(解説有)第七章二節 黒影

「貴様ら、何者だ!? こちらにいらっしゃるお方をどなたと心得るか、無礼者どもめ!」


 先頭の隊員が叫ぶ声が、森と森の間にある小道に響く。

 しかし黒く小さき魔導騎士ベルムバンツェ達は、何も返さない。


「答えろ!」


 先頭の隊員はなおも叫ぶが、謎の魔導騎士ベルムバンツェ達は、やはり一言も発さなかった。

 代わりに、腰に携えていたダガーを構える。


「あくまでも戦う気か……! ならば!」


 先頭のBerfieldベルフィールドもまた、挑発に応じるように剣を抜いて、構えた。

 と、突如Asrionアズリオンが背中を向ける。


「シュランメルト様!? 何を……」


 Berfieldベルフィールドの問いかけにも応じず、Asrionアズリオンは背を向けたままだ。

 おもむろにつかを取り出すと、結晶を伸ばして刀身を形成し、魔力を集める。

 そして、森の一点に光線ビームを撃ち込んだ。




 ……一瞬遅れて、結晶の破砕音が聞こえた。




「後ろにもいるぞ」


 シュランメルトは平静を崩さず、淡々と護衛である王室親衛隊の隊員達に告げる。

 遅れて、撃たれたものとは別の、黒く小さき魔導騎士ベルムバンツェが現れた。


「囲まれたと見て構わないだろうな」


 シュランメルトは半球の上に両手を乗せながら、冷静に思考する。


(しかし見た所、これらの魔導騎士ベルムバンツェは正面からの戦闘に適しているとも思えないな。こういう時は、何か策があるものだ。用心しなくては)


 その思考に、フィーレが介入した。


「シュランメルト。何があっても、王室親衛隊の皆様のBerfieldベルフィールドより前には出ないでくださいませ」

「どういう意味だ?」

「もしもに備えて、ですわ。忘れましたの? 今、“わたくしが持っているもの”を」

「オーリカルクミア、か」

「その通りですわ。託されたこの希少金属、わたくしは王家の誇りにかけて守り抜いてみせますわ。そのためにも、シュランメルト。貴方の協力が必要不可欠なのです」

「承知した」


 シュランメルトは力強く肯定し、Asrionアズリオンに大剣を構えさせた。


「道を遮る以上は排除する。頼むぞ、王室親衛隊」

「引き受けました!」


 そして、シュランメルト達と黒く小さき魔導騎士ベルムバンツェ達の激突が始まったのである。


     *


 その頃。

 アナトールは魔導騎士ベルムバンツェのモニター越しに、Asrionアズリオン達の激突を遠くから見ていた。


「団長、任務は果たしました。そちらへ向かいます」


 きびすを返し、合流を試みるアナトール。


「むっ!」


 しかし、上空より飛来した影が、アナトールの魔導騎士ベルムバンツェを足止めした。


「フヒヒッ。行かせないよ」


 そこには、毒々しい紫色に染められた魔導騎士ベルムバンツェが、マントをたなびかせながら仁王立ちになっていた。


「あたし達“神殿騎士団”の名にかけて、機密情報は漏らさせないよ」

「生憎だったな。俺が殺されても、代わりの者がいる。彼らが、貴重な情報を伝えてくれる」

「つまりあたしは遅かったってわけかい、フヒヒ」

「その通りだ。そして、お前は俺に殺される。今、ここでな」


 アナトールの魔導騎士ベルムバンツェが、左手にダガー1本を、右手にダークdirkと呼ばれる投擲とうてき用の小型ナイフ3本を構える。

 シュランメルト達を襲った黒き影――魔導騎士ベルムバンツェと同型の機体――の正体は、“Schadouスハードウ”という。

「影」を意味する本機は、闇に潜む間者かんじゃ用の魔導騎士ベルムバンツェであった。


「そんな貧弱な魔導騎士ベルムバンツェで、かい? あたしも舐められたものだねえ……」


 紫色の魔導騎士ベルムバンツェも、同様に武器を構える。


「いいさ。どの道、お前はここであたしに殺される。フヒヒッ」


 取り出したものは、だ。

 そこから


「こいつでね。フヒヒヒヒッ!」


 紫色の魔導騎士ベルムバンツェの名は、“Asrifelアズリフェル_Violettiaヴィオレティア”と呼ばれているのであった。



       ――解説欄――



Schadouスハードウ


 頭頂高:9.0m

  全高:9.0m

  重量:20.3t(装備重量)

装甲材質:Adimesアディメス結晶

 動力源:魔力/魔力増幅装置(補助動力)

 機体タイプ:隠密機



〈概要〉


 黒色を基調とした機体。

 魔力で稼働する。


 前傾したような姿勢が特徴的な魔導騎士ベルムバンツェ


 非力な機体ゆえ戦闘には不向きだが、脚部にはかなりの筋肉が詰められているため、駿馬しゅんめにも優る走行速度を有する。


 飛行不可。



〈武装・装備〉


●ダガー×1


 全長2.0m、刃渡り1.0mのダガー。

 鞘は無く、抜き身で携帯する。

 切れ味に乏しいため、刺突をメインに使用する。


ダークdirk×6


 全長1.3m、刃渡り1.0mの投げナイフ。

 こちらも鞘は無く、抜き身で携帯する。

 基本的に、戦闘終了時に回収する。


●現出装置×11


 機体のクリアパーツとして配置された、オレンジ色の宝石。

 魔力増幅機能がある。


 機体内部に設定された魔術式により、

「遠距離攻撃用の光弾」

 を使用可能になる。



Asrifelアズリフェル_Violettiaヴィオレティア


 頭頂高:13.2m

  全高:14.5m

  重量:60.3t(装備重量)

装甲材質:古代の特殊金属(駆動系にはAdimesアディメス結晶を併用)

 動力源:魔力/魔力増幅装置(補助動力)

 機体タイプ:少数生産機



〈概要〉


 “神殿騎士団”に所属する者が搭乗する専用機。

 紫色を基調とした機体。


 魔力で稼働する。

 搭乗時には“認証鍵”と呼ばれる、特殊な鍵を差し込む必要がある。


 本機はある機体をスペックダウンしたものである(外見も元の機体に準じている)。

 しかし性能は依然として、グローリア・フォン・ベルグリーズを軽々と上回っている。


 飛行可能。

 持続時間は72時間程度。



〈武装・装備〉


●アズリフェル・シュヴェルト×2


 全長3mの剣のつか

 使用時には魔力を結晶化した刀身(全長12.0m)とY字状の護拳(下の棒が刀身と並行な状態である)を形成する。


 この“魔力の結晶体”には、二つの特徴がある。

 一つ、Adimesアディメス結晶とは別物である事。

 一つ、Adimesアディメス結晶を上回る硬度(最も硬い状態となったAdimesアディメス結晶すら上回る)および剛性、そして靭性を有する事。


 普段は一振りのみ用いる。


●アズリフェル・シルト×2


 対角線が2.5mのひし形の盾。

 使用時には魔力を結晶化し、防御範囲を延長する。


 普段は前腕部に副腕で固定されているが、使用時には取り外して用いる。


 全長10m、全幅5mのたこ型になる。


 結晶体の高硬度により、盾による打突はもちろん、斬撃、刺突にも転用可能。


●アズリフェル・フリューゲ×5


 機体背部に1基、腰部に2基、後ろふくらはぎに2基取り付けられた筒状の物体。

 増幅した魔力を噴射することにより、飛行可能である。

 最高速度は3,000km/時。


●シャッテン・マンテル×1


 アズリフェル・ヴィオレティア専用の装備。

 マント状の外見である点を除き、詳細は現状不明。

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