機巧都市で出会った君は

あいれ

第1話

 黒くて背中まである長い綺麗な髪、透き通るように白い肌、整った顔、華奢な体。しかし、その体の至るところが傷だらけの女の子の、壊れてしまう寸前の人形を拾った。

 人形と言っても、普通一番に思いつくような手のひらサイズのものではなく、僕と同じくらいの大きさがある。

 人形というより、ロボットと言ったほうがしっくりくるかもしれない。

 でも、そのロボットは肌が鉄でできていたり、布でできているわけじゃなかった。

 人間の皮膚だった。

 それなのに何故僕がこれを人形、ロボットと呼んだのか。

 それは、その人形の肩の大きな傷口から、血ではなく、何やら怪しげな液体が流れていたからだ。

 ちなみに、怪しい液体の正体はオイル――まあガソリンだった。

 人間の頭からガソリンが流れることなんてありえない。つまり、ロボットだ。

 僕は機械に詳しいし、この街は機械に詳しい人がたくさん居る。だからこんな人間のようなロボットをみても不思議に思わなかった。

 

 ――わけがないだろう?

 現代の技術では、人形やロボットを動かすには電気を使用する。ガソリンなど古すぎて話にならない。

 さらに皮膚。これは説明しなくてもわかると思うが、現代の技術では人間の皮膚を作り出すことはできない。せいぜい骨を作るので精一杯だ。

 いくら機械に詳しい僕でもわからないことはたくさんあった。

 

 それにしてもなんでこんなところに捨てられているんだろう。

 

 僕は考えてみたが、当然、理由や僕が来る前にあったことなんてわからない。監視カメラにでも写っていればと周りを見るが、あいにくここは路地裏で、監視カメラなんて一つもなかった。

 

 ここに捨てたままにしていてはこの人形は錆びていき、最後にはゴミ収集車にでも回収されてしまうだろう。

 そんなことになってしまってもいいのだろうか。ここでみなかったことにしてしまってもいいのだろうか。

 僕の心の中で、いいや駄目だと良心が叫ぶ。おいおい、面倒事に巻き込まれちゃっってもいいのか? 悪魔が囁く。

 

「夢に出てこられても困るし連れて帰ってやるか」

 

 気づいたらそう声に出して呟いていた。

 偶然にも僕は今手ぶらである。そして現在の時刻は深夜一時ごろ。夜中に目が覚めてしまい、寝れそうになかったので手ぶらで散歩に来たのだ。

 僕は人形の華奢な体を抱きかかえ、お姫様抱っこのようにして持ち上げる。その体は見た目通りの軽さで、本当にロボットなのかと疑ってしまうほどだった。

 

 ――カシャン。

 

 突然、人形から何かが音を立てて地面に落ちた。

 僕は一旦人形をアスファルトの地面に座らせ、ちょっとだけかがんで落ちたものを確かめる。

 それはメモリーカードだった。メモリーカードと言っても、パソコンに使われるような小さなものではなく、ダンボールほどの厚さの、トレーディングカードのような大きさだった。決して重くはないが、とてもだいじなもの。人形には様々な種類があり、監視カメラの役割を持つもの、商売を行うもの、警察として働くもの、さらには学校で先生として人間に授業を教えるものも居る。

 それらは全て人間が裏で操作していて、人形が単独行動しているわけではない。

 そんな人形たちのメモリーカードはゲームで言うセーブと似ていて、その日あったことを情報に変換し、裏で操作している人間に送信。そしてデータの消去が繰り返される。

 そんなメモリーカードが簡単に抜け落ちてしまうことに驚いたが、壊れすぎて挿入口が緩んでしまっただけだろうとなんとなく考えた。

 

 僕はメモリーカードを拾い上げ、落とさないようにポケットにしまう。そして人形を再び抱き上げ、家へともどることにした。

 どうせ人形を抱えて散歩なんて無理だから。それに、この人形のことを知りたかった。

 誰が、いつ、どこで、何のためにつくったのか。何をみて、この人形は生きてきたのか、存在してきたのか知りたかった。なんであそこに捨てられていたのかなんて、考えるだけ無駄だ。

 考えることを放棄して僕は自分の家へと足を進めた。

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