在学編
第1話 女子高生切り裂き事件
ピピピピピ……
枕もとでアラームが狭い部屋の中を鳴り響く。
俺はいつものように手を伸ばしてアラームを止め、時間を確認する。
午前6時ちょうどだ。
いつものように少し高いベッドから起き上がり、階段を降りた。
「おはよう」
台所からお母さんの声が聞こえた。
「おはよう」
呟くように返した。
「相変わらずあんた朝は元気ないわねー」
「朝っぱらから元気ある奴なんていないだろ」
「お母さんなんて朝から晩までずーっと元気よ!」
「はいはい」
我が母親ながらよく朝っぱらからこんなに元気があるなーと思う。
正直朝でこのテンションは少しうざい。
そんなことを思いながらいつものように洗面台に向かい、顔を洗い、歯を磨く。
これが終わると、けっこう目が覚めてくる。
リビングでカーペットに座り、テレビを付ける。
そして朝のニュース番組を見る。
これがほとんど数年間変わらない俺の朝の日課だ。
そしていつものようにニュースを見ていると、あるニュースが俺の気分を悪くさせる。
「またこの事件かよ……」
ここ最近はこの事件で持ち切りだな。
SNSでも話題になっている。
「女子高生切り裂き事件」
世間ではこの呼び名で定着している。
名前の通り女子高生だけをターゲットにして、刃物でズタズタに切り裂くという事件だ。
この事件の一番むごいのは……決して殺さないということだ。
襲われた女子高生は、顔や体に一生消えることのない傷を付けられ、醜い姿に変えられる。
……朝から胸糞悪い。
―――この事件は約1か月前、4月頃から始まった。
最初は、深夜に一人でいる女子高生を襲っていたが、日に日に深夜から夜、夜から夕方。
今では、一日中狙われる危険性がある。
そして狙われるのは決まって田舎の地域だけだ。
多分田舎の方が人目につかないし、警備も緩いからだろう。
俺が住んでいる地域もだいぶ田舎だが、まだこの事件は起こっていない。
この犯人は何を目的にこんな事件を起こしているんだ。
……理解できない。
犯人の呼び名は通称「レッドアイ」。
血のような赤い目をして、黒い装いに身を包み、顔を仮面で隠している。
そしてレッドアイはものすごく強いらしい。
襲われた子の彼氏がボクシングでかなり良いところまでいった人を病院送りにしたり、
警官5人が一斉に襲い掛かっても、逆に返り討ちになったらしい。
本当にレッドアイは何者なんだろう?
「はい、ちゃっちゃと食べちゃいなさい」
声のする方を見てみると、お母さんが朝食を持ってきてくれた。
今日はご飯とウインナーと卵焼きとみそ汁だ。
「頂きまーす」
別に急がなくても学校には間に合うから、ゆっくりニュースを見ながら食べる。
朝食を食べ終わって、テレビを見ていると、あるニュースが俺の目を留めた。
「スーパー女子高生ね~」
俺とはかけ離れた人種だ。
俺と同い年にして空手の世界チャンピオン。
運動神経抜群で、何でもすぐにマスターしてしまう。
その上、可愛い容姿と人当たりのいい性格で、テレビに引っ張りだこだ。
日本で知らないやつはまずいないだろう。
女子には憧れ、男子にはアイドル的存在だ。
俺はテレビに映っていたら見るが、それ以外は特に見ることはない。
「そろそろ準備するか」
自分の部屋に戻り、制服に着替え、今日の授業の教科書をリュックにつめる。
今日は体育があるから、少々憂鬱だ。
下に戻り、弁当をリュックに入れ、玄関に向かう。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
運動靴をはき、玄関の戸を閉める。
「今日は暑いな」
そんなことを思いながら、自転車にまたがり、片道10分の道のりを今日も目指す。
いつもの道。
いつも歩いているおじさん。
いつも吠えてくる犬。
いつもだべっている中学生。
いつも挨拶してくるおばちゃん。
変わらない日常。
変わらない風景。
いつもは気にしていないが、ふと、こんな変わらない日常がいつまでも続けばいいと思うことがある。
退屈だが、変わってほしくない。
―――とりあえず、ここらで自己紹介でもしておこうか。
俺の名前は
父と母の3人家族だ。
お父さんは単身赴任で今は家にいない。
半年は会えていないな。
仕事は……何をやってるかわからない。
お母さんは専業主婦だ。
俺は田舎の高校に通う普通の高校二年生だ。
だが、少し普通じゃないことがある。
普通の男子高校生と比べると、だいぶ身長が小さいということだ。
155cm
高校の女子たちの半分ぐらいは俺より身長が高い。
ほとんどのやつらは中学からの知り合いだから、いじめたり、変な目で見てくるやつはいない。
だが……やはり男として引け目を感じてしまう。
身長を補うため、筋トレをしたり、休みの日にランニングをしたりしているが、
これでやっと平均のやつらと同じ力だ。
もともと持っているやつには絶対勝てない。
身長差は……とんでもないハンデだ。
ちょっと将来のことが不安だが、もう受け入れている。
―――と、もうすぐ学校に着くな。
ああ、今日も学校近辺は渋滞している。
なぜかって?
ここは田舎だ。
そして今、田舎には「レッドアイ」が出没する。
そう、この渋滞はレッドアイに襲われないために、車で学校に登校してくる女子高生たちが乗っている。
毎朝毎朝、親も大変だな。
自転車置き場のいつもの場所に自転車を止める。
下駄箱で上履きに履き替え、階段を上がる。
俺のクラスは1組。
一番端っこだ。
廊下では、同級生が騒がしくたべっている。
「よー、ほむら」
「今日も可愛いねー、ほむらちゃん」
「おめーら、朝からうるせーぞ」
こんなやつみたいにいじってくるやつはいるが、だいたいは挨拶代わりみたいなもんだ。
悪い気はしない。
そんなやつらと挨拶を交わしたりしながら教室の前までたどり着いた。
そして今日もガラガラ音をたてる扉を開けてゆく。
「おっす、ほむら」
「ほむらくん、おはよー」
「よー、青蓮寺」
「はい、おはよー」
1クラス約25人。
俺のクラスは23人。
男子10人、女子13人だ。
これが4クラスある。
だから1学年およそ100人程度。
他の学校のことは知らないから、この人数が少ないのか、多いのかはわからない。
俺の席は入り口から入ってきて、3番目、そこから1席下がったところだ。
席に座り、リュックからスマホを取り出し、SNSをチェックする。
「よー、ほむら、今朝のニュースに茜音ちゃん出てたな~」
隣の席からにやけながら話しかけてくるのは
小学生からの幼馴染だ。
「あー、出てたな」
「やっぱり可愛いよな~。強くて、性格もよくて、可愛いなんて言うことなしだよな、おい」
「案外素は冷たい性格かもよ」
「相変わらずお前は夢がないねー」
「俺らとは違う人種だ。変に希望持つよか、こんぐらいの気持ちの方がちょうどいいんだよ」
「へいへい」
こんなくだらない話をしているとき、教室にある男が入ってきた。
「おいおい、お出ましだぜ。ほむら」
「あー」
女子たちがよってたかって一人の男によって行く。
この女子たちの行動でだいたい察しがつくと思うが、一応説明すると、めっちゃイケメン。
まーただのイケメンじゃないんだけどな。
身長180cmという高身長。
更に身体能力がくそ高く、サッカー部のエースだ。
そりゃモテるよな。
「女子」からはめちゃめちゃ人気がある。
だが、大抵の男子からは嫌われている。
俺も大っ嫌いだ。
自己中心的な性格で、何かと上から目線。
自分より弱いやつには攻撃的で、すぐ暴言を吐く。
そのくせかわいい女子にはものすごく優しい。
俺にもよくちょっかいをだしてくる。
親の転勤とかで高校からこっちに来たみたいだけど、ほんといい迷惑だよ。
一応彼女もいる。10人目だがな。
うちのクラスで一番の美女と言われている。
俺もそう思う。
幼馴染で今でもよくしゃべる。
しかし、こんなやつと付き合うなんて意外だったな。
まじめな奴だから付き合うならもっとちゃんとしたやつかと思ったけどな。
女子には本性をみせてないから仕方ないか。
キーンコーンカーンコーン
8時15分
また、いつものようにチャイムが学校中に鳴り響く。
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