第2話 一日10分で?
『あ、あの……。もしかして、私、変なことを言いました(汗汗)?』
『いや、そうじゃないんだが……』
『先ほど、佐助さんが仰っていたルートって用語が気になっていたんです。それに、このゲームはカワイイ戦国武将のカードを集めて楽しむものだと思っていたので』
『カワイイ?』
『ほら、武田信玄とかお市の方とか、カワイイカードが多いじゃないですか』
『……、……』
『私、その前にやっていたゲームはガンダムのだったんです。ですが、連邦軍の所属になったら、いかついロボットばかりで全然カワイクなかったんです(涙)。ジオンの方はカワイイのがいっぱい出てるのに~ッ(ズルいです。プンプン!)。ボールのカワイさに騙されました~ッ(涙)』
『だから今度はブラ戦をやったの?』
『そうなんです~ッ♪ のんびりまったりカワイイのばかり集めるつもりでいます~ッ(ルンルン♪)』
『……、……』
ちょ、ちょっと何てコメントして良いか分からん。
どこかズレてるとは思っていたけど、何なんだ、こいつは?
大体、武田信玄のどこがカワイイんだ?
お市の方は、まあ、色っぽいしそもそもが絶世の美女ってことになっているから、武将カードもそれなりに豪華でカワイイと言えなくもないけどな。
だけど、武田信玄を一番に持ってくるセンスが良く分からない。
ま、まさか……。
武田信玄が被ってる冑の角がカワイイとか言い出さないだろうな?
冑の中身はつるっぱげのオッサンだぞ。
……と言うか、こいつマジモンのおかしい奴か?
『あッ! すいません(汗)。話が横道に逸れてしまいまして……』
『いや……。まあ、当たらずとも遠からずかな? たしかにカードを集めるゲームだしな。だけど、ブラ戦は武将カードを集めて終わりじゃないんだ。それを育てて使って初めて楽しめる』
『えっ? 武将カードが育つんですか?』
『経験値が貯まるとレベルアップする。合成してスキルも複数付けられるしな。レベルアップすると各種のステ(ステータスの略)も上がるんだ。だから、いっぱいレベルアップさせるために遠征が必要なんだよ』
『ふむふむ……(メモメモ)』
『もう一度マップを見てくれる?』
『はい、見てます~ッ♪』
『その中に、自分の城とも他のプレーヤーの城とも違う紫色の砦があるでしょう?』
『ん? ちょっと待って下さい』
『……、……』
やはり全然分かってなかったか。
そうだろうとは思っていたけど、ここまで大外ししているとはね。
『ありました~ッ♪ 何か、他の同盟の人が周りの領地を占領して囲っているみたいですね。真っ赤の中にポツンとあります~ッ♪』
『そう、囲っているんだよ』
『うーん? 囲ってないで攻撃して占領出来ないんですか?』
『出来るよ。だけど、その砦はNPC砦と言って、兵がいっぱい詰まってるんだよ。だから、最初は自分の城や拠点で兵を雇わないと攻略出来ないことになってるんだ』
『あ、何か分かってきました~ッ♪ 兵を育てて自分のカード武将とNPC砦を攻撃して、経験値を上げるんですね。そうやってカードを育てるってことではないですか?』
『まあ、近いけど、ちょっと違う。NPC砦を攻略するのは手段なんだ』
『手段ですか?』
『そう……。NPC砦を攻略すると、攻略した同盟の同盟員全員に名声とボーナス資源がもらえる。ボーナス資源はNPC砦を占領している間は供給し続けてくれるから、出来るだけ多く攻略した方が良いんだ』
『ふむふむ……(メモメモ)』
『兵を雇うには資源がいる。その資源をNPC砦からもらって大量に兵を雇い、もっと敵兵がいるところに武将カードと突っ込ませる。すると、経験値がいっぱいもらえて武将カードが育つんだ』
『なるほど……。育てるのに結構手間が掛かるのですね(汗)』
『そうなんだよ。だけど、しっかり育てると他の同盟のプレーヤーと差がつくからね。ドンドン強くなって快適にゲームが進められるようになるって訳だ』
『む、むう……』
『これがブラ戦の楽しみ方なんだけど、分かってもらえたかな?』
ちゃんと説明したつもりではいるけど、多分理解してはいないだろうな。
なんせ、カワイイカードが多い……、って動機で迷い込んだ初心者だからな。
ちゃんと理解して正しくゲームを楽しむとはとても思えない。
まあ、でも、これで俺は参謀としての役目を果たした。
あとはふわふわがどう受け取るかの問題だ。
正しく理解してなくても俺の責任ではないから勘弁してくれよな。
ふと気が付くと、ロックがチャットに集まった同盟員達に大演説をぶちかましている最中だった。
俺としたことが、ふわふわがあまりにも的外れなことを言い出すものだから、ついそっちに気を取られてロックの方は疎かになっていた。
だけど、ロックが言い出しそうなことは見当がつく。
だから、わざわざログを見直す必要もないだろう。
きっと、
「遠征には全員参加だっ!」
とか、
「しっかり遠征しない奴は除名だからなっ!」
とかって、居丈高に吠えているだけだろう。
俺ならそんな高圧的なことを言わないけどな。
楽しみでやってるゲームなのに、色々と強制されたらやる気だって無くなっちまう。
もっと前向きに、
「17鯖どころか、ブラ戦史に残るような最強の同盟を皆で作ろう」
とか、
「長く楽しむためには最低限の作業は必要だ。だから、ここは皆で協力して面倒な遠征をさっさと片付けようぜ」
みたいなことを言って、とりあえずその気にさせるよ。
それが組織の幹部ってもんだろう、普通はさ。
ロックみたいなやり方は実は損なんだけど、あいつには言っても分からないだろうな。
『佐助さんっ! 私、分かりました~ッ♪』
『んっ? 何が分かったの?』
『遠征の目的です~ッ♪』
『そう? じゃあ、言ってみて』
『は~いッ♪ マップの中にいっぱいNPC砦はあるんですよね? それをすぐには攻略できないから領地で囲う必要があるのだと思います』
『うん……、それで?』
『今、マップを色々動かしてみたんですけど、誰も足を踏み入れてないところがいっぱいありますよね? そこにいち早く行って、NPC砦をいっぱい囲うのが遠征の目的です~ッ♪ それで、あとから攻略すれば、同盟がいっぱい潤ってウハウハになるってことですね~ッ♪』
『うっ、うん……』
な、何だと?
ちゃんと理解してるじゃないか。
マジで、ちょっと驚いたよ。
かなりズレてるし、目的も分かって無さそうだったし、あまり賢くもなさそうだから期待してなかったんだが……。
正直、ふざけてるとしか思えなかったけど、ふわふわはふわふわなりに一生懸命俺の話を理解しようとしていたらしい。
こういう反応をされると、説明した方もちょっと嬉しいもんだ。
手間を掛けたことが無駄になってないってことだからさ。
会社でも俺はよく新人の教育係を押し付けられるけど、せっかく説明してもちゃんと理解しようとしない奴を相手にするのは疲れるだけなんだよな。
まあ、俺の説明が極上で最高って訳ではないだろうが、それでもやる気のある奴はちゃんと理解しようとする。
そういう意味では、ふわふわはかなり良い線いってるよ。
初期の理解が皆無だった割にはキッチリ水準まできてるしさ。
分からないところを自分から聞いてくる姿勢も好ましいと言える。
……って、こいつ、今、どんな職についているんだろうな?
多分、気の遣い方からすると、学生ではなさそうだ。
会社や組織の中で働いた経験がないと、自分の立ち位置なんかはあまり気にしないからさ。
『長々と教えていただいてすいません』
『あ、いや……』
『もう総大将様の話が始まっていますよね。何か、凄く重要なことを話しておられるみたいなので、あとでちゃんとチェックしておかなきゃ(汗汗)』
『そうね……。あ、そうだ。遠征のことはこれで分かっただろうけど、ルートの説明もしないとね』
『いいんですか? 佐助さんには幹部のお仕事があるのではないですか?』
『うん、まあ、そうなんだけどさ。だけど、参謀ってのは同盟員の教育係だから。同盟員の疑問に答えるのも立派な役割なんだよ』
『ありがとうございます~ッ♪ 私、しっかり聞いて、頑張って遠征しますね~ッ♪ せっかく教わったのですから~ッ♪』
『あ、うん……』
何て言うか……。
本当に頑張るかどうかは知らんけど、嘘でもちょっと良いな。
こういう反応は……。
『ルートはそんなに難しくないからすぐ終わるよ』
『そうなんですか? でも、ちゃんとメモっておきます~ッ♪』
『あはは(笑)。じゃあ、もう一回マップを見てもらえるかな?』
『は~いッ♪』
『マップの誰も占領していないマスにカーソルを合わせると、星が表示されるのが分かるかい?』
『あ、分かります。星が幾つもあるのとか、一つしかないのとか色々なマスがあります~ッ』
『その星はマスの強さを表しているんだ』
『強さですか?』
『そう、星が多ければ多いほど強い兵がいっぱい出てくる』
『ふむふむ……』
『それと、マスを攻撃する場合には、もう一つ重要な要素がある。それは、武将カードを設置している城や拠点の距離に応じて、兵が増えるってことなんだ。遠ければ遠いほど兵は多くなる』
『あ、そういうことですか~ッ♪ 経験値をいっぱい獲得するには、遠い領地にいっぱいの兵で行かせれば良いんですね?』
『そうそう……。その遠隔地を兵に攻撃させて経験値を得ることを、レベリングって言うんだ』
『なるほどです~ッ♪』
『まあ、そのレベリングの効率の良いやり方はまた教えるんで、今は話を戻すよ』
『は~いッ♪』
『ルートって言うのは、極力楽に最短距離を行く道を示したものなんだよ』
『つまり、星が一つのところだけを通るのですね?』
『そう、ルートの先にはNPC砦がある』
『ふむふむ……』
『さっき、領地は名声の数しか取得出来ないことは言ったよね?』
『は~いッ♪』
『だとすると、一人だとその名声の数しか進めないことになる』
『ですね~ッ♪ 領地を破棄し終わるまでは動けないです~ッ♪』
『だけど、他の同盟員がそのルートに参加すれば、同じ時間で倍の距離を進めるだろう?』
『お~ッ! なるほどです~ッ♪』
『だから、同盟の掲示板にルートを示し、そのルートに沿って進めば効率良く早く進めるんだよ』
『でも、そのルートって補佐様が一々書くんですか? さっき、総大将様が指示なさっていたようですけど?』
『いや、そんな面倒なことはしないよ。ツールがあるんだ、外部サイトにね。それをコピペしてるだけだよ』
『ふぇ~ッ⁈ ブラ戦って凄くシステム化されてるんですね~ッ♪』
『これでルートの説明もお終い。分かってもらえたかな?』
『あ、ちょっと待って下さいね。今、メモを整理してますので(汗汗)』
くすくす……。
こいつ、本当にメモってるのか。
マメと言うか、実直と言うか……。
まあ、でも、しっかり理解していることは間違いなさそうだ。
ちょっと説明しただけでレベリングの仕組みを理解したのを見ると、飲み込みは悪くないらしい。
ただ……。
実際に遠征をやって有能かどうかはまた別の話だけどな。
ここから先はゲーム能力とセンスの問題もあるから。
話している感じだと、一生懸命さは伝わってくるけど、イマイチセンスを感じない。
それに、やれば面倒な作業であることはすぐに分かるだろう。
結構な根気が必要なこともな。
『あ、あの……、度々すいません(汗汗)』
『ん? どうしたの、何か分からなかった?』
『あ、いえ……(汗汗)。佐助さんの説明は凄く分かりやすかったんです~ッ♪
なので、メモったことはとりあえず理解したと思うのですが……』
『だったら、問題なさそうだよね?』
『それが……。今、掲示板にルートが貼り付けられたみたいなので見てきたんです。ですけど、私の側にはルートがないみたいなんです(滝汗)』
『そうなの? ちょっと待ってね、調べてみるから。ちなみに、ふわふわさんの城の座標は?』
『座標ですか? えっと……』
『マップでカーソルを城に合わせれば出るよ』
『あ、(112,2)です~ッ♪』
なるほど、周りが真っ赤な訳だ。
一応、皇軍が本拠としている北東には違いないが、ほとんど北西との境じゃないか。
これじゃあ、周りは敵だらけだし、ウチの同盟員も至近には少ないだろう。
『見てきたよ。確かに近くにルートがないね』
『あ、やっぱりそうですか。どうしよう、ルートが無いとどう進めば良いか分からないです~ッ(涙)』
『うーん……。まあ、仕方がないから、一人で遠征してくれるかな? NPC砦を目指して進むだけだからそんなに難しくはない。逆に、ルートがあると他の人に合わせないといけないから難しいところもあるしね。マイペースで行けるから、最初は一人の方がやりやすいかもしれないしさ』
『そ、そうなんですか? でも、心細いです~ッ(涙)』
『あはは、そんなに心配することはないよ(笑)。気を付けなきゃいけないのは、NPC砦の隣接に必ず一つ領地を残すことと、進むための領地を取得したらすぐに破棄し始めることだけだから』
『えっ? 囲うんじゃないんですか?』
『囲うのはそれ専門の人にやってもらうよ。囲いに名声を使ってしまうと、進めなくなってしまうからね』
『あ、なるほどです~ッ♪ では、私はひたすら進めば良いのですね~ッ♪』
『そうそう。ふわふわさんの位置から北に向かってひたすら進んで下さい。壁に辿り着いたら終了ですので、頑張って下さいね』
『は~いッ♪ 頑張ります~ッ♪』
まあ、あまりあてにしてないから、気楽にやってくれ。
一人で遠征をしても、他の同盟と競ったらなかなかNPC砦の隣接も取れないだろうしさ。
だが、これも経験だよ。
多少は苦労するだろうし、悔しい想いもするだろうけど、我慢してくれ。
初心者なんだからさ。
慣れれば楽しいこともきっとあるからね。
『あ、あの……、佐助さん?』
『何? まだ何か分からない?』
『あ、いえ……。そうではないのです。すいません、いっぱい説明していただいて』
『いや、さっきも言った通り、これが参謀の役目だからさ』
いや、こんなに丁寧に説明したのは久しぶりだよ。
以前、十人くらいまとめて教えて以来だ。
参謀と言ったって、一人にこんなに懇切丁寧には教えないな、普通は。
だけど、教える側もちょっと気持ちよかったよ。
ふわふわは素直だからさ。
打てば響くようなところもあるし。
『私、正直、ブラ戦を舐めてました。ゲームの宣伝に、一日10分で楽しめる……、って書いてあったので、そのつもりでいましたし……(滝汗)』
『そうなんだ……』
『でも、凄く奥が深そうですね、ブラ戦は。まだまだ私が知らないといけないことはいっぱいありそうです』
『うん、まあ……、そうだね』
『私、トロイし初心者だし、多分、お荷物だと思うのです。同盟には必要とされてないかな……、って(汗汗)』
『……、……』
「でも、一生懸命やりますから。それだけはお約束します~ッ♪」
お、おいっ!
最後のコメントはPMになってないぞ?
「またおまえかっ! 人の話に割り込みやがってっ!」
「ひっ⁈」
「何が一生懸命やりますだよ。そんなの当たり前だろうがっ!」
「あ、その……、すいません~ッ(涙)」
ああ、あー。
ドジな奴だな、まったく。
また、ロックに怒鳴られるなんてさ。
本当に、間が悪い奴だな。
素直で、ちょっとカワイイところもあったりするけどさ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます