襲撃 下

「っ!」

魔法を発動させ王都の上空に移動した。


空は重く雨が降っていてるのだが、所々では煙が上がっている。

「カーンカーン」という警告音が、けたたましく鳴っている。


先ほどまで活気があった市場の屋根は壊れ、果物や商品がごった返し、

街に住む人達の姿は見えないが、至る所で、兵が明らかに敵と思わしきモノ戦っている。


「くっ。」

私はまた守れなかったの…?

結界を張っていたつもりだった。こんなにも容易く堕ちる国や設備ではなかったはず。そうしたのに。…いやでしかなかった?


先ほどはどうにかすると意気込んできたが、都市の様子を見ると、そんなの消えてしまう。ただただ、自分の無力さで力が抜けそうだ。


「…そ、ら。」

思わずこぼれた弱弱しい声と、その単語に思わず自分が嫌になる。

こんな時にも頼ってしまうのか…。

「そんなんじゃいけない。」

思わず唇を噛みしめた。


『スーッと息を吸え。んで、吐け。…そーそ。ん、大丈夫だ』


空を見上げる。

…息を大きく吸って吐き出す。

「すー。ふうー。」


一気に街に下降する。

まだ、まだ。助けられる人がいるはず。


結界は解除されたけど、緊急用の転送魔法は発動している。街の人が見えないのは、それが上手く機能したとも考えられる。


重力魔法に風魔法を合わせ、街の入り組んだ道を一気にかける。

あれは…

「水鉄砲!」

「っ!姫様!」

魔獣におされていた騎士を助けるために、魔法を放つと魔獣はその威力に散った。

「大丈夫ですか?!」

「は、はい。申し訳ございません。騎士団の一員でありながら、魔獣一匹…」

「いえ、あなたが戦ってくれたおかげで、この一帯の人々は逃げる時間が確保できたのです。恐れず、魔獣に立ち向かってくれた、あなたに感謝申し上げます。」

「ひ、姫様!」

「ですが、まだ状況はよくありません。近くに逃げ遅れた人がいないか確認し、シェルターに。アレは持っていますね?」

「はい。ここに。」

そう言って騎士は、王家の紋章が入った方位磁針を取り出した。この方位磁針は、騎士団全員が個別に所持している、緊急用の持ち運びシェルター転送装置である。スズが非常事態に備えて量産したもので、配布された騎士本人しか使えない特殊仕様である。

「良かった。」

「はい!っえ?あの…」

怪我がひどい…。急ぎ治癒魔法を展開する。

…本当は、急ぎシェルターに飛び、治療を受け、休息をとってほしい。でもいまは難しいから…

「今はこれだけしかできなくて申し訳ございません…。」

「そんな!ありがとうございます。姫様直々に手当てなんて、光栄です。むしろ…!」

「できた。本当は病院で治療をお願いしたいのですが、もう少し力を貸してください。」

「っ!もちろんです。俺は姫様の命に喜んで従います!」

「ありがとうございます。では、頼みました。」

「お任せを!」


騎士にこの一帯を任せ、さらに移動し逃げ遅れた人探す。


それにしても…。

「ユキ兄様はやっぱり見る目があるわ…。」

水魔法で撃退したが、おそらくあの魔獣はAランク以上。

通常は隊を組み綿密に策を練って挑むような相手だ。

それに臆することなく、必死でここ一帯をあの騎士一人で守っていた。

歳はそんなに離れてなかったから、そんなに経験は長くないはずだが、騎士としての心持ちは大したものだ。


自国の騎士や兄が誇らしく思える一方で不安も募る。

どうしてあのような魔獣が溢れているの?術者はどこ…?

さきほどから感知魔法で肝心の敵、術者らしきものを探しているのだが見つからない。…遠隔魔法?でも遠隔だとしたら相当の魔力と術がいるはず…。

黒い不安が広がる。


…私、勝てるよね?


「く、来るな!」

おびえる様な、それでいて勇気を込めた声が、小さいけど確かにどこから聞こえた。

「!」

この声は…?!


小さな少年が折れた棒を獣に向けていた。少年からは、後ろにいる小さな男の子と女の子だけは傷つけさせない。棒を持つ手が震えているのに、そう強い意志を感じだ。


獣は腰を一瞬落とし、一気に少年との距離を詰めるその前に魔法を放つ。

防御壁バリエラ!」

「グルルル、ガーウゥ!?」

獣が防御壁に勢いよく激突した。

「っ!」

「大丈夫?もう心配ないわ。」

「っえ?」

少年の前に立つように降り立ち、頭に手を置いた。

「お姉ちゃんは…?」

後ろから、恐る恐る顔を出した小さな女の子が問いかけた。

「私…?うーん。魔法使いだよ。」

「まほうつかい」

「うん。」

「よく頑張ったね。えらいえらい。」

3人に向け笑顔を向ける。壁の外では、あきらめの悪い獣がキャンキャン吠えて、何度も飛び掛かってきているようだが、これしきでどうにかなる壁ではない。

「っ!」

少年の顔がゆがみ、体が震える。

「…うん。怖かったよね。」

ぎゅっとスズの服を少年が掴んだ。

「ここは危ない。私が安全な所に避難させるわ。みんな手を繋いで。」

3人が手をつなぎ輪になったのを確認し、緊急用のシェルターまで転送魔法で移動した。


==========

移動すると、シェルターはすでに多くに人々で溢れていたが、騎士や王宮の者たちが誘導をしており、パニックなどには陥らず、どうにか平然を保っているようであった。


かなり人がいる。どのくらいいる?感知魔法…。

…この人数だと王都のほとんどの人が、ここに避難している。

…結界は解除されたけど、緊急用の転送魔法は問題なく発動できたみたいね…不安だったけど、よかった。


「け、ケン?ハナ?シン?」

「?ま、ママ…!」

一緒にいた子たちが、声を上げ、お互いに駆け寄った。

「良かった!良かった!無事で、無事で良かった!」

「ママも!ママも無事で良かった!」

「会いたかった」

「怖かった・・・!」

そう言って4人は抱きしめ合った。

「あのお姉ちゃんが助けてくれたんだよ!」

「まほうつかいなんだって!」

「っえ?おねえちゃん…?」

そこには魔法使いの少女はすでにいなかった。


============


シェルターから一瞬で王都にもどる。相変わらず雨は吹雪いているし、事態が深刻なのは変わらない。


でも。

…よかった。あの子たちの家族が無事で。

何を落ち込んでいたんだろう。

何を不安がっていた…?

今私にできることをしなくては、あの騎士のように。


シェルターに国民のほとんどがいたとしても、全員ではない。まだ取り残された人がいるはず。ますその人達の救済が先だ…!


…まだ、まだ。

…今度こそ、今度こそ、大切な人を守るんだ。

その為の私。その為の魔法。その為に、強くなったんでしょ!


空を見上げ、息を吸う。んで、吐く。

「すー。ふうー。」


張りなおした結界を軸にその中全体に感知魔法を構築する。

逃げ遅れた人を一斉に感知し、シェルターまで一気に移送するのだ。それと同時に敵も感知し、戦闘中の騎士を援護するように魔法を重ねて構築する。


…うん、この方面は大丈夫そう…。こっちは、敵だけね。…この人は気を失ってる…。転送魔法を…。

頭の中で感知魔法で得た情報を、国の地図と合わせて確認し、魔法を次々と展開していく。

時間がどれだけ過ぎたかは分からない。

溜まる疲労は気付かないふりをして続ける。

飛びそうな意識は必至でつなぐ。

集中力を切らしてはいけない。魔法の構築展開を止めてはいけない。


…っ。意識が、持ってかれそう。

でも、ここで辞めるわけには。

それに、だんだん落ち着いてきた。こんなに感知して、結界を解除した術者は見当たらないから、遠隔は確定か。しかも、これだけの魔獣を空間魔法で送り込んでくるのだからそれほどの手練れであることも間違いない。でも、本人が乗り込んできていないことを考えると、魔獣は揺動?でもとりあえず、魔獣さえ押さえれば、騎士団は機能しているし、ユキ兄さまと相談して、どうにか策を練れれば。

一時のしのぎとはいえ、体制を立て直せる…!

でもユキ兄さまと意識を繋げる魔法を同時ってのはさすがに、今の私じゃ難しそうだ。どうにか力を変換して…魔力を確保しなきゃ。

…って、あれ。

ッ!まずい。

街の外れ、むしろ先ほど私がいた森に近い所で、複数のまがまがしい、今までと比べ物にならない魔力を纏ったモノを感じた。

さっきまで感じなかったのに?!というかこの感じ…!

それ以上にその、まがまがしい魔力の近くにいる、見知った、親しい魔力にどうしようもない恐怖を感じた。

「どうしてそこに…!!」

考えるよりも先に体が、魔法を発動した。


============


「ハル!!!!」

2人の大男がハルの腕をそれぞれ抑え、身動きが取れないよう押さえつけていた。

「っ、ス、っ?!」

「ハルに触るな!水雷千針!!!」

水と雷の力を圧縮し針を無数につくり、飛ばす。

「「?!」」

男たちがとっさにハルから手を放し、防御の体制をとるが、勢いをころすことができず、後方の森へと吹っ飛ばされた。

「ハル…!」

「っ!伏せて!」

「っへ?…ツ!」


ガキン!


ハルの叫び声に、ハッとし、しゃがむと同時に、頭上から鈍い音がした。

ハルが剣で、鎌を受け止めている。

「っち!」

「逃がすわけないでしょ!」

そういうとハルは、鎌を持った女と瞬時に距離をとったかと思えば、一気に距離を詰め攻める。

「?!」

女はハルのスピードについていけず、鎌だけが宙に舞う。

「観念しろ。お前たちの目的は何だ。」

「っつ!」

いつもの可憐な少女の面影は消え、低い威圧するような声が響く。

喉に剣を付けつけられ、腰の抜けた女は、ハルをにらむ。


ハルは強い。

剣術の腕なら、騎士団の実力者とも対等に渡り合える実力がある。現に、ハルの力は認められ、直属の部隊は国でも指折りの部隊だ。


スズは、森に視線を投げる。

そのハルがさっきの大男たちに押されていた…。つまり、それは。


「ふ。勝ったつもり?」

女が厭らしくニヤリと笑った。

「は?この状態で、ッ!」

森の方から凄まじい速さと、勢いで、風を巻き込みながら、龍のごとく炎が襲ってきた。


…が。


一瞬で空から降ってきた水刃に炎は消えた。そして水刃の衝撃で、一帯に霧が立ち込めた。加えて、地面から草が伸び、大男らは身動きがとれなくなった。


「えっ。」

「は?」

「うそだろ…」

女と森の方から術を展開した大男らの口がぽかーんと空いている。

「さっすがですわ!!」

対してハルはドヤ顔だ。


スズはふーと息をついた。

実力のあるハルがあの大男たちに押されたということは、大男らは、「私と同じ魔法が得意な遠距離タイプなはず。」と思っていたけど当たっていたみたいね。

ハルの実力は折り紙付きだが魔法を使う相手は少し苦手なのだ。


うん、ハルは無事だし、街の方も…うん。大丈夫そう。

ユキ兄様が後で部隊を派遣して最終確認として見回るだろうし、今はひとまず落ち着いたってことでいいかな…。


…それに。どうにか魔力も持った。

感知魔法を解除し、持っている魔力を自分の意識保持に回す。

スズはケロッとした顔をしているが、もう魔力は完全にガス欠状態だ。

…正直、いつ意識が吹っ飛んでもおかしくない状態だが、なんとか気力でつないでいた。


「!おね、あぶない!!!!!」

「っへ?」


ハルの叫び声に振り向くと、ニヤリと笑った男が見えたが、視界がぼやけ、ぷっつりと意識が切れた。

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