牢獄の異変
ドゴーン!!!!!!
「「!」」
いきなり外から爆発音が聞こえた。
「な、何?!」
「…落ち着てハル。何かあったんだわ。」
キュオーンゴオーン。キュオーンゴオーン。
不協和音のような警告音が一体に広がる。
「急げ!」
「っきゃあ!押さないで!」
「うわぁーん!!!!」
急に外から大勢の足音と、声が押し寄せてきた。…どうして急に?!
「お姉様!」
「ハル、待って。」
「!」
ハルと自身に光魔法をかけ、周囲から見えない様にし、お手洗いの窓を開けた。
「はやく!」
「出口はあっちだ!」
先ほどまでは人など見当たらなかったのに、大勢の人であふれていた。
遠くから泣き声や怒号も聞こえる。
「お姉様…」
「妙ね…。ハル、飛ぶわよ」
「えっ?」
この人波では、動けない。…けど。
浮遊魔法をかけ、ふわりと身体を浮かした。人波の上なら動ける。ハルとはぐれないよう、手は繋いだままだ。
「どうしてこんなに、いきなり?」
「分からないわ。でも、嫌な予感がする…。ハル、逃げて来た時、何か聞いた?」
「いぇ。すみません。見張りが何人かいたくらいですわ…。」
「そう…。ふふ、そんなに落ち込まないで?」
「っえ、そんな顔してまして?」
「見えないけど、分かるわよ。」
光魔法でハルの姿は見えないが、表情くらいは予想できる。
「…それに、こんな状態だけど。ハルが無事で…合流出来て、だいぶホッとしたのよ。」
「お姉さま…!」
この人並みで、シグレの位置は確認できないけど、あのシグレだ。私がお手洗いにいないという異変にすぐ気づくはず。…離れなきゃ。
でも、一応魔法は使えるし、ハルとも合流できた。
あとは…。
「ここに捕らわれてるアステリアの国の人を助けて脱出するだけね。うーん、それにしても、状況が分からないわ。とりあえず、この人波がどこに向かっているのかを調べなきゃ!」
「うん…!」
ハルの手を握る手に力をいれた。
それと同時に魔力を超音波の様に飛ばし、返ってくる反応を元に、この建物の構造と人の動きや位置を把握する。一瞬魔法を使うことで、くらっとしたが、気にしてはいられない。
『結構広いみたい…。それに人口密度が、この一帯のみ異常に高い。そしてこの人波は、皆アステリアに人々…?みんな入り口?みたいな所に向かっているわ。流れは一方向ね…。』
転送魔法を発動していたはずだが、こんなにもアステリアの国民が捕らえられてしまった…?…。結界の様に何か魔法に細工をされた…?
…今度こそ、大事な人を守ろうと誓ったのに。私は何のため魔法を勉強したのだろうか。怖い思いをハルや国民に怖い思いをさせてしまった…。
「お姉様?」
「えっあ、うん。大丈夫よ!」
…うん、今は後悔している場合じゃない。
空を見上げる。うん。
この状況をどうにかしなくちゃ!
「あ、お姉様!あそこ!」
「え?…なに?」
光魔法で姿を消しているので、ハルの動作が分からない。手は繋いでるから、隣にいる事は分かるのだが…
「あ、見えませんわよね。すみません。前方の、えっと、手前から数えて4つ目の柱辺りですわ!」
「4つ目の、柱…?」
「ハノトがいますわ!」
「?…」
ハノト…?どこ…?ハノトはハルの護衛だ。綺麗なブロンドで、物腰の柔らかい青年だ。(アステリア城内でも女性に大人気だ。)
…というか、ハル!この人波からよく見つけられたって感じだよ!全然分からない!
「うわっ」
「ハノトなら、何か知っているかもしれないわ!」
「ちょ、ハル!」
ハルがいきなり手をぐっと引っ張った。どうやら彼の所に行くみたいだ。
「ハノト!」
ハルは少し声を張り上げ、彼を呼んだ。
「えっ?」
ハノトは柱側で波に抗うように立ちながら、声の主を探そうと周囲を見渡す。
「ハノト、上。」
「えっ、あ!」
彼を呼ぶ声とあわせて、光魔法のみを一時的に解除した。
「ハルさ、!」
「しー!」
ハルが手で彼の口を塞ぎ、彼の手を取った。その瞬間に再度光魔法で姿を消す。この状態で頭上を見る者も、やり取りに意識する者も居ないだろうが、念のためだ。
通路から外れ、人がいない部屋に2人を連れていき、魔法を解いた。
「ハル様、スズ様!よくぞご無事で!」
「ハノトも無事でよかったわ!」
「申し訳ありません、ハル様。私がお側に居ながら…」
「いえ、私がハノトを振り切って城を出たのだから、貴方は悪くないわ!」
「しかし、私はハル様の護衛です。それなのに…!」
「…私はこうして無事なのだから、そこまで気にしなくても、」
「何をおっしゃってるのですか!そう言う訳にはいきません。私の失態です。…ハル様をこの様な危険な所に…。私の責任です、この命を持って、」
「辞めなさい。私が良いと言ったら、良いのです。」
「ですが…」
「ねぇ、ハノト。皆はどこにむかっているの?」
「お、お姉さま、」
「えっ、あ、はい。恐らく出口に。それから、この襲撃はリドルヴァによるもののようです。」
「リドルヴァ?」
「…実力主義で多くの国を襲い主権を奪い、勢力を拡大しているアノ組織ですね。」
「そうです、ハル様。ユキ様も懸念しておられましたが。まさかこれほどとは…。それに、道中、『ユキ様が助けに来てくれた』との話を聞きました。腕の立つ者を集めここに送り込んで下さったようです。そして皆が脱出できるよう、既に手筈を整えて下さったとか。それで皆が外に向かっているのです。ですが…手筈を整えているとはいえ、あのユキ様がこのような大胆な手を取るのかと、すこし気になる部分があり...」
「そうね、兄様の手にしては少し変だわ。」
「…それに、ユキ様の使いと言う者が、牢の鍵を開け皆を逃がしたのですが、その使いの者の顔を見たことがないので、気になっておりました。ユキ様の使いなら顔を私が知らないはずはない…。急に雇ったということも考えられますが…。」
「…」
「他には?他にはどんな事を言われた?」
「うーん。他には…。いや、あと『アステリアの国民が心からリドルヴァに忠誠を誓えば、命と待遇は保証するみたいだぜ。』と言っていました。。」
「えっ?」
「国を襲ったやつに忠誠など誓うわけもないと、気にしておりませんでしたが、確かにそう言っていました。思い返すと、何故そのようなことを…」
「「…」」
「他には、何か聞いた?何かすれ違いざまに敵に言われた事とか…」
「何をと、言われましても…、申し訳ありません。私もこの人波の中、他の情報を集めようとはしたのですが…。牢を出てから、見張りの奴をシめて情報の1つ、2ついや3つ位は!…と思っていたのですが、その見張りすら見つけられず…。」
「見張りも?」
「はい…既に倒されたのか、逃げたのか…。」
「そうだ、ハルが出て来た時はどうだったの?」
「その、何というか…。私は、その。少し牢の檻が錆びていたので、こう。思いっきり…。こう…。お姉様みたいに魔法も制限されてなかったので…、その。」
ハルは少し目をそらしながら手を束ね、頭上から振り切った…。
「力で牢をどうにかしたのね…」
「ハル様…」
「い、いつもは、そんな事はしませんわよ!でも、その、私が捕らえられていた牢は私一人だったから…。それに、周りにも誰もいなくて。あのお手洗いに行くまでほとんど誰にも会いませんでしたわ。」
「ほとんど…?あ、見張りはいたのよね?」
「はい。えっと、2,3名ほど見張りらしき人がいましたわ。その方々には少し寝て頂くことにしました。」
「流石ね、ハル。」
「ハル様!その様な危険なことは…!いえ、私がお側にいれば…!」
「大丈夫よ、この位。それに、私はそんなに弱くないわ」
「存じておりますが…」
ハルにとって見張り2,3人くらい朝飯前だったのだろう。
…にしても何か違和感があるのだが、上手く頭の中でまとまらない。
歯車がばらまっている感じだ。上手くはまれば一気に回る気がするのだが…。
こういう、頭を使う作業はあんまり得意ではない。どちらかというとソ、いやお兄様が得意だ…。…頭が切れるお兄様が助けるといっても、こんなにも雑なやり方をするだろうか…。単に牢の鍵を開けて皆を逃がしても、再度、捕まる可能性だって高い。それに、私の魔法を書き換える程の実力者がいるのだ。いくら見張りがやられたからといって、情報が上層部に伝わっていないはずがない。きっと見張り以外にも、魔法である程度は監視されているはず。捕虜が全員逃げているのに、動かないはずがない。…そんな私がも分かる事をお兄様が見落とすはずもない…。…じゃあ?
『アステリアの国民が心からあいつらに忠誠を誓えば、命と待遇は保証する。』
…心からの忠誠を誓う。そんなの簡単に人の心を動かすなんてできっこない。アステリアの国民が、直ぐに寝返る訳ない。きっと、表面上ではリドルヴァに従うといっても、心の中ではきっと、そんなの望んでいない。…人もいるはず。今回、リドルヴァに結界が破られ、国を襲われたのは私の失態だ。もしかしたら、国民の王族への不信感や反感を生んだかもしれないからそういう気持ちが生まれないとは言い切れない…。
…ひっかかる。何か、そうだ。
「リドルヴァに心からの忠誠を誓えば。」ってやつだ。
心から…待って、つまり表面上だけではなく心からそう思っている人の命と待遇は保証するってことよね?…じゃあ、最初に「従う」と言っていたけど心では思っていない人はその対象にはならないということよね?
…その違いをどうやって見分けるの?
…ハノトは、お兄様の使いらしき人が牢の鍵を開けたと言っていたけど、もし、お兄様の使いではなかったら?うんうん、お兄様の使いって可能性は低い。ハノトも知らない顔だし、頭の切れる兄様がこんな危険がある方法で、国民を非難させたりはしないはず。じゃあ、牢の鍵を開けたのは誰?。
「…!炙り出しだわ!」
「お姉さま?」
「スズ様?」
「いけない。これはきっと罠よ。」
「えっ?」
「リドルヴァに本当に忠誠を誓ったかを判断するための!」
「どういうことですの?!」
「リドルヴァに心から忠誠を誓えば命と待遇は保証される。でも心からというのは難しいわ。いくら表面上では”誓う”と言っていても心の底から思っているかは測れない。だから…」
「!まさか、ユキ様が助けに来たと焚きつけて…」
「ええ、その可能性が高いわ。現に、この状況はリドルヴァにとって悪い状態よ。捕虜である全員が牢から出ているんだもの。本来ならば動いているはずよ。でもその動きもない…。ただ静かに見守っている感じさえするわ。」
「待ってください、お姉様。つまりあいつらは、リドルヴァに忠誠を誓ったかを確かめるために、兄様が助けに来たと演じ、皆を試しているというのですか?じゃあ、兄様を信じて移動している皆はどうなるというののですか?!」
「だから、罠なのよ!移動してはいけない。皆を止めなくては。皆が向かっている入り口こそが、最も危険な場所よ!」
「!」
「スズ様!」
「急いで、そこに向かわなきゃ…!二人はここにいて。行くと危ないわ。」
「何を言っているのですか、お姉様。一緒に参りますわ。私あまり魔法は得意ではありませんが、体術や剣術ならそこら辺の者には負けません。お姉様の盾になるくらいできます!」
「ハル様!盾になるのは私の役目です。私の失態で、ハル様をこの様な危険な所に招いてしまいましたが、私とてアステリア騎士団の隊長を担っております。お二人は私の命に代えてもお守り致します。」
「ハノト、あなたが守るのはハルだけでいいわ。ここにいてハルを守って。」
「スズお姉様!私は一緒に行きますわ!それに、ここにいても、お姉様と一緒に行っても危険は変わりません!」
「スズ様、ここは一緒に行動しましょう。スズ様一人で行かせたくはありません。」
グッと真剣にスズの目を見て、ハルとハノトは言い切った。
本当は二人にはこの部屋にいて、身の安全を第一に考えて欲しかった。おそらくここに捕らわれている皆を助けるにはきっとあの魔法しかない。だから、発動するまでは、ここにいて欲しかった。
だけど、あんな目で見られたら…。強く言えなかった。
…何かあれば、私の魔法で2人を守ろう。
「分かったわ…。」
再び光魔法と浮遊魔法をかけて、一気に入り口を目指す。
人が集まっている入り口らしき所…、そこは広い野外ホールの様な円形になっており、そこを囲うように高い塀と美しい細工がなされた扉がそびえ立っていた。
かなり広いはずなのに、地上は人で埋め尽くされていた。
まさに袋の鼠とはこの事なのだろう。言葉の意味をこんな所で実感したくなかった。
「!まずい。」
「お姉さま、」
「これは…!」
魔法が得意じゃない二人も感じるほどに、まずい魔力を感じる。人がいる地面を起点に、異様な魔法陣が構築されている!とても緻密に、だ。
「っ!
光の刃を、頭上に乱れ打つ。すると、刃がある特定の場所に当たると、進行形で構築が進んでいるも魔法陣も同時に浮き上がった。
「お姉様?!」
「ちょっと、細工をしたの。どんな魔法式が組まれているかこれで分かるわ。」
「スズ様…。」
主に火、それから風、力、音、光…様々な魔特性を組み合わせた複合魔法だ。しかも、火をメインに構築している。しかもこの魔法陣の大きさとなると出力も大きい。となると、ここら一帯は爆発を起こし、灼熱の炎に包まれる。文字通り炙り出しだ。そんな、ここにいる皆を焼き尽くすつもり?…そんなのさせない。
不安そうな二人を地上に下した。
「お姉様、何か私にできることはありませんか?私は魔法が苦手で、直接は魔法を解除したり構築することはできませんが、魔力くらいはお姉様にすべて渡せますわ!」
「俺の魔力も使ってください。」
「ありがとう。気持ちだけもらうけど、いらないわ。…何たって私は、天才魔導士だからね。」
ニコりと笑みを浮かべ、再び宙に浮く。
「お姉様!」
「スズ様!」
「大丈夫よ!それよりも…私が魔法を使った後、頼むわね。」
「っえ?スズお姉様?どういう…」
「スズ様…?」
ふわりとさらに空高く舞う。
うん、大丈夫。笑えてるよ、私。
魔力をもう一度この一帯に飛ばす。さっき通った通路。そこから分かれている路にさらに飛ばす。そして路に沿ってある部屋の中。階段、地下。そこに人はいるだろうか。逃げ遅れた人はいないだろうか…?
…私の感じる限り、ここにいる人はみんなここを目指しているらしい。その他の場所は空で誰も見当たらない。…シグレも。恐らく頃合いを見てここから離脱したはずだ。…この計画を知っていたのだろう。…掌で転がされていたって訳だ。…やっぱり作戦を練るのは苦手ね、私。
すーと息を吸う。んで、吐く。
…うん。大丈夫、私いけるよ。
私が魔法を勉強しているのはこの国の、私の大事な人を守るため。
捕まった国民が全員ここにいるということは、結界が壊されて怖い思いをしても、まだアステリアを、王族を信じてくれるってことでいいんだよね?もし、これが上手くいけば、私は許してもらえるってことでいい…?ちゃんと役目を果たせたってことでいいだろうか。
ねぇソラ、私頑張るから。今度こそは上手くやってみせる。
上手くいったら褒めてくれる…?
うんうん、褒めてもらえなくてもいい。そんな資格ない。
でも一目だけでも会ってくれないかな…?
私のはじめてのお友達。私のたった一人のお友達。
「うん、そろそろかな…」
もうそろそろ、このホールの様な所に、移動していた人が全員収まる。
その時が魔法を展開するタイミングだ。
自然エネルギーを感じ、魔素を感じる。そして、魔法式を構築する。この空間に展開するのは、ここにいる全員を別の場所に転送する魔法だ。今いる位置はどの辺りかは分からないけど、転送先の座標が分かっていれば問題ない。
ギィィと嫌な重い音を立て、入り口のドアが閉まった。
人波がこのエリアに集まった合図だ。
「ユキ様はどこだ?」
「おい、進め!」
「あのなぜ扉が開かないんだ」
「何を言っている?!あそこを通らなきゃ外には行けんだろ!」
「ユキ様が助けに来てるんじゃないのか?」
「おい、中に戻れないぞ!」
カッっと地面に魔法陣が展開した。その瞬間、一気に水分が飛び、本能で”焼け死ぬ”という畏怖が人々を襲った。
「「「?!」」」
ーー気付いた時には、眩い光に包まれた。
その刹那、爆音と爆風で鳴り荒れ、辺り一帯が灼熱に包まれた。
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