料理人の見えざる手

keishi

プロローグ

 そよ風が吹き抜ける大草原、遥か彼方まで続く青空、そして白い雲と並んで飛んで行くドラゴン……


「僕の帰り道こんなところ通りましたっけ?」



 ……時刻は1時間前に遡る……


「特売で保存食品を買い込めてよかったなぁ」

 

 両親が共働きでいない我が家では、僕が毎日の家事を担当している。家計のためにもなるべく安いところでなるべく買い込むをモットーに買い出しをしている。今日は月に一度の特売日、買って取っておける物は今日買いこんでおく。醤油や米買い込んでしまいなかなかに重くなってしまった……

 重い荷物を持ちゆっくりと帰路についていると、ふと自分が見知らぬ道を歩いていることに気が付いた。都会の喧騒とはかけ離れた静かな住宅街。不思議なほどに人の気配を感じない道に、僕はなんだか懐かしいような、不思議な気持ちになった。


(たまには違う道で帰ってもいいか)


 そんな心地よさに充てられてか、僕はその道を進んでいった……


 

 そして今に至る。


「これが異世界転移というものなのだろうか……少なくともドラゴンなんている世界で生まれ育った記憶はないしなぁ……」


 先ほど大空を飛んでいたドラゴンを見て僕は自分の現状を再確認した。

 周りを少し見渡してみてもどこまでも広がる草原のみで、僕が来たであろう道は影も形もなかった。


「持ち物はほぼ空の財布、食材もろもろ、包丁、学校の道具一式か……今日が学校の帰りで会ったのと、生ものを買っていなかったことに感謝と」

 

 包丁を持っていたのは僕が専門学生だからだ、銃刀法違反ではない断じて。あ、でもここ異世界か、ドラゴンがいる世界でたかが包丁を持ち歩いていても何も言われなそうだ。だがまぁ腹にたまりそうなものは持っていないが、何かを見つければ調理には困らなそうだ。


「まぁ元の世界とやらに未練もないわけだし、取り合えず気持ちがいいし昼寝でもするか……」

 

 あ、家計用の財布から金借りてきてたんだ……計算が合わないって母さん起こるだろうなぁ……

 心地よい風に乗ってさわやかな風の香りを感じながら、僕は眠りへと落ちていった。


 起きても何も変わってませんでした。


「夢落ちって言うことにはならんのですね……」

 

 日の傾き方から1・2時間は寝ていただろうか。


「ここで寝ていても始まらんしとりあえず人の住んでいるところを探すか。当面の目標はどっかの飯屋に住み込みで雇ってもらうことかな」

 

 僕ははるか先まで続く草原を歩み始めた。


 陽がだいぶ傾いてきたころ、ようやく草原の終わりにたどり着いた。

 がしかし、草原の終わりには森が広がっていた……まだ歩かなきゃダメですか?

考えろ、この森に入らず人の使っているであろう道を森に沿って探すか、この森に突っ込むか……

 森に入ったらモンスター的なのがいるかもしれない……でも道がなかったら?今歩いてきた以上の距離歩いてただ森に囲まれた草原でしたとかいう落ちだったら?

 ええいままよ、僕は森へと踏み込んだ。



 舐めてた。森まじきっついてか夜になっちまったし。でもここで止まったら危ないだろうしな。さっきからやばそうな遠吠えがどこかから聞こえてくるし。水も飲んでない……水場探すのが先だった……意識がだんだん……



『あら?お姉さまこんなところに人が倒れていますわ!見たこともない恰好……なにかしらなにかしらこの人?』


『ネイ、また変なものを拾って帰ると叔母上に叱られるわ。あらでも当家の領地で行き倒れられても困るしとりあえず家に連れて行って差し上げましょうか』



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料理人の見えざる手 keishi @k1211

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