第2話 本気

 ―――キーンコーンカーンコーン



 2限目が終わった。

 さて、3限目の授業は……あーあれか。


「ほむら、次の授業なんだっけ?」


 龍二があほそうな面で聞いてくる。


「体育だよ、体育」


「あ、そうだったな。で、今日は何をするんだ?」


 俺はため息をつきながら答える。


「サッカーだ」


「げっ、まじかよ!」


「はあ」


 同時にため息がでた。


 それとは裏腹に女子たちはキャッキャ騒いでいる。

 

 まーだいたい察しがつくだろ。



 ―――重い足取りでグラウンドに向かった。


 男子はグラウンドでサッカー。

 女子は体育館でバスケだ。

 体育館はグラウンドの真横にあるから、いつも女子たちに見られる。

 ま、女子が見てるやつはたった一人だけどな。


 体育は2クラス合同で行う。

 グラウンドに入ると、運動神経高い系のやつらがサッカーで遊んでいる。

 当然あいつもいる。


「さ、俺らは並んどこーぜ、ほむら」


「ああ」



―――「今日はクラスでチームを組んで、試合をしてもらう。5分間それぞれのチームでフォーメーショを決めてから、すぐに試合を始める。幸運にもそれぞれのチームにはサッカー部がいるからな。仕切ってやってくれ。じゃ、かいさーん」


 チームで集まると早速、誰かさんがふてぶてしい態度で口を開いた。


「俺と健司けんじ巧人たくとで攻めるから、後は適当に守ってて」


 おいおい、サッカー部のエースとあろうものが、なんじゃその作戦は?

 言いたい気持ちグッとこらえた。

 俺もどうせろくな作戦しか立てられないからな。


「おい、蓮、ゴールキーパーはどうするよ」


 健司が蓮に聞いた。


「あー……そうだな~」


 下を向いて、口に手を当て、にやけ顔を隠している。

 なんか嫌な感じがするな。

 そんなことを考えていると、蓮が満を持して口を開いた。


 「ゴールキーパーは……ほむらだ」


 予感的中だな。


「は? 何でほむらなんだよ」

「そうだよ! ほむらには悪いがゴールを守るには小っちゃすぎるよ」


 ごもっともな意見だし、俺もそう思う。


「だからいいんだよ! 抜けられたら、絶対ゴールを決められる。この緊張感がいいんだよ! そしたら皆必死にボール追いかけるだろ。それにここにはエースがいるんだ。そう簡単にゴールには行かないねーよ」


 屁理屈ばかり言いやがって。

 けっこうカチンときたな。

 

「ああ、俺がゴールキーパーで良いよ」


「決まりだな」



 ―――5分が経って、おのおの自分の位置につく。


 一応ゴールキーパーには手袋が渡される。

 気持ち悪い感触だ。

 手袋をはめてると、龍二が寄ってきた。

 龍二は背は高いほうだが、少々太っているから、だいぶ後ろのほうを守らされている。


「しかし、本当に蓮には腹が立つな! おい焔、絶対にあいつの思い通りにさせるなよ!」


「了解」



 ―――「あれ? 綾香、ゴールキーパーほむら君じゃない?」


「あ、ほんとだ。焔だ」


「えー。ほむら君絶対守れる気しないんだけど。体育とかで、良いところ見たことないし。あと、小さいし」


 綾香はまっすぐ焔を見つめながら呟いた。


「うーん、案外適任だと思うんだけどなー」


「えっ? 綾香何か言った?」


「ん? 何でもないよ」



―――「よし、じゃーそろそろ始めるからなー」

 

 そう言って、先生は首から下げたホイッスルを鳴らした。


 蓮を筆頭にどんどんと敵陣に攻めていく。

 さすがはエースなだけはあるな。

 ほぼ一人でゴール前まで行ってしまった。

 だが、こうなることもあちらのサッカー部さんはわかっていたのだろう。

 がっちりとゴール前を固めている。

 これではいくらエースでも、一旦パスするしか方法はない。

 

 しかし、あちらのサッカー部さんはよくわかっているな。

 健司と巧人にはしっかりマークがしてある。

 まー、ほとんど中学から一緒のやつらだ。

 だいたい誰が上手くて、誰が下手かなんてわかりきっているだろう。


「ちっ、くそったれ!」


 そう言いながら、敵に囲まれながらシュートを打つ。

 当然入るわけない。

 シュートは大きく外れた。


 「ピピーッ」


 ホイッスルと同時に女子たちの残念そうな声が聞こえてきた。

 ちゃんと授業しろよ。


 「くそ!」


 いやー、怒ってるねー。

 見ていて、にやけちまいそうだ。

 ま、こっちを見て、腹抱えて笑ってるやつが一名いるがな。


「いーひっひっひっひ、あー腹痛て」


「おい! お前ら! 攻めてるときは上がって来いよ! どうせ守ったって意味ねーんだからよ!」


 おいおい、さっきと言ってたこと矛盾してんじゃねーか。


「ピーッ」


 ホイッスルが鳴り、ゴールキーパーが遠くにボールを蹴る。

 サッカー部くんがボールを受け取り、どんどん攻めてくる。

 しかし、これには蓮が追いつき、ボールを奪う。

 後はさっきと同じ要領だ。


 だが、さっきと違うことはこちらの守備が全員敵陣に乗り込んでいるということだ。

 ただ一人を除いて。


「おい龍二、行かなくていいのかよ」


「いいの、いいの。どうせ俺が行ったって、どんくさいって言われるだけだからな」


 相変わらず、こいつはとことん俺の味方だな。

 本当に良い友達を持ったよ。


 あっちはもう……ほとんど乱打戦だな。

 ボールを取られ、取り返し、シュートを打っては外れと。

 ほとんどあっちの陣地でボールの取り合いをしている。



―――「さすがはエース様だな。俺たちのところにまったくボールがこねーな」


「ま、俺にとっちゃ願ったり叶ったりだけどな」


「いーんや、お前は本来すごいやつなんだよ……本気をだせばな」


「何年前の話をしてんだよ」


「小学生のときだよ」


「あの時は皆同じぐらいの身長だっただろ……でも、今はちがう」


「焔、お前いつから本気出さなくなった?」


「何の話だよ」


「いいから答えろよ」


「……中学の11月頃からだ」


「何で本気出すの止めたんだよ」


「そんなもんだいたい察しがつくだろ」


「お前はでかいやつと対等に戦おうとするからだめなんだよ。お前は小さいんだよ。それを認めろ。小さいやつには、小さいやつなりの戦い方があるだろ。お前にはそれができる武器があるだろ」


「今はその『武器』が健在かわかんないけどな」


「まだまだ健在だよ」


「そりゃどーも」


「だから今日ぐらいは本気出してもいいんじゃねーか」


「ああ、今日はだいぶ腹が立ったからな。あいつの驚いた顔を拝ませて貰おうか」


「そいつはいいや」


 こんな話をしていると、例のサッカー部くんがボールを奪い、こちらに向かってきた。

 スキを突かれたみたいで、誰も追いつけない。



 まだまだ『武器』は健在……か。



 本気……出してみるか。


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