第七章三節 双闘

「覚悟しろ、“神殿騎士団”とやら!」


 アナトールのSchadouスハードウが、ダークdirkを3本まとめて投擲とうてきする。

 しかしAsrifelアズリフェル_Violettiaヴィオレティアは盾をかざし、飛来したダークdirkを叩き落した。


「その程度で、あたしとこいつは殺せないよ。フヒヒ」

「まだ手はある!」


 Schadouスハードウは、今度は右手にダークdirkを1本だけ持って疾駆する。

 接近し、回り込みを仕掛けるも、Asrifelアズリフェル_Violettiaヴィオレティアに容易く追随されていた。


「背中から突こうってのかい? 元気だねぇ……」

「何という反応の速さだ……!」


 アナトールはAsrifelアズリフェル_Violettiaヴィオレティアを見て、苦い表情をした。

 魔導騎士ベルムバンツェの性能も、搭乗している騎士の技量も、自らを遥かにしのいでいる事を理解したのだ。


「だが、俺の役目は別にある……!」


 そう自らに言い聞かせたアナトールは、何とダガーを投擲とうてきした。

 通常とは違う用途で用いられたそれは、何の問題も無くAsrifelアズリフェル_Violettiaヴィオレティアの頭部に、吸い込まれるように向かっていく。


「それでこいつの目は奪えないよ」


 だが、Asrifelアズリフェル_Violettiaヴィオレティアは首を素早く捻ると、あっさりダガーを避けた。


「いいや、これでお前の注意はれた!」


 しかし、これこそがアナトールの真の狙いであった。

 Asrifelアズリフェル_Violettiaヴィオレティアの注意が逸れた隙に背面へ回り込み、機体の隙間へダークdirkを突き立てようとしていたのだ。


 SchadouスハードウAsrifelアズリフェル_Violettiaヴィオレティアの背面に回り込み、ダークdirkを突き立てる。

 ガキィンと硬質な音が響き――




 突き立てたダークdirkが、折れた。




「何……ッ!?」


 乾坤一擲けんこんいってきの一撃が、あっさりと無効化された事実に、アナトールが驚愕する。

 遅れて、何かがアナトールの体を貫いた。


「ゲボッ…………!」

「隙だらけだよ、フヒヒ」


 Asrifelアズリフェル_Violettiaヴィオレティアの大剣が、アナトールを魔導騎士ベルムバンツェごと貫いていたのであった。

 Asrifelアズリフェル_Violettiaヴィオレティアが大剣を引き抜くと、Schadouスハードウは仰向けに倒れる。


「雑魚を一匹始末しただけか。割に合わないねえ、フヒヒ。…………ん?」


 と、Asrifelアズリフェル_Violettiaヴィオレティアに乗った騎士が訝しむ。

 その直後、Schadouスハードウから光弾が発射された。


「まだ生きていたのかい。あたしも詰めが甘いねえ」


 Asrifelアズリフェル_Violettiaヴィオレティアが盾をかざす。

 しかし光弾はAsrifelアズリフェル_Violettiaヴィオレティアを無視し、空高く上がって輝きだした。


「団、長……。申し訳、ありま、せん……」


 Schadouスハードウの操縦席内部では、アナトールが血まみれになりながらも、最後の気力を振り絞っていたのである。

 そこにAsrifelアズリフェル_Violettiaヴィオレティアが近づき、盾をSchadouスハードウの胸部へ突き立てた。


「しくじったね。あれは信号弾かい。まったく、こんな事なら指一本残さず吹き飛ばしちまえば良かったかねぇ……」


 Asrifelアズリフェル_Violettiaヴィオレティアの騎士は、深くため息をつく。


「ともあれ、まだ王国領内に賊どもこいつの仲間がいるはずだ。追うか」


 しかしすぐに意識を切り替えると、Asrifelアズリフェル_Violettiaヴィオレティアに搭載された専用の“フリューゲ”を起動し、いずこかへと飛び去って行ったのであった。


     *


 一方、同時刻では、シュランメルト達もまた、多数のSchadouスハードウを相手に奮戦していた。


「覚悟しろ、狼藉者よ!」


 王室親衛隊のBerfieldベルフィールドが、Schadouスハードウをあっさりと屠る。

 襲ってきた8台のSchadouスハードウのうち、既にほとんどが結晶の塊と化していた。


 王室親衛隊の、そしてシュランメルトのあまりの強さに、Schadouスハードウ達がたじろぐ。

 その間にもAsrionアズリオンの放った光線ビームが、1台のSchadouスハードウの胴体を両断する。

 それを見た最後の1台が、大慌てで逃げ出した。


「最早逃げるだけとはな。それ以外の選択肢が無いのは当然だ。だが、容赦はしない」


 しかしシュランメルトはAsrionアズリオンを跳躍させると、移動する距離を見越して光線ビームを放った。

 的確な射撃は、容赦なくSchadouスハードウの胸部を、あっさりと貫通した。


「跳躍はさせたが、前には出ていない。構わないな、フィーレ?」

「ええ。ともあれ、お疲れ様でした」


 フィーレがシュランメルトを、王室親衛隊の隊員達をねぎらう。

 しかしシュランメルトは、浮かない顔であった。


(妙だ……嫌な予感がする)


 首を回し、Asrionアズリオンの視界に異常が無いか確かめる。


(どこかに、いるはずだ。どこだ、どこにいる……?)


 シュランメルトは必死に、何かを探す。

 Asrionアズリオンの首を巡らせ、モニター越しの視界の端から端まで、異変を見つけようとする。


「では、行きましょうか」


 だが、それに気づかない王室親衛隊の隊員が、シュランメルトを促す。

 その時、異変が起きた。


「待てッ……!」


 シュランメルトが止めるも、既に遅し。

 隠れていた1台のSchadouスハードウがダガーを構えて、森から飛び出してきたのだ。


「えっ……?」


 王室親衛隊の隊員が、呆けたように呟く。

 シュランメルトは「間に合え」と祈りながら、大剣を構え――




 その時、空中から一条の、紫色の光線ビームが降り注いだ。

 Schadouスハードウを貫き、その身を結晶の塊へと化す。




「何だと!?」


 シュランメルトが驚愕する。

 はなったのは、


 しばし皆が驚愕していると、声が響いた。


「もうほとんど片付いてるしお節介かとも思ったんだけどねえ。やっぱり来て正解だったね、フヒヒッ」


 アルトの女声じょせい

 皆の耳の届いた後、別の音が響く。魔導騎士ベルムバンツェが大地に降り立つ音だ。


「見つけたよ、御子様」

「誰だ、お前は!? 新手か!?」


 シュランメルトが詰問きつもんすると、女性が魔導騎士ベルムバンツェの手を振って否定する。


「違うよ。あたしはね……いや、あたし達はね、“神殿騎士団”にいるのさ。そしてあたしの名前は、“Nohtreiaノートレイア・ Freyfelフレイフェル・ Asreiaアズレイア”。“神殿騎士団”の末席、第五席さ」


 はすっぱではあるが、最低限必要な身分の公開はしている。

 そしてノートレイアは、魔導騎士ベルムバンツェを跪かせた。


「そしてあたしの相棒の名前は、Asrifelアズリフェル・_Violettiaヴィオレティア。こいつともども好きに使ってくれ、御子様」


 ノートレイアは、何の悪意も無い声でシュランメルト達に告げる。

 と、突如としてパトリツィアが人間になった。


「ノートレイア! ノートレイアじゃないか!」


 パトリツィアは嬉しそうに、しかし若干ぷりぷりしながら、名前を呼んでいたのであった。

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