牢獄の出会い
ぼんやりとした意識が浮上する。
「ここは…?」
頭がぼんやりとする。ここは、どこなのだろうか?
そうだ、あの時、ハルの叫び声が聞こえて…。
…っ!やられた。
感知魔法を解除するタイミングを狙われたように現れて意識を持ってかれた。
ハルと一難超えて、民の非難が済んだことで、気が緩んでしまった。緩めるべきではなかったのに!不甲斐なさすぎる!
それよりも、自分の馬鹿さに反吐が出るが、今はそれどころではない。
ハルは、ハルは無事だろうか?!
「…ハ、ル」
でた声は、どうにか絞り出したようなか細い声に、自分でも一瞬たじろく。
急いで体を起こそうとするも、鉛のように重く、自分の体とは思えないほど、言うことをきかない。
クソ。魔法の反動がきてる…!こんな時に!
今こそ魔法を使う時だっていうのに。
くやしさから滲んでいる視界を目を凝らし、今の位置から部屋を見渡すもハルの姿しらきモノは見当たらない。
…いったい何のために魔法をこれまで勉強して習得してきたのだろうか。大切な妹と国民を守るために必死で習得してきたはずなのに…!何も守れていない。
…今も昔も結局なにも変われていない。
滲む世界でぼんやりと見えるのは、細工が凝った大きな窓。外は雪が降っているようで、どこか分からない森を映していた。壁は深い緑色で繊細な金色の細工が施されている。視界の端には暖炉と椅子があり、暖炉に火が灯っている。
…?部屋?
でも私あの時、敵に捕まったのよね?
なら、捕虜として牢獄とかに入れられてるはずよね?
なんで普通の部屋にいるの…?しかも結構綺麗な部屋。普通の民とかではなく、ある程度権力を持った人の部屋だわ…。どういうこと?
しかも何だろう、変に落ち着いてしまう感じが、怖い。
嫌な感じがしないのだ。
私、変な薬でも飲まされたのだろうか…。
それとも魔力の枯渇と合わせて、危機感みたいなのが死んでいってる?
…あり得る。
魔法に耐えられず、私の寿命はもうあと一握りほどだけど、それに伴って、魔法を使うたびに、熱が出たり、味がしなくなったりしているのだ。
怖いとか、危ないとか、そういう気持ちが枯れていってしまっているのかも。…納得。
でも…とりあず、私がここにいるということは、きっとハルも私と同じように捕虜としてここに連れてこられているはずだ。牢屋ではないが、手は後ろで固定され身動きが取れない。まぁ、固定されてなくても、魔法の反動で指一本動かせないのだけど。
…どうしようか。
魔法が使えたら遠隔透視魔法や感知魔法でハルの魔力を追いたいが、この状況では無理だ。それに、手を固定しているモノから、一種の魔法を感じる。
…はぁ。ご丁寧に魔力制御装置になっているようだ。
これでは、魔力が回復しても、自力で魔法は使えない。
私はユキ兄様やハルのように体術や武術のセンスは皆無。体力も2人に比べると月とスッポンだ。戦術や策を練るのも得意ではない。今まで立ちはだかる問題に対しては、膨大な魔法知識と圧倒的な威力を誇る魔法でどうにかしてきた。それでもどうにかならない時は、精霊たちから教わったさらに強力な魔法や、彼らの知恵・力をかりて乗り切った。どの方法をとっても、魔法を基準にすべてをこなしてきた。しかし、今はその魔力を封じられてしまった。しかも、体は言うことを聞かない。
それに、このままいつも通りだと、夜には熱が出る。
そうなるともっと動けなくなるから、その前にどうにかしないと…!
…せめてハルだけでも…!
「…ヨォ。やっと気がついたか。」
擦れた低い声が、部屋に響いた。
「!あ、なたは…?」
死角からの声に背筋が冷える。
「…シグレ。お前は?あいつがとりあえず、捕まえったってお前をここに連れてきたんだけど?」
「…」
黒い短髪で細くて切れ長の琥珀色の目。細身で長身。いかにもガラが悪いですという雰囲気をしている。一瞬懐かしい面影が重なったが、もうこの世にいないのだと思いすぐさま思考を切り替えた。
…というか、名乗れるわけないでしょ。
「とりあえず」ってことは、私がこの国の王女だと気が付いていない?
まぁ、私はさんざん城内に籠っていたし、国民に顔を出す仕事は殆ど兄様かハルでやっていたけど。
まぁ、あの結界を壊すくらい乱暴なやり方だ。スパイを潜ませていたというよりも、一気に仕掛けてきた感じだ。それに、私の顔を知らないってことは、この人は国外の人で、この敵集団は私の国の知識は疎く、国外もので構成されている確率が高い。内部に潜んでいたら流石に、王女の情報は入っているだろうし…。私はユキ兄さまみたいに頭がよくないし、策を練るのは苦手だから細かいことは良くわからないけど、私だったらもっと上手くやるわ!たぶん。
…私の顔も知らないなら…ここは逆に、王女だと知られてしまうとまずい。
…相手の手札が増えてしまのは避けなければ。
「…」
「あぁ?こっちは名乗ったのに、お前は教えてくれないんだ?アステリア王国の人ってのは、冷てぇんだな?」
「っ!失礼ね!アステリア王国の人は皆、温かく良い人ばかりよ! 私はアリス。アリス・シエーラ!どう満足?!」
確かに、王女とはばれないようにとは思ったけど、この国の人達を悪く言う必要はないんじゃないの?素直にムッとした。
ムッとしすぎて、出ないと思っていた声も結構大きく腹から出た。
さすがに、いつもなら王女様だからこんな言い方はしないけど、今は王女ってばれてないし!むしろ王女様らしさは、無い方が良い。そう思うと少し言い方がきつくなってしまった。
「…お前が、すぐに答えないからだろ。大体、俺は初めてアステリア人に会ったんだぜ。第一印象がお前イコール、アステリア人なんだよ!国を俺に悪く思われたくなかったら、自分の身ふりを考えろよな。じゃじゃ馬娘。」
「…!じゃじゃ馬とは何?私はじゃじゃ馬ではないわ!失礼ね!」
なんなんだ、こいつは。本当に気持ちを逆なでするようなことを!しかも何か正論ぽいから、悔しい…。それに私だって、普段は淑やかだし、穏やかなのよ!こんなことになった以上、しょうがないではないか!
「ねぇ、シグレサン。ここはどこ?私帰りたいのだけど。」
「あ?お前馬鹿なの?俺たちはアステリア王国を乗っ取るために、動いているんだぜ。その為に、捕まえたお前を易々と逃がすわけないだろ。」
「ぐっ。まぁ、そうなるわよね。」
「ま、悪いようにはしないから、大人しくしとくんだな。」
シグレは窓に座りながら、視線を外に投げた。
私のことはなんか、どうでもよさそうだ…。運がいいのか、悪いのか。どうにかここからでなくては…。
「逃げようとしても無駄だぜ」
「ぐっ」
「お前ひとりくらい何とでもなるんだぜ。」
シグレの声が低くなり、雰囲気が変わった。思わず少しビクッとした。
「…」
「まぁ、捕まえたとは言え、死なれたら面倒だからな。それ食っとけ。」
声色や雰囲気が先ほどのテンポに戻ったのに、少しだけ安堵したが、シグレの言った意味がよく分からない。
「は?」
声にも出てしまった。
「ん。」
シグレに視線で暖炉と並んだ机の上を視線で誘導された。机の上には平らな皿が置いてあった。
「捕虜とはいえ、大事な駒だからな。そう簡単に死なれたら困る。お前の国でも捕虜にも飯くらい出るだろ。」
「え、あ、そーね。」
確かに、まぁ。うん。うちの国でも牢獄ではごはん出しているし…。戦に備えてそういう食糧の確保もある程度は考えるけど、自分がされるとは思ってなかったら、何となく思考が結びつかない。
それに、食べろと言われても…動けないんだよね。そもそも捕虜に食事の理論は分かったけど毒が入っている可能性だって…。
「…」
「?あーそれか…」
しばらく固まっていると、何かを呟きシグレはこちらに近寄ってきた。
「な、何よ。えっ。わ!ぐえっ。」
無言で、ひっくり返された。
「うわー可愛くねぇ声。」
カチャと音がしたと思ったら、急に浮遊感。
「はっ、えっ?」
聞き捨てならない言葉が聞こえたと思ったが、魔力制御装置が外され、壁に背を預けるよな形で座らされた。
「ん。」
「…」
そして前には、ベットでも食べられるような机がいつの間にかセットされており、上にはリゾットと果物が置かれていた…。
せ、制御装置外れた!やった!私から制御装置外すとか、コイツアホだなと思ってしまった。自分のアホさを悔いれよシグレ!
ガシャン。
「っ!」
思わずグッと拳をにぎると、肘をテーブルにぶつけてしまった。不覚。
「…」
すごい、ジト目で見られている気がする…。だがしかし気にしないぞ。
私には魔法があるのだから!
「…お前。頭残念だな…。」
「それはシグレ君にはいわれたくなくってよ!」
フン、言ってやった。
「これがあろうと無かろうと、お前魔法なんて今使えねぇだろ。魔力空っぽのくせに。」
指で制御装置をくるくる回しながらシグレに言われた。
「!分かってて?!」
「アタリマエ。そんな、敵をみすみす逃すなんてヘマするかよ。」
「…」
アホは私だったか…。
「いーから、それさっさと食えよ。手間かけさせんな。」
「ぐっ。」
「…」
しかし、毒があるかもしれない…。
「毒なんて入ってねーよ。」
何、シグレはエスパーなの?!
「顔に書いてあるんだよ。ここお前にとっては敵陣なのに、大丈夫かよ。」
めっちゃ馬鹿にした顔したぞ、コイツ。
「じゃあ、逃がしてくれない?」
「分かりました。なんて言うわけ無いだろ。…ん。」
「あ。」
シグレはリゾットを一口食べたと思ったら、果物のベリーズをつまみ、自身の口に運んだ。
「これで問題がねぇーの分かっただろ。」
「え、うん。ありがと。」
「…。」
どうやら毒は入っていないようだ…。じゃあ食べても大丈夫か…
でも、食べるという動作がとても面倒だと思うほど、体が重い。というか食べる必要があるのだろうか…。
「なーに?お前、疲れすぎて手も動かねーの?食べさせてやろうか?」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、スプーンを口元に近づけてきた。
「は?!自分で食べる!」
スプーンをシグレから奪い取り自力でリゾットを食べる。怠いとか言ってられない。食べない場合、シグレは口に突っ込んできそうだ。それは避けたい。いろんな意味で。
それはそれは、めっちゃ疲れたが、頑張って、リゾットとベリーズを食べきった。こんな時だ。味は全くしなかった。
…と言いたいが、普通にリゾットは美味しかったし、ベリーズは私の大好物の1つだったから、食べてしまった…。むしろ体調最悪な今、これ以外だったら正直食べ切れなかったと思う。運がよかったというか。でも体にエネルギーが補給できたから、食べなかった時よりも魔力の回復は早いはずだ。魔力回復が早ければ早いほど、何かしら手は打てる可能性が増える。今はシグレの手なのかで転がされておこう。そして、できるだけ情報を聞き出す。そして体制が整ったらハルを助ける。ハルは王女様として顔が割れているはず。だから、きっとすぐには殺されない。それに、もしハル以外に捕虜がいたとしても、シグレの口ぶりからすぐに殺すといったこともしないだろう…。しないと信じよう。
…助ける人が多いほど魔法が必要だもの。今は耐えるとき。動く時を見誤ってはいけない…。
ガタン。
「?…寝たのか?」
そこには急に電池切れを起こしてしまった小さい子のように、テーブルに伏せているアリスがいた。
「…まぁ、かなり魔力を消費した見てぇだからな。」
ベット用のテーブルを外し、寝かせる。
額に手を当てると、
「…ん。」
と少し、反応したが起きる様子はない。額は熱を持っていた。
「…どーすっかな。」
相変わらず窓の外は雪が降っていた。
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