第4話 とんでもない奴

『そっか、ふわふわさんにはあまり負担になってないんだね、遠征は?』

『負担ですか? うーん、どうなんでしょう? 今は楽しくやれてます~ッ♪』

『た、楽しくねえ……?』

『持ってるカードが大活躍してくれるので、嬉しくて嬉しくて~ッ♪ 高坂君とか石田君とか、足の速い武将をいっぱい並べて、よーいドンで行かせるんです』

『ああ、高坂も石田もUCだね? そう、騎馬武将でデッキコストの少ないのを選んでるんだね』

『ですです~ッ♪ 足の遅い子だと私が眠くなっちゃうので~ッ♪ それに、デッキコストが大きいのだといっぱい並べられないので、結局、足が速くても行き帰りに時間がかかちゃうのかなあ……、と』

そうだよ、それで正解だ。


 無課金だと、きっとデッキコストの総数は10だろう。

 UC高坂弾正はデッキコストが1.5で機動力が15。

 UC石田三成はデッキコストが2で機動力が14。

 他の遠征用の武将カードもコスト2以下でまとめているとすると、5枚はデッキに入る計算か。


 ちなみに、機動力の数値は、一時間に何マス移動できるかを表している。

 機動力が10なら、隣のマスを攻撃するのにかかる時間は、行きに6分、帰りに6分。

 計12分で次の出撃が出来るようになる。


 なんだが……。

 いや、待てよ。

 ふわふわはかなりの速度で進んでいるところを見ると、デッキコストを上げる課金をしているのかな?

 だとすると、デッキコストの上限は15だ。

 それならデッキに7枚は入る。


 なるほど……。

 だったら、作業自体は小一時間で終わるから、後の時間はのんびり出来る訳か。

 それならそれほど負担にはならないのかもしれないな。





『かなり良く考えて遠征をしているね。感心したよ』

『えっ? そうですか?(照)』

『うん……、作業を効率良くするために課金したんだろう? そうなんだよ、デッキコストをMaxまで上げれば15だからね。それなら7枚は速度武将を入れられるから。まあ、期が重なれば攻撃力をそこそこにした速度100の武将とかを作ってガンガン走らせれば良いんだけど、一期目だとそうはいかないからさ。ふわふわさんの方法で正解だよ』

『ふえぇ……?』

『ん? どうしたの?』

『あの……。私、課金はしていないのです~ッ(汗汗)。と、言うか、課金することを止められていまして……(滝汗)』

『止められてる?』

『そうなんです……。だから、デッキコストを上げてはいますけど、それはクエストをクリアした報酬を使っただけなんです。全部使っちゃったので、12にはなっていますけど(汗汗)』

『それで、何枚入れてるの、速度武将は?』

『7枚です~ッ♪』

『えっ? そんなに入る? UC以下の騎馬武将でデッキコストが1.5のカードってそんなに種類がないはずなんだけど? UC高坂だけだよ。だから、コスト12では6枚しか入らない計算なんだけど?』

『うーん、と……。私、カードのことはあまり良く分からないんです(汗汗)。でも、ちゃんと7枚入っていますよ?』

どういうことだ?

 そんなことはあり得ない。


 まあ、課金者ならあり得るんだ。

 高レアリティのカードにも速度武将向きのカードでデッキコストが低いのはあるから。

 課金ガチャをそこそこ回せば、一期でも2、3枚は手に入るかもしれない。


 だけど、ふわふわは課金してないって言っていた。

 だったらあり得ない。

 作業効率を最大に重視するなら、遠征には騎馬武将を使うしかない。

 こいつの進み方からすると、どう考えても効率重視のはずなんだからな。





『あれ? ちょっと違っていたかもです~ッ(汗汗)』

『そうだよね。6枚だったんだよね?』

『えっ? 違いますよ~ッ、ちゃんと7枚入ってます~ッ♪ 今、確認したので間違いないです~ッ♪』

『じゃあ、何が違うの? それに、7枚は入らないはずなんだけどなあ?』

『違ってたのは、武将の種類です~ッ♪ 私のデッキに入ってるの、3枚は1.5コストの槍武将でした~ッ(笑)』

『や、槍武将?』

『そうなんです。デッキコストの小さいカードを探していたら、それしかいなかったんです~ッ♪』

『……、……』

どういうことだ?

 レアリティの低い槍武将は、デッキコストにかかわらず機動力が10しかない。

 こんなのを使って速く進める訳がないんだが……。


『加藤君と福島君と柴田君は、足が遅いので最初に走らせるんです~ッ♪ それから騎馬武将の皆様を行かせると、大体、順番通りに進んでくれますよ~ッ♪』

『そ、そう言うことねっ! なるほど、理解したよ。たしかにそれなら効率もあまり変わらないのか』

『ですです~ッ♪ 二回目に行かせる時にちょっと微調整しますけど、ほとんど問題ないです~ッ♪』

『むう……』

そっか、そういうことか。


 つまり、7枚をデッキに入れ、槍武将から出撃させるんだ。

 最初の槍武将が走る距離は、片道1マス分で、到着まで3分。

 次の槍武将が走るのは、片道2マス分で、到着まで6分。

 三番目の槍武将が走るのは、片道3マス分で、到着まで9分。

 四番目の騎馬武将は機動力が13だとすると、片道4マスで到着まで10分弱。

 だから、同時に出撃させても順番通り到着し領地化される訳か。


 そして、帰ってきたらまたその順番通りに出撃させれば全部騎馬武将で走らせるのと効率はほぼ変わらないってことなんだな。


 微調整と言っているのは、三番目の槍武将と四番目の騎馬武将を二回目に出すときには目標としているマスが10マス目と11マス目だから、速度の違いで騎馬武将が槍武将を追い抜いてしまうので騎馬武将を若干遅めに送り出す意味か。


 こ、こいつ……。

 地味だけど、かなり理論的に考えているじゃないか。

 俺も随分長い間ブラ戦をやってるけど、ちょっとした発見だよ。


 そうだよなあ……。

 これならデッキ内の武将7枚を二往復で14マス進める。

 6枚で騎馬武将の内の2枚が三往復するよりは、遥かに速い。


 今、ふわふわの手持ちの名声は、おそらく13か、14。

 これなら拠点を破棄する三時間の中で全部名声を使いきれる。

 しかも、かなり時間的に余裕をもって。

 他の同盟と同時に走っても、相当早いに違いない。


 だが……。

 これ、本当にふわふわが考えたのか?

 カワイイ武将カードを集めることしか考えてなかった、初心者のこいつが……。


 いや、それはいくらなんでも違うだろう。

 本人が言う通り、かなりトロそうな奴だからな。

 自力で遠征をしたら、何となく騎馬武将を出撃させて効率なんてそこそこで満足するに違いない。


 だとすると、誰かに教わったか……。

 あ、そうか、そういうことか。

 ロックが言っていたから、ブラ戦をやってる奴のブログを見て参考にしたのか。

 そうだよなあ……。

 初心者がちょっと考えてやれるような芸当じゃないよ。

 熟練者の俺でも盲点になっていたんだからさ。

 それもただの初心者じゃない。

 トロそうなふわふわだからな。


 まあ、ブラ戦をやってる中には、こういうところに気が付く熟練者もいるんだよ。

 俺も何回か遭遇したしな。

 そういう奴は経験も豊かだし、基本的なゲーム能力も高いからちょっとしたことでも見逃さないんだ。


 仕事でもブラ戦でもそうだけど、そういうちょっとした得って重要なんだ。

 その時は小さな差でも、積もり積もれば、大きな差になるから。

 だから、ネットで調べてテクニックや知識を得ることは大事だよ。

 たかが作業なんだけどな。

 そのたかがをどうこなすかで人間の能力には差がついてしまう。

 調べて成長する者と、調べもせずにそのまま漫然と過ごしてしまう者……。

 その違いは計り知れないほど大きいんだ。


 ただ、自力でそれを考え付いたら大したものだよ。

 それは、他の可能性にも気が付くってことだからな。

 こういうのがゲームセンスってことだと俺は思っている。

 俺にはそんなものはないけど、まあ、センスの良い奴なんてほとんどいないからさ。

 とりあえず努力することさえすれば、そこそこ良い目もみられるしな。





『ふわふわさん……。そのデッキ構成ってなかなか良いね。俺も真似させてもらおうかな?』

『エヘヘ♪ でしょでしょ~ッ♪ やってみて下さい、快適ですから~ッ♪』

『それで、何を見て参考にしたの? 俺もそのブログを覗いてみようと思ってるんだけど』

『ブログですか? えっ、私、見てないですけど?』

『あれ? ロックさんに言われたから調べてやってみたんじゃないの?』

『あ、自分で調べろって言われたんですけど……(汗汗)。遠征については佐助さんが全部教えてくれちゃったじゃないですか~ッ♪ だから、全然、調べてないです~ッ(笑)』

『じゃあ、その遠征のデッキ構成は……?』

『うーん、と……。その……』

『はい?』

『何となく、そんな風にした方がスムーズに進めるかなあ……、って思いまして(汗汗)』

『な、何となく? と言うことは、もしかして、自力で考えたってこと?』

『そうなんですけど、やはりちょっと拙いところがありますか? もっと良い方法があったりして~ッ(笑)』

な、何だと?

 自力?


 マジかよ?

 まあ、嘘をつくタイプでも無さそうだし、本人はその効率の良さがあまり分かってないみたいだから、とぼけるとも思えないし……。


 ……ってことは、本当に自力で考えたのか。

 いや、何となく思いついちゃったってことか。


 でも、その何となくって、何だよ?

 意味が分からない。

 理論的に得だと思ってやってるってことなら理解できるけど、何となく得するってどういうことだよ。

 初心者がたまたま何となくやってみたってのを信じろって言うのか?

 こいつは、つい一昨日まで遠征のえの字も知らなかったんだぞ。


 ビギナーズラックってのは、文字通り初心者が運良く得することだ。

 だけど、これには運は関係ない。

 理論的に明確な答えが出ることだから。

 だから、これは偶然じゃないんだ。

 ふわふわが自分の中から絞り出した方法だし、明らかな気付きだ。





『あ、あの……、佐助さん?』

『んっ? ああ、ごめんね。何?』

『いえ、急に黙ってしまわれたので……(汗汗)。私、何か変なことを言ったのかと?』

『い、いや……、そうじゃないんだ』

『ですか~ッ♪ 良かったです~ッ♪ 私、ブラ戦にお友達がいないので、何かを相談できるのって佐助さんだけなんです~ッ♪』

『そ、そう……』

『だから、嫌われちゃったら辛いなあ~ッ、と。私、寂しいのは良いんですけど、相手にされなかったり迷惑を掛けるのは嫌なんです~ッ♪』

『……、……』

ロックが何か言い出したみたいだが、俺の目にはふわふわのPMしか目に入らなかった。


 そう言えば、会議中だったな。

 そんな会議には何の意味もないけど……。

 能力の低い者ややる気のない奴がいくら話し合っても、物事は解決なんかしやしないから。

 

 それに較べて、間違いなく、ふわふわは凄い。

 根本的に能力が違うのか、それともセンスが抜群に良いのかは分からないが……。


 しかも、本人はそれに気が付いていない。

 誰でも自分と同じようにゲームをやってるとしか思ってないに違いない。


 もちろん、まだブラ戦の全てを知った訳ではないから、たまたま遠征に特化した能力を開花させた可能性もある。

 しかし、こいつがしっかり知識を身につけたら、他にも色々と得をする方法を見つけ出すような気がするのだ。

 これはあくまでも俺の勘に過ぎないが……。


『それで……、佐助さん。どうやったら隣接したNPC砦を包囲してもらえるでしょうか?』

『あ、ああ……。それならそんなに難しいことじゃないよ』

『ですか~ッ♪』

『まだ作られてないけど、掲示板の包囲依頼のスレに書き込めば良い』

『包囲依頼……、ですか?』

『あ、そう言えば、ふわふわさんにはまだ教えてなかったね。NPC砦に隣接したら、隣接のスレに砦の番号と座標を書き込むんだ。そして、包囲依頼のスレにも同時に書き込めば、それを見た誰かが飛んで行って包囲してくれるからさ』

『なるほどです~ッ♪ そっか、私が掲示板に書き込まなかったから包囲してもらえなかったんですね~ッ♪』

『……、……』

やっぱり、初心者ではあるんだよな。

 こんなの言わなくても経験者なら誰でも知ってことだからさ。


 まあ、茉莉の手が回らなくて包囲依頼スレがまだ立ってないのは問題だけど、それでもブラ戦をやり込んでいれば、自分で書簡を出して包囲依頼をすることくらいは何でもないことだ。





『あ、時間が来ちゃいました~ッ♪』

『時間?』

『はい~ッ♪ 拠点が建つ時間です~ッ♪』

『じゃあ、これから遠征だね。頑張ってね』

『は~いッ♪ のんびり進みます~ッ♪』

『包囲依頼のスレは俺が立てとくから、あとで書き込んでね』

『よろしくお願いします~ッ♪』

『実は、他のルートの伸びがあまり良くないので、ふわふわさんに頑張ってもらわないと皇軍はピンチなんだよ』

『おろッ? でも、私、これ以上速く進めないです~ッ(滝汗)』

『いや、ふわふわさんはそのままで良いよ。十分、速いし、成果も上がってるからさ。そのまま今のままで頑張ってくれればさ』

『ですか~ッ♪ じゃあ、これまで通り、一日四回遠征しますね~ッ♪ ではでは~ッ♪』

『はあ? よ、四回って……』

『……、……』

『あ、……?』

俺の最後の問いに対する応えは無かった。


 ふわふわのことだ。

 拠点が建ってしまうので、急いでゲーム画面に切り替えたに違いない。


 一日四回の遠征……。

 さらっと言いやがったけど、それって寝てないってことじゃないか。

 いや、正確に言うと、遠征が終わってから拠点が建つまでの短い時間しか寝る暇がないってことだ。


 せいぜい長くても三時間。

 あいつはそれを遠征が終わるまで続けるつもりなのか?


 つい一昨日までは、ブラ戦を一日十分しかやるつもりがなかったはずのふわふわが……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る