ver.5.0.7 O阪府警察本部
今日から六月のカレンダーに突入する。
先週も一件、感染者が確認され、SMSTが駆り出された。
市内の街中で多数の一般人が犠牲となったが、約十分で片が付いた。
俺が部署内の机に脚をのせながら、スマホをいじっていると、壁に設置されているテレビからニュースの音声が流れてくる。
『先週の感染者によって殺害された犠牲者に国際協力機構JICAアフリカ部担当理事、山内トウヤさんが確認されました。山内トウヤさんは、発展途上国への無償資金協力や技術協力に力を入れていました。また、先月のU急百貨店での感染者による犠牲者で新たに、OECD日本政府代表部専門調査員増原ジュンコさんと、国立感染症研究所所長伊東マサハルさんの死亡が確認されました。O阪警察によりますと……』
「人間マルウェアの感染ペース、なんだか早くなってないか」
と、テレビをじっくり見る隊員が口に出す。
「だって、今まで一か月に一回やったやろ。人間マルウェアが出現してから五か月、今日までで六件。先月だけで、既に二件発生してるんやで。やばいやろ」
皆、うんうんと頷く。
俺は頭の中で頷いた。
人間マルウェアは、まだ詳しく解明されていない。
どういうふうに感染するかも不明だ。
かといって、何も予防方法がないわけではない。
ある教授が発表した、とんでもない仮説では、コンピューターウイルスではないかと結論付けている。
インターネットを介してコンピューターに侵入、モニターを見ることで発症している、と。
言わば、人間に効果のあるコンピューターウイルスだ。
あまりに馬鹿げた仮説だが、誰も感染する瞬間を目撃していない。
感染者を治療することは不可能らしく、結果として仮説に従うしかないということだ。
なので、あまりコンピューターに触れるな、というのが予防方法である。
ま、誰も従うはずない。
時代はコンピューターを超えて、人間か。
確かにコンピューターを操って金を要求するよりも、直接人間を操れば、口座に振り込んでくれるだろう。
しかし、この人間マルウェアの製作者は金目当てではなさそうだ。
現に、これだけ騒ぎを起こしているが大金という単語は聞こえてこない。
そりゃそうだ。
ただ単に、街で暴れるだけなんだから。
街で暴れて、誰が得するのか。
そう考えて、サイバーセキュリティ対策課は犯人探しに夢中だ。
黒崎さんや小泉さんは大忙しだろう。
とても食事に誘える雰囲気ではない。
「それから、警視庁から来たらしい公安警察官とすれ違ったんやけど、めちゃくちゃイラついてたで」
「なんでや」
「捜査一課のやつに聞いたんやけど、SMSTのせいで獲物を取り逃がしたとかなんとかで」
「マジか」
「知らんけど」
「はい、でたー。関西人のしらんけど」
誰かがツッコんだ後、小さな笑いの波が発生する。
俺は笑えず、机に置かれた宅配ピザに手を伸ばした。
ピザを頬張った後、コーラを口に流し込む。
公安警察は俺たちを恨んでいようが、こっちはピザを食う。
そして、結城博士からもらった漫画を読む。
北米大陸を乗馬で横断するストーリーだ。
なんと言っても、レースの参加者と協力して、困難を乗り越える場面では教えられることが多い。
結城博士は、この漫画の名台詞で励ましてくる。
例えば、今読んでいるページの言葉はよく聞かされた。
そうか、これが元ネタか。
と、こんな感じで、結城博士が呟く言葉には元ネタがあると知る。
部署の扉が唐突にスライドし、外からスーツを着た警察官が入ってきた。
「特殊マルウェア制圧部隊! 至急、二階大会議室に集合せよ。人間マルウェア緊急対策会議だ」
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