第2話

 行きよりも少し時間をかけて家まで帰り着いた僕は、いつも開け放してある倉庫に入り、お姫様抱っこで抱えていた人形を入り口付近に雑に置いていた椅子に座らせる。いくら華奢な体つきと言っても、その体は機械でできているのである。明日は腕が筋肉痛になりそうだ。

 眠るために散歩に行ったはずなのに、あんな人形を見つけてしまい、ほんの少しだけ残っていた眠気など気づいたら消え去ってしまっていた。

 明日は平日だ。僕は学生なので当然授業を受けなければならない。

 しかし僕は先にこの人形を修理したい。しかし修理を優先してしまうと学校には間に合わないかもしれない。なぜならこの人形、エネルギーにはオイルを使っているし、メモリーカードの挿入口もほぼ完全に壊れてしまっているからだ。

 そんなわけで人形を修理していると学校には間に合わない。


 僕は考えた結果、学校に行くために睡眠を取ることに決めた。

 僕はなんとなく倉庫の扉を占め鍵を掛ける。理由なんて無い。なんとなくなんだから。

 家に入った僕はそのままベッドへ直行して頭からダイブ。

 ぼふっという音とともにベッドが揺れる。そのまま布団に潜り込んだ。

 そのときにちらっと一瞬だけ時計を確認した。時刻は3時半だった。目覚まし時計をセットし忘れたかもしれないけどまあいいか。その時はその時だ。疲れていたのかその後の記憶は無い。とにかく僕は眠ることができた。





 ――ジリリリリリッッ!!!


 目覚まし時計の音が僕の鼓膜を叩き、夢の中にいた僕を現実へと引き戻す。

 さて、今日も一日が始まる。


 正直に言うと学校は嫌いだ。勉強しろ勉強しろと毎日しつこく言ってくる親や教師が嫌いだ。僕は十分に勉強している。

 科学が発達したこの世界は実力――頭の良さが物を言う。

 僕の学年にはだいたい300人の生徒が居るらしい。興味がないからはっきりした数字はわからないのだけれど。その中で僕は7番目。つまり僕の頭は『良い』のだ。なのに上を目指せという親や教師たちの考えが全く理解できない。


 そんなことを考えながら僕は学校へ行く準備を整える。

 僕の通う学校は近くの駅から電車にのって10分ほど揺られていると到着する。駅名や自分の通っている学校の名前なんて気にしたことはないので覚えていない。それでよく生きてこられたねと驚かれることはよくあるが、僕はだいたいスルーしている。

 人と話すのは苦手なのだ。


「行ってきます」


 そうつぶやいて家を出る。

 僕は一人暮らしだ。家族は田舎の方で農業をやっている。農家というとあまりお金を持っているイメージは無いと思うけど、みんなが思っているよりは稼げるのだ。その親のお金で僕はこの学校に通えている。いつか親孝行しないと。


 10分ほど歩くと駅に着いた。

 いつものように改札を抜け、ホームの空いているベンチに腰掛ける。電車が来るまではまだ10分ほどある。

 僕は鞄からノートパソコンを取り出し、ほぼ唯一と行っていい友人のコウキにメールを送る。彼は確か電気が嫌いでロボットや人形を作るときには必ず燃料をガソリンにして作る。彼なら燃料を持っていないかと考えたわけだ。ちなみに昨日拾った人形。あれはコウキが作ったのではないと断言できる。何故ならコウキは、ロボットや人形の燃料タンクを作ることが専門なのだから。

 ――♪

 返事はすぐに返ってきた。

『いいぜ、その人形俺も気になるし手伝うよ。放課後にお前ん家でいいか?』

 僕の家は人に見せることがためらわれるほどにものが散らかってしまっている。しかしカフェやコウキの家に行くくらいならば自分の家のほうがいくらかマシだ。それに家じゃなくて倉庫を使えばいい。

『わかった、ありがとう』

 とりあえず感謝の心を示しておく。

 僕はノートパソコンをしまってスマホでSNSのアプリを開く。有名な科学者しかフォローしていないアカウント。中学生の頃機械や科学に興味を持って作ったが、何かをつぶやいたことは一度もない。

 指でゆっくりとTLを更新していく。特に理由なんて無い。これも暇つぶしだ。


 そうして数分が経過した時、電車がホームに滑り込むようにして到着した。

 僕はスマホを閉まって電車に乗り込んだ。


 人はほとんど居ない。隣の車両に至っては誰も居ない。が、これはトラップだ。ここでその車両に移ってしまうと、次以降の駅から人が急増するため目的の駅についても降りられないという事態が発生してしまう。ちなみにこれは体験談だ。ちなみに僕が乗っているこの車両はなぜか人が乗ってこない。不思議に思ったことは一度もない。考えるだけ無駄だから。


 ぼーっとしているうちに目的の駅に到着した。なんで覚えてるのかって? 感覚的にわかるから説明できないよ。


 駅から2、3分歩くと学校に到着した。学校が近くて助かるよ。

 靴を履き替え自分の教室へ向かって僕は歩き出す。





 昼休みのことだ。


「ガソリンなんて何に使うんだ?」


 コウキは聞いてくる。『人形を動かすのに必要』という必要最低限の文字じゃ伝わらなかったか。


「メールでも言ったろ、昨日拾った人形を動かしたいんだ」


「ふーん。で、何処で拾ったんだ?」


「路地裏だよ。最初は人間と間違えてしまうくらいに人間らしかった」


 コウキは「わけわかんねぇ」と言いたげな表情である。


「僕だってわけがわからないよ。知りたいことがたくさんあるし――」




 そうやってコウキと無駄(なのかはわからないが)話していると昼休みは終わっていた。


「次遅れたらヤバイから俺戻るわ」


 と、コウキは僕にそう言って走って教室へと戻っていく。


「僕もそろそろ行こうかな」


 時間に余裕があるわけじゃないが、僕はなんとなくゆっくりと教室に戻った。


 ちなみに授業には間に合った。

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