第2話 突然の再会



「起立!礼!」


皆が頭を下げたとき、ちょうど4時限目の終わりを知らせるチャイムが響いた。

数学の先生が教室から出るや否やそれぞれが購買やら他クラスやらへとゾロゾロと動き出す。

他のクラスも同様にして、グループを作って机を寄せ合い弁当を開け始めた。


俺は昨晩あのゲームをしていた時間を後悔した。

ここ最近の学校生活は主に睡魔との戦いと言っても過言ではない。

特に今日は午前中に体育もあったので、俺はなんとか目を瞑るまいと必死になっていたのだった。

それにしても、このチャイムを聞くとイヤに目が醒めるのは一体どういう現象なのか。

先程までの眠気が嘘のように消え、今度は食欲が俺を襲う。

どこからともなくいつものメンツが俺の机の周囲に集結し、スマホをいじり始める。


「お、新イベ来てる」


「は?昨日からやぞ。徹夜で走ったわ」


「超絶いこーぜ」


オタク四人組(俺も含め)はいつもと変わらぬ昼食を食べ始めた。


「ケイ、またカレーパンか?」


もしゃもしゃの清潔感のない天パ。

度が高すぎる眼鏡をかけているのはクリショーこと栗山翔(くりやましょう)。


「水曜はカレーパンって決めてる」


本当は毎日だって食べたいくらいだけど。


「そんなに食べてよく飽きねぇな」


「まぁ」


飽きないために週一って決めたんだろうが。

というツッコミは心にしまった。


「パグだって、またチャーハンだぞ」


目の前のサラサラマッシュの男子は田中広樹。

あだ名は顔がそのままパグのようなのでついたらしい。


「ぼっ、僕のは冷凍じゃないから、母さんが作ってくれるんだ。飽きるわけないじゃないか」


どもりながらもぞもぞと喋るパグ。


「そ、そういえば啓斗君、あのゲーム…ど、どうだった?やった?」


あのゲーム、とはそう。昨晩プレイしたことを後悔したばかりのあの「思い出のひとかけら」の事だ。

元々はパグに勧められて始めたのがきっかけだった。


「んーん、確かにキャラデザと心理描写でつかみは良かったけど、やってるうちにその心理描写がくどくなってきたな。小説読んでるみたいで。あとやっぱりストーリーが王道すぎるな。失敗はしないけど、大成功もないっていうか、面白かったけどルート全開放してからまた遊びたいとは思えんな」


パグが丸い目を更に丸くして頷く。


「や!やっぱり!ね!僕もね、そう思ってた!」


嬉しそうにパグが笑う。


「やはり啓斗は恋愛ゲームマスターですなぁ!」


声だけでなく図体もデカいこのコテコテのオタクは、シンイチこと勅使河原新一(てしがわらしんいち)

苗字で呼ばれているのを見たことはない。


「マスターっていうか…ただ好きでやってるだけだけど」


「いやいや!そこまでの評論ができるなら大したものだよ!」


パグの舌の調子が良くなってきたところで、カレーパンを食べ終えた俺は、続いてデザートにと持ってきたさくらんぼを取り出した。


「5時間目なんだっけ?」


「英語じゃね」


それぞれの昼食を終えると、授業の準備のためソロソロとみな解散していく。

教科書を取り出していると、プリントがない事に気づく。

しまった。宿題忘れは痛い。

下手すれば居残りもあり得るな、と憂いながら俺は顔を伏せた。




放課後、案の定居残りを言い渡された俺は、足取り重く廊下をほつき歩いていた。

自習室に向かう途中、ある一人の生徒と目が合った。


「…あ」


「ケイ…!久しぶりだね」


見慣れた顔だった。

七海桜子。と心で呟く。


「あぁ、久しぶり」


面と向かって言葉を交わしたのはいつ以来だろう。最後に同じクラスになったのは中学1年の時だったはずだ。


「……?」


なにか妙だ。そのまま通り過ぎればいいのに、なぜか目の前で立ち止まったきり動こうとしない。目線も下に向いたままだ。

不思議に思っていると、視線に気づいたのか慌てて笑顔を見せた。


「えっ?あ、いや…大丈夫」


聞いてもいないのに、わざわざ大丈夫、と。

顔を見ても、なにか思いつめているのがわかった。

幼馴染とは、久々の会話でも違和感に気づくものなのかとも不思議だった。


「なにか、悩みでもあるの?」


「えっ…?」


一瞬呆気にとられたような顔をした桜子。

しかしすぐに笑いが戻る。


「やっぱ、ケイにはわかるんだ?」


その笑いは苦笑いに見えた。







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