふわふわっ!
おまえの言う通りだ。
全く補足するところもないほど、完璧に理解してる。
そうなんだよ。
期が重なって武将カードが育っている訳ではないのだから、今、車屋なんかやったってほとんど意味が無いんだよ。
大体、車屋をやる奴は、資源を確保するためのスキルを所有した武将カードを持っていて、それを活用していち早く必要な衝車の数を確保するんだ。
資源地に頼るような資源の回収速度では、全然間に合わない。
それに、1期は単騎攻撃に特化した武将カードも育ってはいない。
だから、NPC砦攻略にはどうしても兵を雇う必要があるんだ。
衝車をいくら貯めても、敵兵を倒す手段が無ければどうにもならない。
それなのに、何故、鯖が開幕したばかりの今、ロックや茉莉が車屋に固執するのか、さすがにふわふわには分からないだろうな。
すぐには教えてやらないが、それは、幹部や経験者が面倒な遠征を回避するために車屋を言い訳に使っているだけなんだよ。
つまりサボっているだけなんだ。
それが証拠に、茉莉が言葉に詰まっただろう?
ふわふわ、おまえの言ってることは、間違いなく奴等の後ろめたいところを突いている。
おまえの言ってることは全部正しいぞっ!
初心者だけど、ブラ戦の本質を見事に理解しているぞっ!
「ふわふわっ! おまえは余計なことを考えなくて良いんだっ! 俺や茉莉の指示に従ってればなっ!」
「おろッ? あれれ、やっぱり私、変なことを言っていたんですね(滝汗)。すいません、ちょっと思ったことを言っただけなので許して下さいませ~ッ(ペコリ)」
「分かれば良いんだっ! さあ、これでスッキリしただろう? だったら、もう黙ってろっ! 幹部は重要な話し合いの最中なんだからなっ!」
「あ、ちょ、ちょっと待って下さい~ッ(汗)。もう一つだけお聞きしても良いですか?」
「ちっ! また怒鳴られたいのか?」
「あ、いえ……。でも、どうしても今聞いておきたいのです」
「何だ? これで最後だぞっ!」
「は、はい~ッ(汗)。すいません(汗汗)」
「いいから、早く言えっ!」
「あの……。先ほど教えていただいた書簡のマークがありますよね?」
「それがどうした? また、点滅してるのか?」
「いえ、そうではないのです。ですが、その隣にあるマークが同じように点滅しているんです~ッ??」
「と、隣のマークだとっ⁈」
「はい……。私の画面だと小さいので何て書いてあるのか読めないのですが、これって何ですか? もしかして、結構、大事なことだったりします?」
な、何だと?
書簡の隣が点滅って……。
それは、敵襲のマークじゃないか。
ふわふわ……。
おまえ、今、誰かに攻められてるんだよ。
点滅しているのなら、間違いないっ!
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