十五.人型の意味
嵐を抜けた後の島はあちこちが壊れて大変な状況だ。それでも、雲一つない快晴に、済んだ空気。濡れて輝く街並みは美しい。
あ、足元のぬかるみはサンダルがドロドロになって、まったく美しくないけどな。
ミーナの説明を聞きながら、宿舎のすぐ裏手、衛士隊の駐屯所に。
その脇には、空賊の人型、その残骸が置かれている。網をかけてあり、嵐でも飛ばされたものはほとんど無いようだ。
「あ」
ミーナも俺も言葉が途切れ、自然と厳粛な面持ちになる。
空賊の人型は、爆発で滅茶苦茶になっていた。神装機の技師たちはその中に薄い鉄板や鉄の管を多数見つけて、その技術に驚く一方で、それが何であるかは全く理解できないでいた。仕方ない。この世界に蒸気機関なんてないんだから。
ただ確かなのは、一人の人間が中で死んでいたという事だ。いや、正確に言うと、『多分一人』だ。
相手はジーナを殺そうとし、俺を殺しかけた(アルスは実際に殺されたようなもんだ)奴だ。それでも、彼に魂があるのなら、地獄に落ちろ、とは願えなかった。
そこを通り過ぎてやっと緊張が解けた。ミーナも同じらしく、息をついていつもの口調で話しかけてきた。
「そいや、最初に戦った時、ジョウキキカンとか思っとったみたいやな」
「あ? そうだっけ?」
「そうや。 通心では聞こえんかったけど、ジーナは確かにそう聞いたって言うとったで」
「あー」
俺は考えた。あの戦いの後も、俺は自分の前世(?)の事を人には話さないようにしようと思ったからだ。とりあえず自分がこの世界に適応するのが精一杯。余計な注目は浴びたくなかった。
「よく覚えてねえけど、パニクって訳の分からん事を考えただけだろ」
「なんや、いっぱいいっぱいやったんか」
ミーナがからかうようにくすくす笑い、俺はほっとした。
「ほっとけよ」
わざとらしく肩をいからせて大股で歩く。この話は早く終わらせたかった。
格納庫に入り、俺はスタンに、ミーナはキュリアに、それぞれ跨った。
それぞれ格納庫を出て、前回と同じように上下に位置を取った。
「「ブリムゲーデ!」」
単呪文で合体すると、ミーナの思考が流れ込んできた。まあ逆に、俺の思考もミーナに流れ込んでるはずだ。
(お、きたきた/聞こえとる?/(緊張と好奇心))
よし、こっちも聞こえてる。
(よっしゃ!/なあなあ、動きを想像してーな。(好奇心と次の手順への意識))
おう、ちょっと待ってくれ。
やっぱりミーナの思考はきっちりしててノイズがない。ただ、俺に対する好感度が高いのは伝わってきて、照れる。
俺はその気持ちを抑えつつ、全身の動きをイメージした。足を開いて腰を落とし、正拳突きを右、左と繰り出す。
(なんやそれ。タマルカの格闘技か?)
(まあ、そんなもんだ)
そんなやりとりをしながら、ミーナは俺のイメージをキュリアでしっかりトレースして見せた。これなら作業もできそうだ。
そうこうしている内に、見物人が集まり始めた。お前ら暇人か。後片付けしろ。
(まあまあ、そう言いなや。でも、こんだけ人が増えると、参道を歩いてくのは危ないな。空から行こか)
ミーナの思考と共に、合体機はふわりと浮かび上がった。島の端に寄り、神殿の山へ向かう。重いので、神装鳥単独の時よりは動きが鈍いのは仕方ない。慎重に山肌に沿って上昇し、中腹にあるナテラス神殿に降りた。
そこで待っていた神官様たちの指示を聞きながら、壊れた個所を修復していく。
この作業では、ミーナが主役。俺は彼女のイメージ通りに下半身であるスタンを制御する。
ミーナはキュリアの腕を制御し、四本指の鳥脚型の手で器用に神殿の木や竹を外し、切り、繋ぎ、縄で束ねていく。
なるほどな、と俺は思った。人の形って奴は、壊すより作る方が向いてるのかも知れないな。
(ええこと言う、やなかった、考えるやないの)
ミーナの思考がからかってきた。しまった、まただだ洩れか!
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