謎の攻防戦
「ん…。」
なにか柔らかい光を感じで瞼を持ち上げようと思う。
でも、居心地がよくて、そのままでいたい気がする…。
体も重いし、もう少し寝よう…。うん。今日は何もなかったはずだし、魔法の研究は午後からでも…。…?あれ、何か忘れているような…
「ハル!!っ!」
昨日の事を思い出し、勢いよく体勢を起こす。すると、ぐわんと気持ち悪くなり、部屋が回りだした。体勢を起こしていられず、布団に倒れた。
最悪だ。魔法の反動でまだ動けない。
…昨日食事をしたし、いけると思ったんだけどな。久しぶりに熱も出なかったみたいだし。
「…大丈夫かよ。」
「…シグレ…」
声がした方に顔を動かすと、聞き覚えのある声が聞こえた。なんかすごい顔している。多分、相当私の顔色が悪いのだろう。
「大丈夫。」
「…大丈夫そうに見えねぇけど…」
「…」
「…」
シグレがベットによって来たと思ったら、額に手を当てられた。
「…熱あがったか…。」
「うそ。熱はないわ。大丈夫よ。熱くないもの」
「はぁ。熱が分からないほど、やばいってことなんじゃねーのかよ。」
「…」
「…とりあず、薬か…?」
「…いらない」
「は?」
「薬はいらないわ」
「…」
「…」
「捕虜に死なれたら、めんどくさくなるって言ったよな、俺。」
「知らない」
「…」
シグレがすごいイラッとしたのを感じたが知らない。そんなの、シグレの都合ではないか。
それに…
「薬では治らないの。持病みたいなものだから、気にしないで。それにまだ死なないし。」
「…」
横からすごい圧を感じるが、こればかりはどうしようもない。この熱や不調は魔法を使った反動。体中の魔脈(体内に魔力をめぐらす血管のようなもの)が傷ついて悲鳴を上げていることが原因だ。一度魔脈を傷つければ回復は難しく、体調不良を改善するものは無い。だから、耐えるしかないのだ。
「ごめんなさい…」
どうしてその言葉が漏れたかは分からないけど、ポロっとでた。
しばらくすると、体がさらに重くなり、意識が遠のいた。
==========
「…昼?」
ふと意識がもどり、瞼をあけると日が大分上っていたようだ。
にしても…!体が、久しぶりに軽い!さっきまでは本当に体調悪かったのに!どうやら体力が回復しているようだ!やったね!
手首をみると、制御装置は相変わらずついていない。
抜かったなシグレよ!ハハハ!
…少し心配をかけた気がするので悪い気はするが、あやつは敵!気にしない!
今のうちに感知魔法で…
ゴン!
「痛い!」
「アホか。せっかく起き上がれるくらいに回復したのに、またぶっ倒れるつもりかよ。」
なぜかシグレがベットの前に立っており、手刀を振り下ろされた。…痛い。そして、いつもよりシグレの周りの温度が低い。…やばい。
「だって…!」
「…はぁ。まぁお前は捕虜だしな。逃げられるときには逃げないといけねぇよな」
「うぅ。」
「にしても、敵の目の前でやるか普通。」
「ぐっ。」
いないと思ったんだよ!という言葉は飲み込んだ。
「…」
「…」
「♪~♪~~」
どこからか貝殻を吹いたような音が聞こえた。
「?」
「…動くなよ。」
「は、はい。」
本能が逆らってはいけないと叫んでいたため、思わず「はい」と答えてしまった。
普通にしゃべれるときの方が多いが、今のような雰囲気に急に変わるとやはり敵だと再認識する。
「え?あーはい。分かりました。伺います。」
仲間からだろうか、シグレは部屋の外に出るのか…。これはチャンスでは…?
ガチャッと通信機を置くと、案の定こちらに視線をよこした。
「…」
「…」
無言でこちらによって来ると、私の手を取った。
「?」
ガチャン。
「…」
「…」
視線を落とすと制御装置が付けられていた…。
「イーコで待ってろな。」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、背を向けるとひらひらと手を振ってきた。
「ちょ!」
うそでしょ!今この制御装置を破壊するほどの魔力はない!どうにか、
「ちょっとまって、連れてって!」
「無理に、」
「一人にしないで!」
「は…?」
我ながら何を口走っているのか分からない。
とっさに出た言葉だった。
だが、シグレは目を大きく開いて、口はポカーンとあいている。
う、うん。なんか、興味はひけたみたいだ。
私も自身が何を言いたいのかとか分からないけど、ここは押すしかない!
「連れてって!」
「いや、だから…」
「一人にしないで!」
「無理だから」
「いや!」
何て言ったらいいんだ!雪兄さまとかハルだったら、相手がコロって落ちちゃうような甘い言葉をいえるんだろうけど、そんな経験ないし、分からない。やばいぞ!こんなことなら、社交界の授業もっとちゃんと受けとくんだった!
あ~もう!どうしよう!ここの部屋に一人でいると確実に逃げられない。
でも部屋を出たら脱走のチャンスやコレ(制御装置)を壊すきっかけがあるかもしれないのに!でも、なんだかすごく恥ずかしい言葉言ってる気がするんだけど?!!気まずい!(この間1.5秒)
「………………………………」
「………………………………」
気まずい!(2回目)
何、この謎の攻防戦?!
シグレもポカーンとして無言だ。
そうだよね。気持ち分かるよ!
私もいい言葉が浮かばない。とりあえず、いい言葉が浮かばないので視線で訴えることにする。(混乱)
「………………………………」
「………………………………」
たぶん3分くらいたった頃だろうか…。
「………………………………」
「………………………………分かった。」
シグレが折れた。
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