ハルとの再会

どうにか?

どうにか、攻防を制し、部屋を出る権利をシグレから勝ち取った。

何となく恥ずかしいことを言った気がするが、深くは考えない。多分考えたらやばい気がするので、そこは一旦置いておくことにする。うん。(混乱)


部屋を出ると長い廊下が続いており、そのデザインは重厚感があり洗練されていおり、どこかの王宮のようだった。

「ちゃんとついて来いよ。変なことすんじゃねーぞ」

「うん。分かってる!」

「ふーん?それならいいんだけど。」

「っぐ。」

シグレは私の目線と高さを合わせ、じーっと見てくる。

正直、背中は冷や汗がやばいが、ここで目を逸らしては負けな気がして、ひたすら見つめ返した。

バチン。

「う!痛い!何?!」

いきなり、額を指ではじかれた。地味に痛い。

「なんか、むかついた」

「理不尽!」

「変な事したら、これじゃ済まねーからな。」

「分かってるよ!!」

涙目になりながら睨んだのに、シグレは顔色一つ変えずに飄々としている。

むかつく。なんか悔しい。いつかギャフンと言わせてやる…!


とりあえず、逃げるタイミングはシグレが仲間と会っている時だろう。でも、それまでに制御装置をどうにかしないと、ただ単にシグレに付いていった形になってしまう。どうしようか…。正当な理由でシグレから離れられないだろうか…。


何か…。


あ。

思いついた。

私、やっぱり天才かも。


シグレの部屋を出てから少し歩いたところで作戦を実行した。


「シグレ。」

「…」

「シグレ。」

「…」

「シグレー!」

明らかに無視しているので、前を歩いているシグレに体当たりした。

「っと。…何だよ」

「シグレ!」

「はぁ。却下だ却下。大人しくついて来い、以上。」

「まだ何も言っていない!乙女のピンチよ!」

「どこにも乙女はいねーよ。目大丈夫か。」

そう言い放つと、心配そうな顔をされた。解せぬ。

「こ・こ・に!いるでしょ?!可憐な乙女が」

「俺、疲れてんのかな…幻聴が…」

「ねぇ!お花摘みたいの!分かるでしょ!」

「…どこの可憐な乙女が、男に花摘み要求するんだよ。無理。我慢しろ」

「いい?スマートなイケメンはね、乙女にそんなこと言う前に気を配るのよ!

部屋から出る前にそれとなーく、伺うの。」

「俺はスマートなイケメンじゃねぇし、そんなの知らねーから無理だな。残念。」

スタスタと前に歩いていくシグレを追う。

「ちょ、少しくらい気にしてよ!乙女のピンチだよ?シグレー!」

なんという男だ、コイツ絶対もモテない!宣言しよう!

「これだからシグレはモテないんだよー!残念男!…あ、やばい。」

心に留めておくつもりの声が、出てしまった。

…ピタ。っとシグレの足が止まる。

「あ、いやね?…女の子には気を使った方が…」

「ふーん?」

「あ、あのね。」

やばい。シグレの周りの空気が異常に低い。そして顔が見れない。圧がすごい。


イマ マホウ ワタシ ツカエナイ ピンチ


「…ついて来い」

「はぃ…」


ハルごめんなさい。お姉さまここまでみたいです。

きっとユキお兄様が助けててくださるはず。


ひたすら意識を遠くに飛ばしながら、シグレの後ろをついて歩いた。

「ほらよ。」

ここが私の墓場…。

「はぁ、ほら。さっさと行けよ。」

「お兄様、ハル…スズは。…あ、あれ?」

目の前には小さな建物がある。ここは…?

ちらりとシグレを見るが、早く行けと視線を送られる。

つまり…?

「お手洗い?」

「…行かないなら、それでいーけど。」

「い、行きます!」

運は私に味方したあぁぁ!

ありがとう!ありがとーう!

ダッシュでシグレから離れてお手洗いに駆け込んだ。


お手洗いのドアを開けた瞬間少しひんやりした感じがした。入ってすぐに左手に手洗い場が2か所あり、向かい側にトイレが4つほど設置されていた。


コツコツコツ。

足音が大きく聞こえる。


「…?」

一番奥の片隅で、うずくまっている人がいた。波打った栗色の髪に、見覚えのある服。


「ハル…?」

どうか彼女であってくれと願いながら、声をかけた。

「…?お姉様?!」

うずくまっていた女性が勢いよく振り返った。

「ハル?ハル!!」

「お姉様!スズお姉様!!」

瞳にいっぱいの涙を浮かべたハルはスズに思いっきり抱き着いた。

「ハル…!良かった。…本当に良かった!何もされていない?怖いことは何もされていない?大丈夫?怪我は?痛いところは?!」

スズはハルをしっかりと受け止めた。

「お姉様、大丈夫です。気が付けば部屋に入れられていたの。でも、先ほど隙を見て逃げ出してきたのです。だけど、どうしたら良いのかわからなくって、ここに…」

「そう。上手く逃げてこれたのね。」

…本当に良かった。

ハルは私と違って、王女として顔が知れ渡っている。変に奴らに利用され、危なかったかもしれない。まぁ、まだ奴らのテリトリーの中だから安心はできないけど、

ハルと会えただけでも幸運だ。


「お姉様は?大丈夫ですか?」

「えっ。まぁ…大丈夫。とも言い切れないのよね。魔法を制限されてしまったし…」

枷が付いた腕をぶらぶらさせた。

「本当だ…。お姉様、この枷、私の魔法で壊して見せます!」

そう言うと、スズの腕を掴み、拳にエネルギーを集め出した。

「ちょ…!ハル待って!」

「え…?」

ハルはキョトンとしている。

「ここで、大きな音を出すのはまずいわ。外で私の見張りが待っているのよ。」

ここで大きな音を出してしまったらまずい。

外で私を見張っているシグレに変に勘づかれてしまうかもしれない。シグレは変に勘が良いから、より気を付けなくては!

「お姉様、逃げてきたわけではなかったのですね。」

「私はハルや兄様のように、武術ができるわけでもなければ、体力だってないのよ。 魔法を封じられたら何もできないわ。」

「ドヤ顔でいうことではありませんわよ。」

ハルは少し呆れたように息を吐いた。

「でも、魔法が使えれば無敵よ、たぶん。ハル、あまり大きな音が出ないよう、シンプルに力魔法で壊せる?」

「任せてください、お姉様!力魔法は得意の部類ですわ。一点強化!」


バギ。

鈍い音が鳴る。

「あら?思ったより頑丈だわ。」

ハルが少し悔しそうに呟いた。

「…思ったより音が大きいわね。でも、入ってこないから、気付いてないかも。よかった。…ありがとう、ハル。ここまで壊れれば問題ないわ。」


ヒビが入ったことで、微力だが魔法エネルギーを集め発動できる。

「水音複合魔法、無音水泡弾サイレンティアバブル

パラパラと枷が崩れ落ちた。

「音がしない…?」

「まぁね!もし知りたいなら、詳しい原理は後で教えるわ。」

「…やっぱりすごいな、お姉様は。後で教えてね!約束よ!」

「ホホホ!魔法が使える以上、何も問題はないわ。魔法エネルギーもちゃんと感じる。ホホホホオホ」

「お姉様…もう少し可愛らしく微笑んだほうがよろしくてよ?」

「アハ」

ハルに指摘されてしまうほど、気持ち悪い笑い方だったらしい。

だがしかし!魔法を使えるようになって私は嬉しいのだ。

せっかくだから、外で待っているシグレにドヤ顔を念で飛ばしておこう。


今まで魔法を封じられたことがほとんどなかったから、実は内心、泣きそうなくらい心細かったのだ。まぁ、回復したてだから、すぐさま全快とはいかないのだが、全く使えないよりはマシだ。


「ですが、外にお姉様の見張りがいるのですよね?どうしたら…。それに、私たちのほかにも国民が囚われてしまっている。せめて、お兄様と連絡が取れれば…」

「…やはり、国民もいるのね。一体どうなっているのかしら…」

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