天才魔法少女は、幼馴染に恋していることに気づかない。

雪鏡

リドルヴァ襲撃編

序章 

「お姉様!ほら、しっかり選んでください!お姉様の旦那様候補ですよ!!」

 そういうと、バンと机を叩いて、1枚の紙を突き付けられた。

「彼とかどうです?お姉様、顔はなかなかなのですから、黙っていれば相手もすぐコロッと行けますって!」

頬を少し上気させ、興奮気味にそう語ったのは、この王国の第二王女ハルだ。

「そうは言ってもね…」

 お姉様と呼ばれた少女は高く積み上げられた資料(旦那様候補プロフィール)に全く興味がないようで、机に伏しながら答えた。

「お姉様!」

「今はそんな気にはならないわ…」

「お姉様!そんなこと言っていたら婚期を逃してしまいますわ!毎日毎日魔導書ばかり読み漁って、魔法の研究ばかり!まぁ、お姉様の魔法のおかげでこの国は安定し、守られているのも分かります。感謝もしております。でも、だからって!お茶会にも参加せず、舞踏会も参加せず、挙句の果てには、お姉様にわざわざ遠方から会いに来てくださった殿方まで、研究の邪魔だとはじき返す始末!このままでは枯れてしまいますわ!!それに、妹の身にもなって下さい!お姉様が結婚しないと私も結婚できないのですよ…!それから…」

と、延々と愚痴を漏らしているが、最後の「お姉様が結婚しないと私も結婚できないのですよ…!」が本音だろう、間違いない。


「ハル姫様、ユキ王子がお呼びですよ。」

使いの者が部屋に彼女、ハルを呼びに来たようだった。

「…え?はい、今行きます。いいですか!お姉様!この資料すべて目を通して下さいね!それでいて、素敵だな、と思った人をピックアップしておいて下さい!そのあとは、このハルにお任せください!絶対、選んでくださいよ!後で見に来ますからね!」

そう勢いよく告げると、ふわっとした笑みを使いの者に向け去っていった。


「嵐だ…・」

我が妹ながら、凄まじい。

そういうお年頃なのだろうか…。


山の様に積まれている資料から適当に1枚摘まみ上げ、頭より少し上の位置に持っていき眺めてみる。


「アレキウス、サント…え、ヴィ?ロス…クワエ、ティーノ様?…ながいな…。読めない。」


結婚とか恋愛とか正直本当に興味がない。いや、少しくらいは憧れはある。でも、そんなことに時間をとっている暇はないのだ。


「はぁぁ。」

深いため息が自然と零れる。


素敵と思える人なんていやしない。みんな私と結婚したいのではない、私の魔法が欲しいだけなのだ。…魔導士としての自惚れとかではなく、事実だ。


私、スズは世が認める天才魔導士だ。自称ではない、皆言っているんだからね!ココ重要!誰かさんは「どうせ自称だろう」って冷たい目をしてたけど違うんだからね!

まぁ彼が言うのは仕方ないとは思うけど…、だがしかし!私は「天才魔導士」。そう貫こうと決めたのだ!!


ここアステリア王国は大きくもないが、海に囲まれ、自然や資源に恵まれたことで独立して繁栄を保っていた。しかし、最近は最先端魔法都市として飛躍的に国民の生活や質、利益が爆発している。


その源が私だ。


元々、魔導士としての才があったことに加え、魔法が好きだった。知れば知るほど新しいことが出来る魔法の魅力にとり憑かれ、日々図書館や研究室にこもり、ある出来事がきっかけで莫大な魔力を操作できるようになった。その魔力を使い、国全体に巨大な結界を張り、スラム街を一新し、建物や食べ物、飲料などを整備、供給している。また、結界を張ることで、世界中に溢れている魔獣の脅威や諸外国からの攻撃を全て防ぎ、国民だれもが恐怖を抱くことなく、餓死する危険性も、凍死する可能性もなく安心して生活できる国を築いた。私の莫大な魔力により、今まで防衛費や整備費などに充てられていた予算は、子供たちの教育や国民の医療費に転換したことにより国民の生活の質も向上した。


…今この国は安定している、私がいるから。


莫大な魔力を私を起点として起動し展開している。しかし、もし私に何か起これば、それがすべて崩れてしまう。そうなってしまうと、沢山の国民が路頭に迷ってしまう。それだけは何とかしないといけない。


私に時間がないのはその為だ。


今の王国の魔法体系を構築した際、リスクは分かっていた。だが、急を要したため、自分以外を魔法の起点する方法しか思いつかなかった。


国の王族として生まれた以上、国民の幸せは願うものではなく義務だ。それは国民の身分や立場など例外は一切ない。すべての国民を幸せにしなければいけない。だか、私が幼い頃の王国は今のようにみんなが幸せとはいかなかった。スラム街は王国が設立した当初からあったし、身分からくる差別も、種別差別もあった。他の問題も山の様にあった。私は、それを一刻も早くどうにかしたかった。だから今の都市体系を思いついた時、自分以外の何かを起点として作用させることが、長期的に考えるとよいことであるとは分かっていたが、いくら考えても、その方法を編み出すことが出来なかった。


それならばと、今私自身を起点として魔法体系を構築し、国を安定させながら、魔法の起点を変換する方法を探そうと試みようと決めたのだ。


私天才だから、正直すぐできると思っていた。

だが、甘かった。10年経った今でも完成には至っていない。城内や地下の図書室や資料室、国内外の文献を探し回ったが上手くいかなかった。しかも、国を支えるほどの魔法をコントロールしながらである為、なかなか進まない上に、身体への負荷が大きい。寿命を削っている自覚はある。だか、どうしようもないではないか。まさに、ハイリスク・ハイリターン。


そういうこともあって、恋愛などしている暇はないのだ。妹のハルやユキ兄様には、この国を維持している魔法が、私自身の寿命を削るとは言っていない。「私が天才だから」ってことで魔法の根本は説明していないのだ。もしそんなことを言うと、すごく心配してくれるだろうし、ハルは泣いて、ユキ兄様は自分を責めてしまうかもしれない。そんな誰の為にもならないことは言ってもしょうがない。


「…。もう私のことはなかったことにして、先にハルが結婚してくれてもいいんだけどな…。むしろ、ユキ兄様のほうが先じゃない…?」


どうせ、結婚とかいう奴は、私の魔法が欲しいだけだ。本当に面倒だ…。ハルはいかにもふわふわで可愛らしいという言葉が似合う女の子だ。それに綺麗。お料理や菓子作りが趣味で、誰にでも優しい。城内にもハルに恋心を寄せる子は大勢いるし、同性からも慕われている。…私とは違う。あと、打ち明けてはもらってないが、きっと彼女には想い人がいるのだろう。見ていて分かる。さっさとくっついて、孫の顔を私の代わりに皆に見せてくれればいいのに。皆も…その方が喜ぶのに。


「はぁ…。魔法も八方塞がりだし…。エルサも見つからない。どうしたもか…。」

エルサとは、私が莫大な魔力を操作できるようになった力と知恵を与えてくれたドラゴンだ。きっかけを与えてくれる彼女ならきっと。糸口を知っているかもしれない、そう思っている。


「その前にこの資料、どーしようか…。」

 きっと適当に捨てたら、ハルがうるさいのは目に見えている。

「…とりあえず、見たことにしよう。」

うん、そうしよう。

パチンと指を鳴らすと、そこら中に散らばっていた資料と山積になっていた資料がふわっと中に浮かんだ。

「ハル、あなたの想いはワカッテルワ。でもこうするしかないの…。」

そして適当に何枚か選び、近くにあったペンを浮かべ、三角形とバツをマークをいくつか付け、ちゃんと目を通したように、整えて机に置き直した。ここで丸を書いていしまうと、余計にめんどくさくなってしまうから、気を付けた。


「よし、これで任務は果たしたことになるよね。終わり、終わり!…森にもう一度行こう。エルサを見つける鍵を見落としているかもしれない。」


近くに投げ捨ててあったコートを掴み、転送魔法を発動させた。

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