襲撃 上

<森の洞窟にて>


「…やっぱりいないよね。」

エルサから魔法や体術を習っていた場所を訪れてみたのだが、やはり何もない。何回も来ているのだが、「戻ってきているのでは…?」と何度も思ってしまうのだ。

「…」

岩の上に座り、ボーとあたりを見渡した。

ここで、と一緒にエルサに色々教えて貰ったんだよね。魔法の基礎から体術、剣術と沢山習った。それはそれは、朝からずっと稽古をして、夕方には二人とも動けず、地面に這い蹲《つくば》っていた。そんな様子をエルサがカラカラ笑って、美味しいご飯を作ってくれたのが1日の大体の流れだった。思い返すとキラキラしていている思い出だ。でも今は2人ともいないから、胸が余計にキュッとする。私は、身体を使うのは空っきしダメだったけど、ソラは日ごとにすごく強くなってたっけ…。


少し感傷的になりながらも洞窟を抜け、森を歩いていた。


ーその時。

「っ?!」

いきなり身体中に、稲妻が走った様な衝撃が襲った。この感じ…!

「結界が破られた…!」

国を覆っていた結界が破られた。

結界が壊れた時、私の魔力とリンクして知らせる仕組みになっているのだが、

つまり、それが示すことは、”何者かが国を襲ってきた”という事だ。速く戻らなきゃ!

「…くっ。」

転送魔法で王都まで戻ろうとしたのだが、変に魔力が分散し、力が抜けてしまう。そんな…魔法を展開できない!しかも結界が壊されたこの感じは、ただ単に魔獣が襲ってきて、結界を壊した形ではない。的確に表すなら、結界が”破壊”されたのではない。されたのだ。その上、結界を構築していた魔法式を書き換えられているようだ。結界が破壊された際には、スズが感知できるよう魔法式を組んであり、スズが魔力を一定供給すると、自動的に周囲の自然エネルギーを変換して、修復するように魔法式を構築していた。修復させる為の魔力は些細な量であり、供給の有無はスズの判断である。…はずだった。しかし今回はスズの意思や判断とは関係なく、魔力が尋常じゃないくらい吸われる。結界を破壊した侵略者がそう上書きしたのだ。つまり、「結界が壊れた際、修復するまで、結界を司る術師の魔力を吸収せよ。」と。しかも随時結界は解除され続けるので、結果的に、結界が修復することはない。したがって、術師であるスズは魔力が枯渇して死んでしまうという流れだ。本当、タチが悪い。そしてこれ程の魔導師がこの国に侵略してきているということ。早く戻らなくては…。

うん。いくら魔法が書き換えられたといえ、ここで、ポックリ行ったら、天才魔法少女の名折れだ。

『最悪の事態ってのは考えとけよ。』

そうぶっきらぼうに、泣きじゃくっていた私の頭を優しく撫でてくれた彼が浮かんだ。…ふふ。これがみたい。

「天才魔法少女を舐めないでほしいわね!」

「結界解除!操作無効化。」

国中に張っていた結界を解除する。そしてそれによって、今まで付与していた効果も全て無効化する。これで、私の魔力の供給は止まる。だが、結界が無いということは、国の危機に直結するのだが、そんな危機には晒さない!これ以上の危機はこの国の王女として許さない。

「再構築する…!結界魔法展開!」

結界が書き換えられるのは正直想定外だったが、今の結界が維持できないというのは想定内だ。…どのみち、再構築ってわけだしね。再構築の為に、連動するよう既に仕掛けてある魔法陣を発動させれば、2.3分程で元のような結界を展開できる。だか、同じように結界魔法を構築しても、また同様に書き換えられるだけだ。


…ここが腕?頭の使いどきってやつ?


先程結界が書き換えられたと言ったが、その魔法式は書き換えられた際に、スズ自身に共有するよう仕組んでいた。…つまり。

「その魔法、さらに書き換えてあげる。」

ニコッと悪い笑みが浮かんだのが自分でも分かる。

書き換えされた起点は闇魔法らしい。スズの結果が光魔法を起点としていたから、魔法学の「王道」で相反する要素で相殺し、結界の再構築に関する魔法式をいじられたようだ。だから、書き換えられた闇魔法を相殺する光魔法をさらにかける。そして、簡単にはいかないように、光魔法の要素を圧縮し、濃度を高めることで華昇と呼ばれる上位変換を行い、浄化魔法に変化させを式に編み込み再構築する。(”華昇”などの詳細は魔法基礎学書を参考にしてね!)浄化魔法には、その名の通り淀んだ負のエネルギーや呪術や闇魔法を解き相殺する。闇魔法を同じように昇華されると浄化魔法が動かなくなるので、それを防ぐ為、さらに空間魔法をかけ、魔法式を別の空間に飛ばす。あと、魔法式を追えないよう色々としかければ、そう簡単には解除されない筈だ。もし解除されても、時間はかかるはず。だから、その前に侵入者を見つけるに限る!


速く、速く王都に戻らなきゃ…!

私の魔法を書き換えた時点で、相手が相当な手練れであることは明らかだ。しかも、さっきから、国民1人1人に対して、危険が及んだ際に発動するよう仕掛けていた防御魔法が異常な程発動している。防御魔法が発動すれば、安全な場所に飛ばす設定なのだが、その安全な場所もいつまで持つか…!建物や道ならいくら壊されても構わない。だが、国民の命は別だ。命だけは、命だけは奪われる訳にはいかない!王族が国民を守るのは、名目でも保護でも、加護でもない!義務だ!必ず必ず守らないといけない。1人だって奪われる訳にはいかないのだ。


『私の魔法を書き換えた奴に勝てるのー?』

そう、ふと変な考えが頭をよぎった。汗がでて、少し手が震える。


…どうしよう、ソラ…。


うんうん。

選択肢はない。行くだけだ…!


眩い光が辺りを一瞬照らした。

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